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【詩】「dead one」


どこを目指そうとも
どこに辿り着こうとも

愛すること 愛されること
手を繋いだときの温もりも
顔を近づけ浮かべた微笑みも

幼い頃 父の歩くスピードに慌ててついていった
そんな僕を柔らかく見つめながら
ペースを落とし手を差し伸べてくれたこと

少し前 僕の歩くピッチが早すぎると口を尖らせた
僕を好きだと言ってくれた人に
振り返り笑いながら手を差し出したこと

そんなにたいしたことのない僕でも
想い出は忘れてしまうぐらいにある

幼い頃 初めて嘘をついたそのとき
僕と同じ高さの目線になって叱った母に
僕はただ怯えながらカーテンにしがみついていた

だいぶ前 もう何度目かも分からない嘘をついた
「嘘をつかないで」と大粒の涙を零した人に
僕は何も言えずその涙の落ちる場所を見つめてた

でも「本当」がもっと他人を傷つけるなら
僕はこれからも嘘を重ねていく
たとえそれが間違いだと言われても

生きること 生かされること
光が差し込むこの部屋の暮らしも
無機質な白い箱の中の生活も

幼い頃 出て行くことが許されなかった白い部屋で
弱い身体でそれでも精一杯はしゃいだ仲間たちは
もう二度と逢うことが叶わない場所へと旅立った

何日か前 ただ数分の時間を取り戻すために起こった事故で
「これから」を奪われた人たちの過去をたどりながら
僕に残されている時間の不確実さを改めて思い知った

病みはそっと僕を蝕んでいくだろう
出来る限りの静けさで夜明けを待てばいい
その先は「あるがままに」

忘れてはいけないことがある

どこを目指そうとも
どこに辿り着こうとも

誰かを愛しても
誰かと過ごしても

いつか僕は僕に還る
いつか僕は独りになる

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