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社外のコミュニティにて、Diversity Equity & Inclusionに向き合った半年間の体験と気づき

2022年に半年ほど、IBM Community Japanのナレッジモール研究というコミュニティで活動していました。こちらでは、いろいろな企業の社会人が集まり、自分の解きたいテーマをチームメンバーと共に向き合っていきます。

私は「ITが支えるダイバーシティー&インクルージョンがもたらす変革」というテーマに参加しました。この記事では参加した理由や、どのようなプロセスを経て何をつかんだのか、書いてみます。


なぜ参加したのか


「人事時代に向き合ったもやもやを、今度は別の角度から考えたかったから」

私は現在デザイナーとして働いていますが、前職は人事でした。その際に仕事の関係で、障害者職業生活相談員という資格を取得しています。

この時は自分の知識も経験も少なく、ただただ「この仕事、難しい…」と思うばかりでした。渦中にいる間は自分の仕事を冷静に見ることはできませんでしたが、人事職から離れて時間がたちあらためて、「障がいを持ちながらより良く働く」ことについて何かできたら…と思うようになりました。

人事時代には、「障がいを持った方がより良く働く」環境を作っていくには、つらくてまじめなアプローチでも、ただただ熱量だけで突き進むのも、どちらもうまくいかないなとも感じていました。

人事時代はできなかったけれど、「体験を設計するデザイナー」となった今ならお役に立てることもあるかもしれないな、とも思っていました。

半年間のプロセスは、学びの連続

このテーマに参加した方は10名。高いモチベーション、想いを持ってこられている方が多い印象でした。

参加者の多くはIT系企業から来ており、職種はコンサル、人事、企画、SEなど様々。

私たちはチームでテーマの進め方を決定し、以下のスケジュールで活動を進めました。

<スケジュール>

2~3月:テーマに対しどのようなことを実施するか検討
4~8月:サブテーマに分かれて活動
9月:発表資料作成、発表

<作ったサブチーム>

「ダイバーシティ」などの会話をすると、テーマが広すぎて対話が発散ばかりしてしまうので、サブチームにわけて進めていくことにしました。

①ジェンダー、②障がい、③育児の3つとし、私は②障がいのサブチームに入りました。

<サブチームでの活動>

参加者にデザインシンキングの知識と実践を持っている人が多かったため、ダブルダイヤモンドのプロセスで進めることになりました。

背景と解きたい問い
プロセスには、ダブルダイヤモンドを採用しました

最初の発散と収束では、デスクリサーチをしながら解きたい問いを検討していきました。
ですが、私たち自身がリサーチのしにくさを体験し、「障がいに関する情報ができるだけまとまって手に入ったらいいのでは?」と考え、障がいに関するサービスのカオスマップを作るアイデアを出しました。

このアイデアの有用性について、当事者の方やそのご家族や上司の方にインタビューをしました。ですが、「私たちが出したアイデアはあまり求められていない」ことがわかりました。

そこまで求められてなかった…

カオスマップは求められていなかったのですが、インタビューでは「どう自分の障がいを伝えたらいいか」「どう聞いたらいいか」に戸惑いを感じる方の声が寄せられていました。また、その中で「配慮依頼書」というキーワードを得ました。

「配慮依頼書」に明確な定義を見つけることはできませんでしたが、インタビューの結果を鑑みると「配属先の上司や同僚になる方に、自分の障がいの内容を伝えて、理解してもらう・場合によって働き方に何かしらの”配慮”をお願いする」といったもの。

ただ、
・このフォーマット自体が決まっていないこと
・そもそもどんなことだったら書いてもいいのかわからないこと

が課題になっていました。

そこで、この「配慮依頼書フォーマットのリデザイン」を実施することにしました。

配慮依頼書を「コミュニケーションシート」としてリデザイン

リデザインをするにあたり重きを置いたのは以下です。
・書きたくなる配慮依頼書にすること
・一方的に伝える内容ではなく、この書類を使って、上司や同僚の方と良い
コミュニケーションが取れること

作成したコミュニケーションシートを見てもらい、当事者や関連する方々からフィードバックをいただいたところ、
82%が「障がいについて話す/聞くハードルが下がる」
88%が「障がいについて適切に伝えやすく/理解しやすくなる」
76%が「シートの設計/構成が有用」
96%が「デザインが使いやすい」

と回答くださいました。

今回は異動や配属のタイミングではなかったため、本シートを使っていただくことは叶わなかったのですが、たまたまチームの方が障がいを持った方向けの企業に転職することとなり、活用してもらう運びとなりました

実践の中での気づき

ここまでのプロセスを通して気づいたことは、「自分の特権性」でした。

私自身は障害者手帳を持たずに生きています。
しかし、インタビューを通じて、自分が気づかなかったり見えていなかったりすることが多いことに気づきました。

これは、自分が無知でいられるという特権性を表しているのだと感じています。
普段の生活では感じることはほぼありませんが(だから特権なのでしょうが)、この特権性を忘れずにいることが、自分と立場が違う他者に対する理解を深め、新しい社会を作るきっかけになるのかもしれない
そんなことを思いました。

まとめ

この半年間の活動の中で、今回のテーマに対し(期間やスキルを鑑みると当たり前だとは思いますが)社会を変えるような革新的なアイデアを出すことはできませんでした。

それでもなお私がこの体験を記事にしたいと思ったのは、「自分が普段向き合ってない問い・課題」に出会ったときに「無関心の人が多い社会」よりも、「スキルが無くても、専門家じゃなくても、インパクトがたとえ小さくても、何かしたいと思って行動にうつす人が多くいる社会」の方が、何かを変えていける可能性が広がるのでは?と思ったからです。

もし似たような状況にいる方の参考になる機会があったら嬉しいです。

また、ここで作成した成果物は以下よりご覧いただけます。

  • 事前にIBM Community Japanメンバー登録 (無料)が必要です

  • HPの上のタブ「メンバー限定コンテンツ」ナレッジモール研究・論文アーカイブから視聴いただけます。

Appendix:参考にしたもの

最後に、デスクリサーチする際に参考になった情報についてリンクを置いておきます。

<障がいについて>

障がいに関する情報は、特にWEBページにおいてかなり文字量が多いものが多く、読むのが大変だなという印象を持ちました(「正しく伝えよう」という配慮によるものと考えています)。

そのような中でも、読みやすい、見やすいものを記載します。

本:マンガで考える 障害者と社会の壁――妖怪バリャー vs. 心のバリアフリー

障がいに関する歴史が書かれており、しかも漫画形式で読めることもあって3回ぐらい読みました。

映画:こんな夜更けにバナナかよ愛しき実話

筋ジストロフィーにより車いす生活をしている主人公が、ボランティアたちと自立生活を営むお話です。実話を元に映画化されました。

本:マイノリティデザインー弱さを生かせる社会を作ろう

ゆるスポーツなどを提唱している電通・澤田さんの本。「弱さを生かせる社会をつくろう」というメッセージの通り、「できないものをできるようにする」とは違った考え方・アプローチについて書かれています。


<ジェンダーについて>

ジェンダーについても、障がいと同じくかなり読むのが困難な資料が多く輪郭をとらえることがとても難しいと思いました。その中でも自分の理解の助けになったものを記載します。

本:こどもジェンダー

ジェンダーについて何冊も読んだ中、「これ以上の本はない…!」と思った絵本です。

本:ジェンダーについて大学生が真剣に考えてみた――あなたがあなたらしくいられるための29問

ジェンダーに関してはいろんな疑問が出てくると思いますが、それらについて大学生が考えた応答がたくさん掲載されています。

セミナー:ジェンカレ

ジェンダーについて連続講座で学ぶことができるセミナーです。日本でこれだけの価格でジェンダーについて学べる場は今のところここしかないと思います。

<Diversity Equity&Inculsion全般>

初めてDI(Diversity & Inclusion)やDEI(Diversity Equity & Inclusion)という概念に触れたとき、理解するのに苦労しました。しかし、以下の3冊の本を何度も読み返すことで、少しずつ理解を深めることができました。

本:多様な社会はなぜ難しいか 日本の「ダイバーシティ進化論」

本:多様性との対話 ダイバーシティ推進が見えなくするもの

本:多様性の科学


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