[短編小説]GTO物語 ターン編6
「ここだよ」
夏生は言った。
入り口は木製の引き戸で、半透明の磨りガラスからは店内の明かりと
客の会話する音が漏れ聞こえて来た。
入口の脇には、看板が掲げられいてその看板には毛筆の書体で「梵」と一文字書かれていた。
夏生が引き戸を開けると
「いらっしゃい!」
カウンターに立つ店主の料理人が挨拶をした。夏生の顔を覚えてるのだろう、『また来たね』といったニュアンスが含まれていた。40代半ばくらいで白い法被に和帽子を被っている。和帽子からはみ出た髪は短く刈り上げられいるが白髪が混ざったいる。
アルバイトらしき店員も店主の後を追って「いらっしゃいませー」と続けた。
「日本酒とおでんが美味しいんだ」
近寄ってきたアルバイトらしき店員に誘導されて、カウンターに夏生と女は座った。
「何飲む?」
「うーん、私あんまりお酒強くないんだよね。じゃあ、レモンサワー」
女は小料理屋まで歩く間に少し冷静さを取り戻した様だ。コートを脱ぎ、鞄を椅子にかけた。
「じゃあ、レモンサワーと生ビールとおでんの盛り合わせ、鰺のなめろう」
と注文した。
カウンターが5席にテーブル席が3つのこじんまりした店内だ。テーブル2つはすでに埋まっていて。そのうちの一つは中年男性サラリーマンが仕事の話をしていた。
少しすると飲み物とお通しが運ばれて来た。
「とりあえず、乾杯!」
そう言いながら、生ビールジョッキを掲げたので女は自分のグラスを控えめに当てた。
「乾杯」
気が進まなそうに女は返し、一口レモンサワーを飲んだ。
「あっ、美味しい」
そのまま、おおよそグラスの半分を一気に飲んだ。
「ぷはぁ~」
「おまえ、一気にそんな飲んで大丈夫なのかよ?」
「イライラしてたから、しょうがないじゃ無い」
「何をそんなにさっきからイライラしてるんだよ?」
夏生は運ばれて来た鰺のなめろうに箸を伸ばしがら尋ねた。
「もう!聞いてよ!さっきまで相葉と会ってたんだけど!もうほんとにあり得ない!」
と勢い良く切り出した。その後、夏生は女の勢いに押されてほとんど聞き役に回った。
つづく
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