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NARUKAMI Notes 005 『八月の御所グラウンド』

万城目学
『八月の御所グラウンド』
文藝春秋, 2023.8

万城目学作品は『鴨川ホルモー』と『プリンセス・トヨトミ』を読んだ。いずれも読み始めから数ページで引き込まれて、一気読みしてしまった。両作品とも映画化されていて、こちらもなかなか良かった。『プリンセス・トヨトミ』で原作では男だった会計監査員の鳥居を綾瀬はるかにしていたのは謎だったが。
そんな万城目学作品が直木賞候補になるのは今回で6回目だという。『プリンセス・トヨトミ』も直木賞候補で2009年にノミネートされている。果たして今回は受賞なるか。

彼女にフラれ、夏休みの予定がなくなったため、灼熱の京都に取り残された大学生の主人公は、金を借りた友人にたのまれ早朝の「御所グラウンド」で野球大会に参加することになる。
だが、チームはにわか作りで、予定したメンバーが来られなくなり、不戦敗の危機に。そんなピンチを救ったのは野球の勉強をするためにたまたま御所グラウンドに来ていた留学生のシャオさんと、たまたまグランドの近くにいた「えーちゃん」ら3人の若者だった。
野球大会は数日にわたって行われたのだが、「えーちゃん」たち3人は必ず現れた。シャオさんはそんな「えーちゃん」たちに、ある疑問を抱くようになる。

京都が舞台の作品は『鴨川ホルモー』とその続編以来、16年ぶりとのこと。ホルモーもそうだったが、京都の空気が感じられた。京都独特の地名のせいだろうか。オーブンのように蒸し暑い夏の京都の光景がありありと目に浮かんでくるようだ。これも古都京都の持つ力か。
スマホが出てきているので間違いなく現代なのだが、とても懐かしい感じがするのも面白い。これは書いている人が昭和生まれのせいかもしれず、いうなれば時代だけ現代にして「あの頃」の話なのかもしれない。
確たる目標もなく、日々をダラダラと過ごしていたあの頃への憧憬。とりあえず時間とエネルギーだけはあった。
調べたら万城目学と同い年だったので、学生時代の感覚は近いのかもしれない。

第170回直木賞候補作品。
コンパクトな印象の作品なので、審査員がそこをどう見るかだろうか。

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