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暮らしの週末

某月某日、金曜日

午後休をとった。1カ月前、先々の予定を見て「この辺できっと疲れが出るから午後休暇を入れておこう」と思って取得していた休みだ。特別な予定はない。

歯医者で定期検診をうけて、ツルツルの歯とともに考える。さて、何をする?いろいろ案を出しながら、行っていなかったブックカフェがあったことを思い出し、歩を進めた。

1、2年前にできたらしいその店は、最寄り駅から歩いて1分くらいの超駅チカ。ただ、その店に用がなければ見過ごしてしまいそうな小道の、建物の2階あるのでなかなか気づけない。オープンな雰囲気なのに秘密基地みたいだ。

店に入ると店主さんとお客さんの会話、それからラジオの音が耳に入ってきた。こちらに気づき挨拶してくれた店主さんは、年季の入ったデニムにグラフィックTシャツ、ざっくり編みのニット帽というラフな出で立ちのおじさんだった。奥さんらしき人もいる。お二人の雰囲気と、全開の窓から入る風の気持ちよさに、力がすうっと抜けていく。いいところだ。

店内に目を移す。入ってすぐ、小さく区分けされた壁一面の本棚と、子どもでも手が届くくらいの低い本棚がある。奥には別の本棚とカフェスペース。席はすべて窓際につくられていて、昼下がりの柔らかい日が差し込んでいる。

置かれているのは新刊本が中心なようだ。絵本、文芸評論書、エッセイ、レシピ本、地政学の本、ルポルタージュ、雑誌、小説、ZINE、漫画、本当に幅広いラインナップ。隅から隅まで、背表紙を指でたどるようにして見ていく。

気になっていた作家さんの、見たことがなかったタイトルのエッセイを見つける。書き出しを読んで、まさにいま、読みたい気持ちが大きくなる。購入して、カフェスペースでお茶とホットサンドをお供に読んだ。口元が緩んでしまうような、優しくてまっすぐで可笑しくて、勇気をくれる本に出会えた。嬉しい。

結局、2時間くらいお店に滞在して、あとにする。ここ1カ月半くらい、仕事モードの時間が1日の大半を占めていて、悪くないけどいい状態でもないんだよなと思っていた。けれど、お店を出る頃にはゆったりモードに切り替わっていて、晴れやかだった。

いいお休みだった。

某月某日、土曜日

一昨日くらいまで、この土曜日はどこに行こうかと考えていた。が、昨日のブックカフェでの時間を思い返し、きょうは家周辺でゆっくり過ごすことにする。

休日に家にずっといる、ということが本当に少ない。時間を見つけてはまちへ繰り出し、歩いたことのなかった道を思うままに進んで、気になるお店や公園によりみちしている。でもきょうは近所で過ごす日。手始めに家の掃除や洗濯、放っておいていた雑用をこなす。

パタパタ働いて、遊んで、でもそれだけじゃこころが満ちない。暮らしの要素が、大事だ。仕事も遊びも好きで、そういうことができているときは充実感を得られるのだけど、床を水拭きする時間や、好きなご飯をつくる時間や、バスタオルをパンパンとふって干す時間も、同じようにほしい。欲張りだけど、やっぱりほしい。

家事が好きなわけじゃない。でもやり終えると清々しくて、仕事や遊びへの活力が湧いてくる。それから、プラスアルファの家事をできていないときの自分は、自分や人を大事にできていない気がする。家事を通して自分の暮らしを整える以上の何かを得ているのかもしれない。

いろいろと終えて、ちょっと疲れたので昼寝。ジムで軽く運動して、夜ご飯は好物のおいなりさんにした。新調したフライパンで錦糸卵がすごくきれいに作れて、にんまりした。

某月某日、日曜日

朝起きたらお腹が空いていた。昨日残しておいたおいなりさんと、お味噌汁を食べる。酢飯とおあげが馴染んでいて、うまい。

きょうも遠出はせず、家周辺で過ごすことにする。読みっぱなしになっていた本を数冊と、手帳をリュックに入れて図書館へ向かった。靴下にサンダルと、軽やかな足元にわくわくする。

先日母から教えてもらった岩村暢子さんの本や、最近読んだエッセイで出てきた本を探しつつ、椅子に座って自分でもってきた本を読み返す。本を買ったら一度に2周くらいは読むのだけれど、前は目につかなかった描写や表現があってどきどきした。確かめるように何度も読む時間が、とても楽しい。

お昼どき、お腹が空いたので昼ご飯のメイン食材を調達しに肉屋に行く。トンカツ用の肩ロース肉が目に入った。厚みのある肉は買いつけていない。うまく調理できるか怖いから。でも、素晴しいフライパンを家に迎えたいま、ああいう食べごたえのある肉に挑戦したくなっている。意を決して購入した。

初めて作ったトンテキは、思いの外簡単で、とってもおいしかった。

あしたからの私は、自分と人を大切にできそうな気がする。


20240519 Written by NARUKURU

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