見出し画像

フィリピン研修2023春(7)-ピナツボ火山とアエタ族

NPO法人アクションの紹介で、バライバイ再定住小学校(Balaybay Resettlement Elementary School)を訪問しました。こちらでは2日過ごしました。ここはピナツボ火山の大噴火の後設置された、バライバイ再定住地に住む避難民家族の子ども達を受け入れるために作られた学校です。

こちらでは、まず授業を見学させていただき、次にアクションがNPO法人Table for Twoと共同で行う、栄養不良児童に対する給食支援とそのための農園と、キノコ栽培の様子を拝見しました(給食を一緒に美味しくいただきました)。簡単なフィリピン語会話を教わり、最後に児童たちの前で、日本文化の紹介をしました。夜は学校に通う児童のお宅にホームステイさせていただきました。詳細はまた次回に。

さて今回はピナツボ火山の大噴火とピナツボに住むアエタ族に関する補足です。フィリピン研修2023春(4)で「アメラジアン」のことについてふれましたが、バライバイ小学校を訪問することで思いだしたもう一つの「小事件」が、ピナツボ火山の大噴火とピナツボに住むアエタ族に関することです。

ピナツボ火山の大噴火(20世紀最大級の噴火)は1991年に発生し、折あしく襲った台風の影響もあり、1,000人近い死者を出し、多数の家屋、田畑、商業施設、学校・病院等の公共施設に加え、道路・橋梁、電気・通信、水供給施設などのインフラに大被害を及ぼしました。我々の訪問したサンバレス州は、最もひどい被害を被った地域の一つでした。

噴火した1991年から1993年の間に、34の再定住地がピナツボ山近隣各州を中心として設置されました。バライバイ再定住小学校は、そのような再定住地の一つ、バライバイ再定住地の一つに建てられた小学校です。ちょうど昨年(2022年)9月ごろに新しい校舎が二棟完成したということで、我々が訪問したときには、まだ新築ほやほやという感じでした。

バライバイ再定住小学校 ©iOrbit News Online, October 1,2022

次にアエタ族についてですが、人類学を勉強したことのある方は、ネグリート族(Negrito)といった方が理解が早いかもしれません。マレー人と比べ背が低く、肌の色が黒く、縮れ毛が特徴的な少数民族です。

フィリピンは現在マレー系人種(Malay)を中心とする国ですが、実は、マレー人が来るはるか以前に住んでいた先住民がネグリート族で、彼らはマレー人に追われ、山岳地域へと追いやられていくことになりました。ここから、山岳部に住む少数民族に対し、平地に多く住むマレー系フィリピン人のことを、lowland Filipino(平地・低地フィリピン人)という表現が生まれてくることになります。

フィリピンのネグリート族の中で、ピナツボ山中に住み焼き畑・狩猟採取に従事していたのが「アエタ族」です(居住する場所により異なる名称で呼ばれています)。ピナツボ火山の大噴火の後、再定住地域に一時居留していましたが、その後の生活は安定せず、中には火山灰で荒れ果てた山中に戻ったものもいるようです。この小学校の校長先生は、このようなピナツボ山中のアエタ族が多く住む小学校で教えていたそうで、その思い出を語ってくれました。

このようなことは、「フィリピンの人類学」の常識で、アエタ族を研究した清水展先生は私の研究上の先輩であるにも関わらず、全く忘れておりました。というより、私はどちらかというと都市の貧困に関心があったので、山岳部の少数民族には一生縁がないだろうと、どこか勝手に思っていたのだと思います(清水先生すみません)。今回NPO法人アクションのお世話になることによって、ピナツボとアエタ族に出会ったのも、何かの縁かもしれません。最近清水先生の昔の本の新装版が出たようなので、(感謝の念を込めて)以下にリンクを貼っておきます。

清水展『噴火のこだまーピナトゥボ・アエタの被災と新生をめぐる文化・開発・NGO──[新装版] 、2021.

なお、バライバイ再定住地に住んでいたのはアエタ族だけではなく、その後の災害の避難民も含んでいるため、バライバイ小学校の児童約800の何人がアエタ族であるかは不明ですが、そのような背景がある地域であり、全体としてかなり貧しい地域の小学校ということになります。

研修番外編の一コマですが、日本人のゲストが来ると、いつも大変な人気者になってしまいます。朝7時半の授業前、群がってくる800人の小学生に、私達の学生の一人(アスカ君)が、迷惑がらず、ひたすらサインをしていました。彼はここで伝説を作ったかもしれません。

学生達は人気者、群がってきます
ひたすらサインペン(マーカーで)サイン
こんな感じ^^

(注) 写真の出典は、明示的に©で示していないところは、全て©2023 Aratame撮影の写真です。
                           (続く)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?