見出し画像

NARUKAMI Notes 008 よこはま野毛太郎

『よこはま野毛太郎 酔郷ではしご酒店』
星羊社 2023.11

「野毛」というものを初めて知ったのはテレビドラマ版の『濱マイク』でのことだった。小泉今日子演じる情報屋が山本政志の演じる金貸しの山本について「野毛のヤバい奴」とマイクに話していたのを記憶している。そんな第一印象に「ノゲ」という不気味な響きもあいまって、そこはきっとおっかない場所なのだろうな、一生足を踏み入れることなどあるまいとその時は思っていた。

2009年から横浜の会社で働くようになってから、野毛というのはたいそうな飲屋街であることを知る。怖いもの見たさで訪れたのが運の尽きで、野毛の魅力にどっぷりとはまってしまい、以来、独身で自由になる時間と金があるのをいいことに、ことあるごとに野毛で飲むようになってしまった。こうなってくると、気味が悪いと思っていた「ノゲ」という語感も実にいいもののように思えてくるのだから不思議なものだ。

そんな魅惑の地「野毛」の歴史と文化、そして街の発展とともにある名店についてまとめたのがこの本である。野毛には10年以上通ったのでそれなりに通ぶれるだろうと自負していたが、この本を読むと、どうして私などはまだまだ初心者もいいところで、野毛の入口に立ったにすぎないとすら思えてくる。紹介されている名店のうち、入ったことがあるのはジャズバーのル・タン ペルデュくらい。まだまだ奥が深かった。折を見て各名店を回らねば。草月のウィスキー、はるの天ぷら、ウミネコの海鮮は確実に押さえたい。野毛山動物園でお子さまプレートで生ビールという背徳的行為もまた魅力的だ。

歴史についても興味深い。明治の横浜の発展と共に拓かれ、大正の震災から復興し、戦後のヤミ市から今の飲屋街に至る。都橋商店街の成り立ちについては積年の謎だったため特に興味深かった。歴史を知れば街の奥深さを味わえ、酒の味もまた深くなる、かもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?