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【ある話】「春の嵐」

三月に心がボロボロになることがあった
暖かい日だったのに寒かった
脇道に止めた車の中でハンドルを握りながら
歯を食いしばりながら、独りガタガタ震えていた
「もうダメだ」と心底、思った

会社や家では笑いながらも
心の中ではどこかに消えたいと思ってしまってた
その時、進めていたいくつかのことを止めてしまおうかと思ったが
それらは空しさを感じながら、何とか進めていたけど




そんな状況の中で数日経った夜に
ある一本の電話がかかってきた

「何で?」と思った
相手の話の内容にも
そして、その電話がかかってきたタイミングにも

「何で今やねん?」と思った

眠れない夜が始まった
「眠れない」と誰かに笑いながら言っていたが
本当に眠れなかった

僕自身、かなりしんどかった
でも、電話をしてきた相手のほうがもっと辛かったはず
そう思って、必死で言葉を繋いだ

苦しんでいる人の痛みを和らげようと伝える言葉で
僕自身の苦しみを和らげるかのように 言葉を探し続けた




かなり疲れた表情をしていたのだろうか
会社の人たちや久々に会った友人たちから
「病院行ったほうがええで」と頻繁に言われる中で
何とか踏ん張り続けた

光の中で現在を過ごし
闇の中で過去を歩き続けた

今の僕に至るいくつかの事柄が
頭の中で繰り返し繰り返し再生された

何をどうやっても戻れやしないのに
後悔だけが大きくなっていった
「受け入れろ」と何回も何回も言い聞かせながら
いくつかの夜が明けていき
横たえていただけの体を起こす日々だった




次第に疲れていったある日に
別の一本の電話がかかってきた

「何で?」と思いながらも言葉を返していた僕に
相手の「その言葉」が突き刺さった
そして、その言葉が皮肉にも僕を変えるきっかけになった

いろんな事が同じ時期に積み重なっていた
この状況にいつまでもいられやしないと思った
壊れたくないと思った 
壊れられないと思った
数週間しか経っていなかったけど、限界だったし、
以前、経験したあの苦しみをもう経験したくなかった
僕にだって時間が残されていなかった

だから、リミットとなる日を決めた
その日まで、できるだけのことをして、
どうなるにしろ、一つの区切りをつけて
新しい扉を開けてしまおうと決めた
今のいくつかの問題の結果を
引きずっていくにしろ、振り払っていくにしろ、
ひょっとしたらいい結果になるかもしれない
それでも、どの結果でもその扉を開けて、くぐってしまおうと決めた




この僕に至る その過去の道のりの中で
多くの人を傷つけてしまった時期がある
そうまでして、ある一人の人と少しでも長く一緒にいたかった

その時、既に永遠は信じていなかったけれども
その時、愛の意味が分からないことを気づいていたけれども

僕の振る舞いで 友だったヤツを喪ったことも哀しかったし辛かったけど
今でも一番哀しかったのは 「それ」が終わった時だった
その哀しみは近しい誰にも打ち明けることのないままにずっと僕の中を漂っている




僕自身は、エゴの塊みたいな自分が優しいなんて思っちゃいない
でも、この世界で僕と共に生きる大切な人全てに幸せになって欲しいと思う
この僕の言葉や振る舞いで
相手が「優しさ」と感じて、癒されるというなら、それでもいいやと思うようにはなった

「辛さ」を抱えてる人が 一本横棒を加えて「幸せ」になる
「辛さ」を知っているからこそ、経験しているからこそ、
人は幸せになれるし、幸せにならなければならない
そう思う

僕も幸せになりたい もっと幸せになりたい とんでもなく幸せになりたい
抱えている後悔や空しさや苦しみや哀しみを昇華させたい
限りあるこの命の火が燃え尽きる前に愛を知りたい
この心の中 このカオスの中で はっきりと渦を巻いている欲望
この欲望のために 僕は生きている

目の前で大切な人が笑っていてくれたら、僕も笑える
大切な人が「幸せだなぁ」とつぶやいてくれたら、僕も幸せだと思える
そんな瞬間が増えていけばまた何かを見つけることができるだろう
今、そう思っている




いつか決めたリミットの日は昨日だった
いくつかの波があり、なくしてしまったものもあるけど、
今の状況はそんなに悪い状況でもない

ここ最近色々動いていたその結果、
区切りをつけることができたこともあったし、できなかったこともあった

ただ、今の僕でできることはほぼできたと思う
できなかったことがあったとしても、それが僕だったということ
言えないことがあったとしても、それも僕だということ
不足も余剰もない 今ここにある僕がいつだってすべて、だ




さぁ、新しい扉を開けよう
ある人がいつか願ってくれた僕に
そして、僕が今なりたいと思っている僕になれるよう進んでいこう




「お願いやから、アタシ以外の誰かをちゃんと見てあげてや
 大丈夫やで、アタシ、●●に逢えて幸せやったもん
 ●●は愛せない人なんかやない
 ちゃんと愛せる人やで」

何年も何年もずっと
昔大好きだった、そして、もう二度と逢うことができないその人の
その言葉に頷けずに首を振りつづけるように過ごしてきたけど
ある日の夕方の晴れた空を見上げて、もう頷いてもいいかな、と思ったんだ

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