開業(準備)費の①内容、及び②償却について

※以下内容は個人事業主を前提とした記載である。

①-1開業費として認められる費用の内容

開業のために必要となる費用で、広い範囲の費用が開業費として認められている。

認められるのはあくまで開業のためにかかった費用のみであるということであり、本当に開業のためにかかった費用であるということを第三者(税務署)へ説明できる必要がある(実際に必ずしも説明が求められるわけではない)。

例:開業セミナーへの参加費用、開業場所の調査費用(旅費等含む)、開業のためのチラシ(HP)、広告などの制作費・広告宣伝費、名刺作成費用、事務所の賃借料、電話・ネットの通信費、備品(消耗品)費、水道光熱費等

※10万円以上の固定資産については①-3参照。

関連条文:所得税法第7条

①-2開業費として認められる期間

いつからいつまでにかかった費用を開業費としてよいのかについて明確な決まりはない。そのため開業日の数年前に発生した費用や、開業日後に請求が来た場合でも、開業費として計上することは可能である。

開業のためにかかった費用であることが客観的に証明できるのであれば5年前の費用でも開業費とすることができるし、逆に客観的な証明ができなければ開業日の数日前の費用でも開業費とすることはできない(良くありそうなのは目的不明の飲食費や旅費、事業と関係なさそうな備品の購入費用など)。
開業後の事業の内容・規模によるが、私含め多くの人は初期投資はなるべく抑えて小規模で開始することが多いため、常識的に考えて(この視点は税務・会計では非常に重要)開業日までの1年以内に数万円〜数十万円程度の費用が発生するのが通常であろう。
逆に、開業日の2年以上前に何百万円もの開業費が発生していたとすると税務署から疑問をもたれる可能性が高くなる。

②-1開業費の償却(税務上)

開業費はとついているが税務上・会計上ともに繰延資産という資産として計上され、固定資産と同様に償却という方法により経費計上される。

税務上(確定申告)の償却費の計算方法は、期間・金額ともに完全に任意
事業を開始した年に全額を経費にしたり、ひとまず繰延資産として資産に計上した後に開業後複数年にわたって分割して経費にすることもできる。
現実的には、利益が多くでた年に節税のために多めに経費とし(償却)、逆に赤字の年は0円とする、利益が開業年から安定的に出るのであれば特に資金繰りの厳しいであろう初期に多めに経費とする、などとすることが多いであろう。

このような完全任意償却というのは税制上非常に優遇された取り扱いであるため、開業費となりそうな支払いは全て請求書・領収書を保存しておき、その後開業費として処理したのであれば確実に利益と相殺すべきである。

②-2開業費の償却(会計上)

会計上の処理はあまり個人事業主に関係ないと思うので参考までに。

原則:支出時に費用(営業外費用)として処理。
認容:繰延資産に計上し、開業した期から 5 年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法により償却をしなければならない。

たぶん実務上は、開業初期は利益を確保したいため一番利益の出せる計算方法である5年定額を採用することが多いだろう。
開業費が少ない場合や最初から利益が大きく出ている場合などは原則通りの処理をするかも。

補足だが、会計上と税務上の関係は、まず会計基準に従って決算書(有報・短信など一般的な開示書類)を作成し、それを基に各税法に従い必要な税務調整を行ったうえで税務申告を行う、という関係にある。
個人事業主にとって、決算書の提出を求められるのは銀行から融資を受ける時などかなり限定的で、その際でも開業費の扱いが論点になることはあまり無いだろう。

関連条文:実務対応報告第19号

①-3固定資産の取り扱い

10万円以上する自動車、什器、パソコンなどの固定資産は開業費の対象とならず取り扱いが異なる。
一般的に固定資産の取得費用は減価償却という方法により経費へ計上されるが、この減価償却費の取り扱いが開業日前後で以下のように異なる。

⑴固定資産取得〜開業日までの期間
自家用(非業務用)の利用ということで開業費(経費)とすることが認められない。
※減価償却の計算方法が通常と異なり、旧定額法、耐用年数は法定耐用年数の1.5倍、償却期間は6ヶ月未満切り捨て、6ヶ月以上は切り上げの年単位で計算、と特殊なので要注意。

⑵開業日以降
固定資産の取得価額から⑴で計算した減価償却費を除いた未償却残高を各法定耐用年数に基づき減価償却する。当然開業後の経費として認められる。

例)40万円のパソコンを開業日の10ヶ月前に購入した場合
パソコンの法定耐用年数は4年で、償却期間は6ヶ月以上は切り上げなので1年となり、開業日までの1年分の減価償却費10万円※は一切開業費・経費として認められず、開業日後に40万円-10万円=30万円を未償却残高として減価償却していくこととなる。
※金額は仮の数値、実際は税務申告(会計)ソフトで自動計算のため割愛