[短編小説]GTO物語 ターン編10
相葉裕樹はごろごろしながらスマートフォンを手に取って眺めていた。スクリーンの向こう側には好みの女性が溢れかえっているのに、何故現実はそうならないのかと常々不満に思っている。
人生の時間がないのにスマートフォンを眺めることに時間を費やしていいのかと自問自答するが取り立てて何をしてもいいかわからず、今までと同じ様な生活を送っている。
井上夏生の紹介で加藤優希と何度かデートしたまではよかったんだが、さすがに昨日はやらかしてしまった。女性に『胸が無いはまずい』。人生最大のチャンスを自ら逃してしまった。全く無意識に言葉が飛び出て、言ったことに自分でもびっくりしたくらいだ。しかし、自他共に認める巨乳好きである。いや、すこし気が緩みすぎてかもしれないと少しだけ反省してる。
童貞の男性は童貞のまま三十歳を迎えると魔法使いと呼ばれらしい。僕が後三年で三十歳だが魔法使いと呼ばれる心配は無さそうだ。
スマートフォンの画面をスクロールする。ディスプレイに映し出される女性はみなあふれんばかりの胸を保有してにも関わらず、なぜ優希には胸が無いのか。
3ヶ月前、初めてデートしたときにおかしな話なのだが、お互いに僕は優希のことを『おまえ』優希は僕のことを『あんた』と呼ぶことに決めた。お互い名前が『ユウキ』なので相手の事を呼ぶと自分で自分を呼んでいる様なおかしな気分になるからというのが理由だ。
中学生でもないのに『おまえ』『あんた』で呼び合っているのもおかしな話だ。
優希とはなんとなく気が合った。僕は優柔不断な性格だけれども自分で決めたいタイプであるが、彼女は僕に輪を掛けて優柔不断だった。レストランに入って注文に迷っても必要以上に急かされる事も無いし、彼女の決定を待つのも苦にならなかった。
いままでにデートした女性には『男だったら迷ってないで早く決めてよ』なんて事を言われたことが何度かあった。『男だって迷うでしょ』と内心思いながらも焦って適当な注文をしてしまっていた。男はこうあるべき理想像を持っている女性とはその後も会話がかみ合わなかったり、あまり居心地が良くなかった。
優希とは初めて会った時、一目見たときから僕のタイプだった。デートを重ねるごとに好きになっていったし彼女の僕の事を悪く思っていない感触があった。
でも、このまま深い仲にならなくて良かったのかもしれない。
近い将来、優希を深く悲しませてしまうことになるから。
『余命半年かぁ』
(つづく)
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