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【詩】「春嵐」

初めて会った時の印象は強烈で
目が離せなかった、なんて
人見知りな僕にはできないことで
実際は見つからないように、と
君を盗み見してた

でも君にはお見通しだったみたいで
僕の貧弱ながら頑固なバリアを
蹴っ飛ばして覗き込んできた

何故に僕だったのか 
今でも分かれないまま
今はもう分からないまま

どっかのラノベみたいに話は急進せずに
惹かれながらも戸惑ってる僕に
何故かちょっかい出してくる君との間で
ゆっくりと関係は成立した

それは季節の悪戯だったのか
例えるならば君は春の嵐
激しさの中で柔らかい笑みを浮かべてた

君との会話や触れ合いの中で
僕は色んなことを知った
モノクロの日常だと思ってたのが
とんでもなく鮮やかだったんだって
言ったら君は呆れてた

「まだまだこんなもんじゃないよ」
そう笑った君が眩しくて
「お手柔らかに」と返したっけ

どうして僕だったのか
あの時の僕でよかったのか
今もまだ問いは浮かんだまま

テレビのサスペンスより現実は過酷だって
分かってたつもりだった僕に
時間は哀しく苦しい結末をくれた

色鮮やかだった思い出も少しずつ色褪せていって
僕の普段通りの生活は誰にも関心を持たれなくなって
虚しさの渦の中でそれでも笑い続けていて

淡々と過ごす日々の中で
ようやく涙がこぼれたときにはもう君の温もりはなくて

どうして君だったのか
どうして僕じゃなかったのか
冬が暮れるたびにどうしょうもない問いを繰り返した

それは季節の悪戯だったのか
この街に春の嵐が来て
部屋の窓の外で風が暴れているのをじっと見つめてた

「巻き込まれたと思ってる?」
そう笑った君に
僕も笑顔を返したんだっけ

あの時の僕と同じくらい
君も幸せだと思っていてくれただろうか
すがるような祈りをずっと胸に刻んできたけど

雨が上がった五月晴れの空の下
部屋の窓の外に広がる夕暮れを
とんでもなくキレイだと思った

震える手で窓を開けてため息をついた
「これからの」僕を想ってくれた君の言葉を思い出す
駄々っ子のように首を振っていた僕を思い出す

こんな弱い僕でよかった?
強い僕だったら君は興味を示さなかったかな
今もまだわからないまま

いつか君にまた逢える
そんな幻想はない ないはずなんだ
それでもこのままの僕では何も変わらないから

君の願い通りの僕になれるように
僕が思う通りの僕になれるように
「まだまだこんなもんじゃない」はず

いま例えるならば君は春の風
柔らかい笑みでいつも僕を抱きしめてくれた

そしていま
柔らかい風が僕の背中を押してくれる 



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