見出し画像

知らない一面

某月某日

アジサイがここ数日でずいぶんと色づいてきた。細かなグラデーションと奥深い色合い。どことなく艶っぽさも感じる。

麻布十番の十番稲荷神社の前を通りかかると集財(あじさい)祭が開催されていた。鳥居前に立て掛けられた看板によると「アヅサイ」から転じて「財を集める」、すなわち金運アップにご利益があると言われているらしい。知らなかった。

アジサイの艶やかさと、金運アップということばの俗っぽさが頭の中で結び付かないなと思いながら神社をあとにした。

某月某日

海外滞在中の友人とビデオ通話をした。ちょうど現地の友人宅にホームステイしているタイミングだった。

若い夫婦と3歳の男の子、親戚のおばさんの4人暮らしだそうで、電話の奥で幼い子どもが遊んでいる声が聞こえてくる。たまに画面を覗き込んでは見知らぬ女(=私)を見て、けたけた笑ったり、逃げまどったりしている。かわいい。

電話の最中、友人が画面外に顔を向け「No. Sit down boy?」みたいなことを言う場面があった。言うことを聞かないようで両者しばらくのにらみ合い。根負けした友人が「やれやれ」みたいな表情をして意識をこちらに戻す。

注意するときの顔つきがいっぱしの大人というか、親の顔をしていた。よっぽどかわいがっているらしく、その子の話をするときはいつも顔の筋肉が弛みっぱなし。かわいがっていることを知っているだけに、咜り顔を必死につくっている様子がおかしかった。

よく知った人間の知らない顔を見てご満悦の私に、友人は「いい経験させてもらっているよ」と苦笑いしていた。親戚のおじさんみたいなことを言っている彼は、まだ25歳の若者である。


20230525 Written by NARUKURU

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?