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僕が昔ハマっていたゲームの話

ある平日の夜のこと。
学校から帰った僕はランドセルを勉強机の上に放り投げ、宿題もろくにせずそのまま2段ベッドの上の段に寝転がって「ポケットモンスターパール」をプレイしていた(下の段は妹のものだ)。
しばらくすると玄関のドアが開く音がした。多分おじさん(当時の母の彼氏のこと。話すと長いので今は割愛する)が仕事から帰ってきたのだろう。廊下を歩く足音で分かる。
帰ってきたおじさんはリビングに通じる廊下を渡り、その途中でいつものように子供部屋を覗きに来た。
「ただいまー」
「あ、おかえり〜」
「今日なー、俺新しいゲーム買ってきたぞ」
「え!マジで!なになに!!」
僕がDSを放り出してベッドから身を乗り出すと、おじさんはにやにやしながらカバンからゆっくりと薄くて四角い箱を取り出した。
「ほれ、

今日の宿題終わったらやらせてやるよ」


ラチェット&クランクFUTURE

PlayStation3販売から1年後の2007年11月に発売されたゲームで、ジャンルはアクションRPG。
本作は2002年に第1作が作られ今なお続く人気シリーズ「ラチェット&クランク」の第6作目にあたる。
パッケージイラストに描かれているのは背を向けて立っている狐耳の男「ラチェット」と、彼に背負われている相棒ロボット「クランク」。
この1匹の獣人と一機のロボットが宇宙を大冒険するというのが大まかなストーリーではあるのだが、正直に言うと僕はストーリーをほとんど理解していない。
何せ僕は当時ラチェット&クランクシリーズをこれを除くとひとつしかやった事がなく、その上「ラチェット&クランクFUTURE」自体のあらすじもご覧の有り様だ。

ラチェットとクランクはズガガ銀河のハイテク惑星ケルヴァンの都市メトロポリスでのんびりと暮していた。しかし、ある日彼らは帝王タキオン率いるクラグマイツ族の襲撃にあってしまう。タキオンの狙いは、ロンバックス族の最後の生き残りであるラチェットを抹殺し、「ロンバックスの謎」という強力な兵器を手に入れることだという。なぜ、ロンバックス族はラチェットを除き滅びたのか、ロンバックスの謎とは何なのか。様々な謎が錯綜する中、事の真意を探るために、ラチェットとクランクは新たな冒険に出発した。

wikipedia

なるほど全く分からない。
ズガガ銀河だのクラグマイツ族だのロンバックスだの、一見さんお断りと言わんばかりの専門用語のオンパレードである。
そして当然ながら当時の僕もこの作品のストーリーは全く理解できなかった。
しかし、僕は全くストーリーが理解できないままこのゲームにどハマりし、全くストーリーが理解できないまま400時間ほどプレイし、そしてとうとう最後まで全くストーリーが理解できなかったのである。
つまりストーリーは(少なくとも僕にとっては)このゲームにおいてあまり重要な要素ではなかったのだ。
ではこのゲームの何が僕を強く魅了したのか。
それをたっぷりと語っていこうと思う。


御託はいい!これを見てくれ!

このゲームで1番最初に流れるムービー。久しぶりに見返してみたのだが、未だにムービーの内容を全部覚えていた。このゲーム何周したんだよ僕。

ねえこれ凄くない?超凄くない?
グラフィックが綺麗過ぎるだろ!もう完全に実写だろこれ!
え、そんなことない?今のゲームに比べたら?
...まあ、確かに今のゲームに比べたら多少グラフィックは劣るかもしれない。だがこの画像を見て欲しい。

ああ懐かしきコトブキシティ。最新作であるポケモンレジェンズアルセウスでここが拠点になっていることは、長らく会っていなかった昔の友人に再開したような感慨を僕に与えてくれた。え、リメイク?...知らない子ですね。

僕はついさっきまでこんなゲームをやっていたのである。もちろんグラフィックだけがゲームの評価を決めるとは全く思っていないし、ポケモンDPは文句無しの神ゲーだ。異論は認めない。
だかしかし、僕はテンガン山やりのはしらを初めて見て「うおお柱がめっちゃ飛び出して見えるぞ!スゲー!」なんて驚いていた少年だったのである。
ならば、そんな少年にとってあの超美麗グラフィックが「僕はほんとうに未来に来てしまったのか?」と疑いたくなるほどの驚き、そして感動を与える代物であったことは想像に難くないだろう。
さすがPlayStation3、当時最高峰のスペックを誇っていたゲーム機の力は凄まじい。
そして当時定価で5万円近くしたこの高級ゲーム機を(自分がプレイするためとはいえ)わざわざ買って僕の家に置いてくれたゲーム好きのおじさんには感謝してもし足りない。
そしておじさんが持っていた17禁,18禁のちょっとアレなゲームをこっそりやらせてくれたことにも感謝してもし足りない(母には絶対に見られないようにプレイしていた)。


アクションRPGとして洗練されすぎている

...のだが、このゲームのアクションRPGとしての面白さを言葉にして伝えるのは非常に難しい。
ガラメカと呼ばれる武器を自分の好みに合わせて強化して敵をなぎ倒す爽快感は素晴らしい。
一本道のステージ構成かと思いきや至る所に隠しルート、隠しアイテムがあり探索の楽しみが尽きない。
ステージのバリエーションも豊富で、空を飛んだり海を泳いだり、しまいには宇宙船に乗り込んで宇宙海賊とドンパチやったりもする。
流石にラチェット&クランクシリーズを過去5作品作ってきただけあって、これまで蓄積してきたゲームとしての面白さのノウハウをこれでもかとつぎ込んでいるのをプレイしていてひしひしと感じるのだ。
...とまあ頑張って色々書いてはみるが伝わっている気は全くしない。
いくら言葉を尽くすより実際にプレイしてくれた方が早いのが分かりきっているからだ。
なのでもう買って欲しい。買ってくれ。ブックオフに行けば500円位で買えるから。頼む。なんなら僕が買ってプレゼントしてもいい。

致命的なバグが切り開いたゲームの新たな地平

さて、ここまで記事を読んでくれた諸君はこのゲームの面白さに気づき既にこのゲームを手に入れようとAmazonやメルカリでポチったりしてくれていることだろう(そうであって欲しいと切に願う)。
だがちょっと待ってほしい!
確かにこれは文句なしの良ゲーではあるのだが、ひとつ注意しなければならない点があるのだ。
このゲームには致命的なバグが存在する。
一歩間違えれば一切前に進むことができない状況でのオートセーブ、所謂詰みセーブが発生してしまう恐ろしいバグ。
しかしそれでいて、このゲームの面白さを何十倍にも引き上げる魅力的なバグ。
その名も…壁登りバグ!!
...とまあこれだけ聞いても全然ピンと来ないと思うので一応解説しておくと、ゲーム内で使えるレイザークロウという武器をステージ内の壁に密着して撃ち続けるとなんとフィールド上の壁を登れてしまうというバグだ。
このバグの何より素晴らしい点はずばり箱庭からの脱出である。
それまでこのゲームは一本道のシステムで進行していた。
隠しルート、隠し部屋などのギミックはあるとはいえ、設定されたスタート地点から、設定されたゴールへ向かって進んでいくという大まかな流れは変わらない。
定められた道の両端にはだいたい大きなビルとか大きな岩とか、あるいは真っ暗闇の落とし穴があったりする。
脇道横道大いに結構、しかしそれはゲームが許容する箱庭の中での話だったのだ。
しかしこの壁登りバグにはゲームが作った箱庭を破壊する力があった。
高いビルが、岩が行く手を阻むのならそれを超えて行けばいい。
穴を超えたければ近くの高い場所まで登ってそこから飛べば良い。
しかし無制限にどこへでも行けるというわけではなかった。
このゲームには弾数のシステムがあり、武器を撃って壁を登るというやり方をとる以上弾薬が尽きるとそれ以上高い場所には行けなかった。
だがその制約もまたこのバグを面白いものにしていた。
目の前にある高い高い塔、真正面から登っても頂上に着く前に弾切れになってしまう。しかしその隣にある少し低めのビルにまず登り、そこから乗り移るようにして本命のビルに登れば頂上にたどり着けるかもしれない...
というように、壁にぶつかる度に僕の頭はフル回転して壁を登る道を探していた。
しかし一体何が僕をそこまで駆り立てたのだろう。
壁を超えてもその先にレアアイテムや隠しルートなど何も無い。
そもそもゲームが想定している遊び方では無いからだ。
しかし僕は止められなかった。
ただただこの壁を登った先にどんな景色があるのか知りたかったのだ。
純粋な好奇心。
壁の先には色んな景色があった。
普通のプレイじゃまず見られないような素晴らしい街並みもあったし、完全にバグったゲームの裏世界のような場所もあった。
そして先述したような詰みセーブ、つまり袋小路にはまり込んでしまい2度と抜け出せなくなってしまうこともあった。
そして散々このゲームを遊び倒した挙句、最後には保存されている全てのセーブデータが「詰み」の状態になった。

在りし日の面影を求めて

僕は一体このゲームを合計で何百時間遊んだのだろう。
平日は小学校から帰ってきてすぐゲームを起動し、夕飯時になって母から怒られるまでやっていた。
休日はそれこそ一日中家に引きこもってゲームばかりしていた。
本当に、本当に楽しかった。

でも大人になってしまった今、あの時のように一つのことに没頭する機会はほとんどなくなってしまった。
やるべきことはどんどん増えて、やりたいことはどんどん減っていく。

でも僕はまた見たいと願うのだ。

あの壁を登った先にある景色を。

あの感動と興奮を。

もしかすると僕はそのために生きているのかもしれないと、ふと昔を懐かしんで思うのだった。

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