見出し画像

作品と市民の間にいて、つなぐ、つなげる

このシリーズは、暮らしをつなぎ続けるためのヒントについて、「ネイティブ」を知る様々なゲストをお呼びしてお話を伺っています。前回から横浜の街の中にアートに出会える場所を作るというアイデアについて、象の鼻テラスの大越晴子さんにお話を聞いています。

アートに出会う場所を作る

村上 僕自身が横浜市民なんです。象の鼻テラスのあった場所って、僕は子供のころカニを取りに行ってた場所だったんですが、なんかおしゃれな場所ができてきたなあと思いながらなんとなく横目で見てたんですけど、それが、こういう場所があるといいなっていう場所にだんだんなってきてるし、だんだん馴染んできてる感じもすごくするので、そんなお話が聞けたらと思います。

今井 12年前からこの計画が進められてるそうですけれども、当時と今を比べてみて何か変化を感じることってありますか 。

大越 象の鼻テラスの運営自体が当初は3年おき、今は5年なんですけど、運営者を採択するコンペが行われまして、私たちはその都度コンセプトを打ち出していくんです。最初のころは開館したばっかりで、知らない人が多くて、いかに知ってもらうかということが重要視されてたんです。でもだんだん知ってもらうようになったら、次はどう使ってもらうかという方に来ているという感じです。

村上 3年とか5年っていうスパンは、適切だと思いますか。10年ごとで見て欲しいとか。アートがなじんでいくスピード感って、すぐ見て感情湧き上がるものでもあるし、文化として根付くのには時間がかかるものだと思うし。3年とか5年とか、どう見てらっしゃるんですか 。

大越 そうですね。私が入ったのは1回目の3年が終わった2回目からだったんですけども、やっぱり3年ってすごく短くて、運営を採択されたその1年目、その真ん中の時間があって、その次の年にはまた次の運営するためのコンセプトを打ち出す、どうして行くべきかっていうのを思案する3年目に入るので、サイクルが早くてじっくり向き合えないところもあったりしますね。関わっていただくには時間をかける必要があります。
ここは無料休憩施設だから入場料をとる場所でもないので、知ってもらえたっていうその数値化がなかなか難しかったりします。来場者数はもちろんカウントするんですけども、それだけじゃわからない市民の方の中の認識というか、この場所が受け入れてもらえてるかっていうのが数値化できないところもあるので。

村上 そうですよね。どういうところをイメージされていますか。数値化はできないのは確かにそうですけど、例えばどういった時に手応えを感じるんですか。

大越  そうですね。文化活動への関わり方について、いろいろなチャンネルを作ろうとしてきた中で、最初の方は作品作りにボランティアさんとして参加していただくみたいなことがあるんですけども、それに参加してくださったある方が、展示するための台を作るところで身近な素材を組み合わせて、あるものを買うんじゃなくて DIY をすると言うか、そういうクリエイティブな精神にふれてすごく楽しかったという感想を言ってくれて、その後もかなり定期的に参加いただくすごく頼りにしてる方がいるんですが、そういう話を聞くとすごくやっていてよかったと思うし、その方の良い経験のひとつになったんだなって実感しますし、すごくうれしく、ありがたい瞬間ですね。

今井 そうですね。どれだけアートを広められたかっていうのは測ることで難しいですよね。でもその固定したファンができるっていうのは、広さというよりかは深さで何かを訴えるものがあったんでしょうね。

s-ZAE_0020のコピー

「アートには人を動かすものがある」

今井 大越さんはアーティストと市民の間にいて、どういうふうにその両者をつなごうとしているのですか。

大越 作品を誰かの目に触れさせるために必要な業務全般をやるのが私の仕事です。作品が単に置かれたからといって、見る人が受け止められるかって言うと、そうじゃなかったりします。たとえば作品然とした場所に設置したりとか、解説するパネルを置いてあげたほうがより理解が深まるとか、作家の言葉を直接聞ける場所、たとえばワークショップを開催するとか交流するイベントを企画するとか。作品単体をどんどん紐解いていくための手助けになるイベントを同時に考えます。分かりやすくじゃないですけど、別に分かることがいいことではないとは思うんですが、理解を深めるための手助けをする仕事という感じですかね。

村上 その中でも難しいなとか、逆にこういう時はすごくやりがいがあるな、このために「間にいたんだ」と思うような瞬間はありますか。

大越 そうですね。実は今、象の鼻テラスを飛び出して、横浜市の郊外区にある別のエリアに出かけて行き、アートプロジェクトを仕掛けるということをしているんです。その人たちに向かってアートプロジェクトがあることでこんなことが期待できるよ、というお話をする時に、アートって何?どんないいことがあるんだ?っていう懐疑的だったり、よく分からないとおっしゃる方と一緒に仕事をすることもあるんです。今、一緒にやっている方は、分からないなりに、とにかくやってみようっていうふうに動いて下さっていて、徐々にこういうことだろうか、こういうことだろうかって、その人なりに考えてくださいます。それを横で感じていると、何かわからないけれど、やっぱりアートには人を動かすものがあるんだっていうことを感じます。その動かしているものって、その人のバックグラウンドとかにもよるので「これが」っていうのが本当に言えない繊細なものではあるんですが、そういう事例を見るとすごくアートの力を感じます。

村上 「アートの力」っていまおっしゃったのは、高ければ力があるってものでもないと思うし、その力って何なんでしょうね。ちょっと難しい質問ですね。

大越 見る見られるの作品もあると思うんです。たとえば有名なルーブル美術館のモナリザなんかは鑑賞する作品だと思うんです。でもアートってもっとその活動に携わるというか、そのチャンネルっていくらでも作れると思うんです。たとえ鑑賞する作品だとしても、美術館という箱の中から外に出すことで、その場所の人が受け入れてくれるとか、そこを調整する過程で動かされるものがあると思います。そのもの自体の価値というよりは、何かそれを存在させるための手段とか、手法の中にもいっぱい可能性があると思っています。

村上 今ちまたで、 NFT(Non-Fungible Token) とか、僕は詳しくないんですけど、それもアートを楽しむっていう一つのチャンネルだと思うんですけど、どちらかというと投資っていう目的が入ってきています。それは良い面もあればちょっと残念な面もあるような気もする。そのあたりどういうふうに感じてますか。

大越 芸術家の皆さんが自分の作品を売って、生活していくためにそういう世界って重要なことだと思います。パトロン的な存在は、それで育てるというか守られてきたアーティストの存在もあるとおもいます。ただ、ちょっと株のような投資的な感じで売ったりみたいなそういう早いスピードで動いているというのは、良い悪いは私にはちょっと言えないですけど、必要なことなのかなとも思います。ただ、コレクションをしている方の中には投資とちょっと違う観点をもっている方もいて、ご自身がたくさん買うことで、その作品を守っているっていう使命感を持って買っていらっしゃる方もいます。それは、その人なりのアートへの向き合い方なんだなと感じました。

村上 今お話を伺って、アートをお金に置き換えることで、スピードがくっついてくるんだという点は初めて気づいたところですね。ポンポンポンと次から次へと売ることもできるし、逆に買って自分の使命感の中でコレクトして保護してスピードを止めることも出来るんですね。いずれにしてもそこに本来アート単体ではなかなか生み出せなかったスピードみたいなものが生まれるのかなっていうふうに思ったんだけどそういうことなんですかね。

大越 この世界観って私にはちょっと想像できない世界だったりして、パフォーマティブな作品とかも結構今あって、美術館の中にバナナ1本が腐る様子を見せるみたいな作品がちゃんと値段が付けられたりだとか、物の価値への値段っていうのは、ちょっと計り知れない世界ですね。単に売り買いするというのじゃない「宇宙」を感じます(笑)。

今井 もしかしたらそこには時代もかかわっていると思いますが、いずれにしてもアートを求め続ける人の存在は変わらないんだなと思います。次回は大越さんがかかわる人たちについてお話伺いたいと思います。

(文・ネイティブ編集長今井尚、写真・大越晴子)

次回のおしらせ

神奈川県横浜市の「象の鼻パーク」を中心に、アートによるまちづくりをすすめる大越晴子さん(スパイラル/ワコールアートセンター)にお話を伺います。アートの力がどうまちづくりにかかわるのか、お楽しみに!

The best is yet to be!

すぐに聞く

ラジオネイティブ「作品と市民の間にいて、つなぐ、つなげる」 は こちら から聞けます。


アップルポッドキャスト
https://apple.co/2PS3198
スポティファイ
https://spoti.fi/38CjWmL
グーグルポッドキャスト
https://bit.ly/3cXZ0rw
サウンドクラウド
https://bit.ly/2OwmlIT

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?