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逍遥日記

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日記。
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逍遥日記#12 労働じゃない労働

逍遥日記#12 労働じゃない労働

散歩:これから。

労働が労働でなくなる瞬間がある。

例えば今日のような、五畳くらいの小さな和室でおじいさんおばあさんと一緒にしみじみワカメの茎を裂いてる時がそうだ。

「おまん、おまはん(あなた)」とか「うんまいじょ(おいしいですよ)」とか「いける(大丈夫)」とか、阿波弁の混じる会話や昔話に耳を傾けながらワカメの茎をぴりぴり割き、葉を針で切り裂いて干していく。
お年寄りというのもあり方言が強く

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逍遥日記#11 いもっふ

逍遥日記#11 いもっふ

散歩:18692歩。

らっきょうの仕事が予定より早く終わったので、今日は鳴門金時(芋)の植え付けをやっていた。植え付けなら玉ねぎで散々やったけど、作物が変わると勝手も違うので面白い。

マルチ(ビニールがけされた畝)に開けられた縦長の切れ込みに向かって苗を差し込んでいく。苗は柔らかい木の枝のようで、これからあの大きくて甘い鳴門金時が生えてくるとはにわかには信じ難い。

しかし久々に腰にくる作業。

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逍遥日記#10 HOME

逍遥日記#10 HOME

散歩:雨により中止。

雨を眺めているだけの長い1日だった。

傘をさして散歩するには雨足が激しく、持ってきた本もこちらの古本屋で買った本も読み終えてしまったので、物思いに耽る以外に時間をやり過ごす方法がなかった。

鳴門の空気にもずいぶん慣れて普通の生活を送っているものだから自分が期間限定の旅人であることを忘れてしまいそうになる。
1ヶ月近くここで暮らして、顔見知りも増えて、旅の中にいつもあった

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逍遥日記#7 目眩モカマタリ

逍遥日記#7 目眩モカマタリ

散歩:12348歩。

薄暮の迫る街を歩いていると、朝や昼には気づけなかったものを見つけることがある。
例えば大通りの喧騒が遠く聞こえるくらい寂れた小路にひっそりと佇む喫茶店なんて、とてもじゃないが明るいうちは気づかない。

店に入ってすぐ正面の壁に『真珠の耳飾りの少女』と『牛乳を注ぐ女』が飾ってあった。
お堅い場所なのかと思いきや、使われていないストーブの上には少年ジャンプが置いてある。

テー

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逍遥日記#8 曖昧境界

逍遥日記#8 曖昧境界

散歩:10621歩。

今朝は7時に起きた。
早朝覚醒がなかった。ここしばらくで初めてのことだ。
原因は全く分からない。

もうすっかり4-5時起きの生活にシフトしていたものだから長く眠れたことが嬉しい反面、これが今日だけで終わってしまうのではと不安も覚える。

あまり深く考えないようにしよう。

休日だったので昼まで洗濯をしたり『ダンジョン飯』と『狼と香辛料』を観てだらだら過ごしていた。イヅツミ

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逍遥日記#6 消える街

逍遥日記#6 消える街

散歩:11316歩。

今日も特に何をするでもなくスーパーに買い物に行ったり、海辺を散歩をしたり、本を読んだりして過ごしていた。

途中、サビ猫を見かけたのでしばらく遊んでもらった。

もう3週間もここにいる。
去年も2週間同じ場所にいたから、この街のどこになにがあって、全体的にどんな雰囲気なのかもただの旅行者だったころよりはずっと深く把握できている、と思う。

鳴門はパン屋とカフェがけっこう多く

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逍遥日記#5 夕景、鱏の影

逍遥日記#5 夕景、鱏の影

散歩:10492歩。

早朝、ルームメイトが身支度する音で目を覚ました。これから彼らは帰るのだ。

荷物の多い人だったから、外に停めてある車と部屋を何度も往復していた。全部の荷物が運び出される頃には部屋はずいぶん広くなってしまって、急に空っぽになるものだからそこには不在の違和感のようなものが残っていた。

仲良くなった人と「またどこかで会いましょう」と、挨拶をして別れた。
見送る側というのはまだ慣

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逍遥日記#4 もーいっかい!

逍遥日記#4 もーいっかい!

散歩:雨のため中止。

今日はおてつたび最終日……になるはずだったのだけれど、色々あって6月くらいまで延長することになった。
これで旅費をもう少し浮かせられる。
行きたいところを増やしたり、旅先でちょっとだけ贅沢をしてもいいかもしれない。

偶然の導きによるものとはいえ、農家さんや犬猫ともうしばらく一緒に居られるのは嬉しい。

同じタイミングで参加していた他のおてつびとは明日みんな帰ってしまう。

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逍遥日記#3 春嫌いの、春の唄

逍遥日記#3 春嫌いの、春の唄

散歩:6475歩。

今日は風の和らいだ暑い日だった。
先日が台風を思わせるような激しい風の日だったので、その落差に体がついていかない。

シャツと帽子の下が汗ばんでいくのを感じながら自転車を漕いで渡し船の待つ港へ向かった。
宿舎の隣にあるポカリスエットスタジアムでは徳島のサッカーチーム「徳島ヴォルティス」が試合をするらしく、応援に来たサポーターと思しき人たちとすれ違う。

晴れた日に蛍光色のタオ

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逍遥日記#2 電気羊

逍遥日記#2 電気羊

今日は散歩には行かずにずっと宿舎の自室で本を読んでいた。というか、外出用のジーンズを洗濯して外に干していたので、乾くまで部屋から出られなかったのだ。
ズボンはこの1着と部屋着用の短パンしかなくて、短パンは着て歩き回るにはやや薄すぎた。

荷物を最小限に抑えているからこれは仕方がないのだけれど、無駄な用意のいい私は旅先では雨や暇な時間、あとはこういう状況(着る物がなくて部屋から出られない等)に見舞わ

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逍遥日記#1 クラゲ浜

逍遥日記#1 クラゲ浜

散歩:16245歩。

農園からの帰り道、風の穏やかな日にはいつも立ち寄る砂浜がある。
鳴門サイクリングロード沿いの、突堤で区切られた400メートルくらいの砂浜で、紀伊水道を挟んだ向こうに和歌山の島影がぼんやりと見える。

いつ来ても数人の釣り人を除いては誰もいなくて、ここぞとばかりにうろうろしたり寝転がったりして日が傾くまで好きに過ごすのが最近の楽しみだ。

この砂浜は少し変わっている。
打ち上

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