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その最高のおもてなしは

 扉を開けるとそこには、輪飾りやら粘土やら、様々な手作りのもので溢れていた。が、それはあまり上等とは言えなかった。輪飾りはところどころ輪が潰れており、色の並びもまばらだ。粘土細工も正直、何を形作っているのかわからない。しかし、そこには様々な工夫や細工を凝らそうとした跡が見える。眩いばかりの真剣な心がこめられており、私には、神々しいまでの輝きが見えた。

「おやおやまあ、いいできだね」

 私の感想を聞くと、隆は、いばるように胸を張って

「聡とゆかちゃんも手伝ってくれたんだぜ。ばあちゃんをびっくりさせたかったんだ」

 うんうん、と頷き、手作りの写真立てを見る。家族の写真が微妙に斜めに収まり、ボンドでつけた飾りは端が少々はがれていた。

 ちょうど私が座るのであろう席の背後、その壁面には『ばあちゃん、たんじょび、おでめとう』と書かれた模造紙が、華やかに飾られていた。

 昔なら、細かい指摘をしてしまったかもしれない。嫌な顔をしていたかもしれない。手作業の待つ、繊細な美を意識して。そして、こだわりという、見栄えから。でも、この真心のこもる作品の光に、何を指摘することがあるだろう。

 伝えたいのは、ただ、一言

「ありがとう」

 隆はそれを聞いて、へへへ、と鼻の下を指で擦りながら、照れた様子だ。

 私はその陰のない笑顔を、誇らしげに笑みを浮かべる顔を見て、不思議と涙腺が緩み、心から満たされる気持ちを、感じて、いた。

いつも、ありがとうございます。 何か少しでも、感じるものがありましたら幸いです。