[短編小説]GTO物語 ターン編15
いくつかあるうちの出来るだけ客が少なそうな喫茶店を選んだ。平日の昼間に制服姿の女子高生と行動を共にするのは人目が気になる。裏通りの喫茶店に入るまでも通り行く人からちらちらと視線を送られるのが気になった。
喫茶店はチェーン店ではなく昔から続いてそうな趣のある店にした。ドアを引くとコーヒーのよい香りが鼻の奥まで通った。テーブルや椅子、内装は木製で店全体が濃い茶色、古い本棚には漫画本が並んでいてゆっくりとした時間が流れている。店内に入っても特に「いらっしゃいませ」の案内も聞こえず。自由に席を確保していいタイプの店だ。
彼女を奥に座らせて、僕は通路側に座った。
僕はアメリカンコーヒーを頼んだ。彼女は迷いながらフルーツパフェを頼んだ。
「さっきラーメン食べたばっかりじゃない?」
僕は言った。
「そうなんですけど、甘いものはなぜか食べられるんですよね」
注文を取った中年の女性が厨房の方へ帰って行った。普段着のまま店に出ていていかにも家族経営といった店だ。僕らの他には近所から着たであろう初老の男性が一人だけだ。もう少ししたら正午になるからもっと店内が賑わうはずだ。
コーヒーとフルーツパフェが注文を取った女性が運んできた。
「少し食べます?」
と彼女は言った。人懐っこいというか、あまり人見知りしない性格の様だ。僕はどちらかというと人見知りしがちで、初対面には遠慮がちになってしまうので相手がフレンドリーな性格の方がやりやすい。
「あ、じゃあ少しちょうだい」
「え?なんにします?」
おなかはラーメンに満たされているので食欲はなかったが、せっかくだがら少しもらった方が仲良くなれそうな気がした。
僕は浮かれていた。こんなかわいい女子高生と知り合って一緒に喫茶店に来るなんてなんてツイているんだ。ただのアメリカンコーヒーがとても味わい深い。高い香りが鼻の奥まで通って行き、一口を口に含めばその香りに加えて芳醇な旨みとほどよい苦さのオーケストレーションを味覚と嗅覚を超えた感覚で僕は味わっていた。
小柄でやや細身、くっきりとした二重まぶた、唇は薄いが口は大きい。化粧はしてない。髪は染めておらず黒髪を胸の下あたりまで伸ばしていた。ブレザーにシャツを着ていたが胸の隆起が大きいせいかシャツが不自然にひっぱられて苦しそうだった。
「名前なんて言うの?」
「えー、なんでわたしの名前知りたいんです?」
「え?なんで?教えてよ」
「都築です。都に築く」
「名字だけ?下の名前も教えてよ」
「えー、なんで?名字だけでいいじゃあん、先にお兄さんの名前教えてよぉ」
彼女は言った。やや甘ったれた話し方に少しかすれた声が心地よさと共に年齢とは不釣り合いにセクシーに感じた。
「相葉裕樹」
「えー、すごいフツウー」
たわいもなく二人とも笑った。まだあって間もないし、人見知りな僕としては奇跡的にスムーズが会話が繰り広げられていた。いつものように何を話そうか必死に頭を回転させる必要もなかった。彼女とは波長が合うとか歯車がかみ合ってるとかそういう表現が当てはなりそうだった。
(つづく)
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