「音楽視点から見たD.LEAGUE 23-24」ROUND.2:自らを超えた先にある勝利
プロダンスリーグ『D.LEAGUE 23-24 ROUND.2』が11月13日に開催された。勝利を収めたのはKADOKAWA DREAMS、CyberAgent Legit、SEPTENI RAPTURES、Benefit one MONOLIZ、KOSÉ 8ROCKS、Valuence INFINITIES。今回も全6試合を音楽的な視点を交えてレポートしていこう。
世界でも類を見ない本リーグは2021年、コロナ禍の真っただ中で開幕した。2週間に1試合という過酷なスケジュールを戦い抜き、試行錯誤のなかで3シーズンを既に終了。特に昨シーズンは念願となるフルキャパシティの観客とともに開催され、レギュラーシーズンはCyberAgent Legit、CHAMPIONSHIPはKADOKAWA DREAMSが優勝を収めた。
レギュラーシーズンは開幕後、半年間・14ラウンドに及ぶ。参加するのは、昨季に引き続きavex ROYALBRATS、KADOKAWA DREAMS、KOSÉ 8ROCKS、CyberAgent Legit、SEGA SAMMY LUX、SEPTENI RAPTURES、FULLCAST RAISERZ、Benefit one MONOLIZ、Medical Concierge I'moon、dip BATTLES、LIFULL ALT-RHYTHM、Valuence INFINITIES、さらに新チームのDYM MESSENGERSを加えた計13団体。
ROUND.2のジャッジはSAM、Koji、KETZ、KAORIalive、WREIKOが務め、採点は「スキル」、「クリエイション」、「コレオグラフ」、「スタイル」、「完成度」という観点で行われる。
全ラウンドは以下のアーカイブにフル尺公開されているので、未見の方はぜひチェックしてほしい。
■第1試合
FULLCAST RAISERZ vs Benefit one MONOLIZ
RAISERZはKTRが中心となって光を演じ、見せ場となるエンディングまで観客を魅了。対するMONOLIZはアラビックで妖艶な雰囲気だ。実はこの「きれいなメロディ×KRUMP」と「エキゾチック×VOGUE」は両チームがこれまで得意としてきたスタイルである。
しかし今回は前者に既視感を覚えた反面、後者にフレッシュな感触を覚えた。これも勝敗に無関係ではないだろう。RAISERZの手法は勝ちパターンで個人的にも好きだが、このデジャブはJU1I3N氏によるプロデュースと作品が結びつき過ぎたことに起因するのではないだろうか。
音楽が悪いわけでない。だが下記に示した通り、どうしてもサウンドデザインやボーカルの質感が似てしまっている。
一方のMONOLIZは前節に引き続きage(ex.gato)をプロデューサーに起用。最初のシーズンから長らく音楽を手がけたWasaViとは異なる音の質感が、同じコンセプトに違った魅力を吹き込んでいる。初戦で両チームが描いた対比は「自らの更新」という点で、奇しくも本ラウンドを象徴していた。
結果は2-4(AUDIENCE:赤/SAM:青/Koji:青/KETZ:赤/KAORIalive:赤/WREIKO:赤)でMONOLIZ今季初勝利。
<勝者コメント>
Nonoka Sudo「今回は新メンバー・MIUちゃんも初出場なのにプレッシャーに押しつぶされず、たくさん技に挑戦してくれました。この作品でメインを頑張ってくれたRicohちゃんもありがたい存在。これからも勝てるように、世界を届けるために頑張っていきます」
■第2試合
dip BATTLES vs KOSÉ 8ROCKS
BATTLESは衣装からコレオグラフに至るまでPOPPINを中心にした世界観。不思議なタイトルが付いた音楽もグリッドから外れたリズムが心地よかった。8ROCKSはオールドスクールなビートの上で、珍しく小道具を使ってヒップホップ史を表現。また本ラウンドは照明の効果的な使用が多くのチームで目に付いた。
お互いに初白星を賭けた一戦だったが、2-4(AUDIENCE:赤/SAM:赤/Koji:青/KETZ:赤/KAORIalive:青/WREIKO:赤)でKOSÉに軍配が上がる。
<勝者コメント>
2GOO「昨シーズンは悔しい思いがあって、今年は『リベンジ』という言葉を掲げて戦っていいます。大事にしたいのはヒップホップというカルチャーをダンスだけでなく、歴史も伝えていくのが僕たちの役目。D.LEAGUEでは僕たちしかできないと思っている。ヒップホップを知りたかったら僕たちのことを見てください」
■第3試合
DYM MESSENGERS vs Valuence INFINITIES
これまで謎に包まれていた新チーム・DYM MESSENGERSの初陣、冒頭から黒の衣装で統一したメンバーが違う向きを向いてリズムを取る。ぴったりと全員が合わせるというよりも共有したグルーヴをそれぞれが放ち、“リーグの王道とは違う勝ち方”を目指していた印象だ。楽曲は丁寧にミックスされたハウスミュージックである。
後攻・Valuence INFINITIESは奇策に出た。それは相手チームとも親交のあるダンサー・BOOのSP起用という、まさに「一点突破」なアイデア。ギターを主役にした音数少な目なバンドサウンド、それに組み込んだ相手を意識してのHOUSEやPOPPINも粋だ。
結果は2-4(AUDIENCE:赤/SAM:赤/Koji:赤/KETZ:青/KAORIalive:赤/WREIKO:青)でValuence INFINITIESがリーグの洗礼を浴びせる。
<勝者コメント>
SEIYA「めちゃくちゃ嬉しかったです。ありがとうございます」
■第4試合
avex ROYALBRATS vs KADOKAWA DREAMS
昨シーズンのROUND.5と同様にコレオグラファー・Zoo-Zooとコラボした個性的なショウケースで挑むavex ROYALBRATS。段々とテンポが上がる構成は興味深かったが、前回の楽曲「Dystopia」に比べてビートを使わない構成にしたことで全体のメリハリが薄れたか。アップグレードが不十分に感じられたことが、結果的に既視感に繋がってしまった気がする。
KADOKAWA DREAMSはケガから復帰したものの万全ではない颯希が「キューブを回す」という役で登板。音楽はピアノ奏者・Koyaとメンバーが共作したものだという。ストリートピアノを思わせる独奏、その鍵盤が乗り移ったかのように反応するダンス。さらに削ぎ落された音だからこそ、声援が楽曲の一部のように入り込む。ミニマルな各要素が補完し合って完成するようなショウケースだった。
結果は0-6(AUDIENCE:赤/SAM:赤/Koji:赤/KETZ:赤/KAORIalive:赤/WREIKO:赤)でKADOKAWAが今季リーグ初のSWEEP勝利。
<勝者コメント>
KISA「自分たちのなかでも挑戦を込めた作品。美しさと葛藤や緊張に苦しむ部分の二極を表現しました。RAIZYUがSPとして登場してくれたことによって、みんなの夢を体現してくれたのかな。自分たちを常に超えていけるように一同頑張っていきます」
■第5試合:LIFULL ALT-RHYTHM vs CyberAgent Legit
LIFULL ALT-RHYTHMは持ち味のコンテンポラリーな振りをシリアスな形でまとめつつ、かつKRUMP風でもある野性的な動き、さらに音楽はブルガリアン風なチャントにトラップ系ビートという興味深い内容だった。特に終盤テンションが落ちてから照明を上手く使い、最後の追い込みをかけるセクションの1拍目でダンスを音にヒットさせなかった場面は私的ハイライト。
それにあえてユーモアをぶつけるCyberAgent Legitはさすが。ディスコにenaを中心したLOCKINGで演じられるキレキレな「あっちむいてほい」はオチも含めて圧巻だった。
結果は5-1(AUDIENCE:赤/SAM:赤/Koji:赤/KETZ:赤/KAORIalive:赤/WREIKO:青)でLegitが勝利。
<勝者コメント>
ena「チーム内でLOCKERが自分だけで孤独でしたが、みんなが『Lockやろう。enaのLOCK好きだよ』と言ってくれた。作品を作らせてくれたFISHさん、それを表現させてくれたメンバーに感謝。本作の練習で色々なことが起きましたが、そこで自分はLegitの絆を感じました。このチームだったら今シーズンはチャンピオンシップでも優勝できる。今年こそは絶対1位を採ります」
■第6試合
SEGA SAMMY LUX vs SEPTENI RAPTURES
SEGA SAMMY LUXはルーツのひとつであるマイケル・ジャクソン(MJ)のダンスを過去、MJ風の音楽と衣装をセットにして演じてきた。しかし、今回の作品ではファーのバゲットハットと光沢のあるセットアップの衣装に、曲はポップめなドリルを合わせる。リスペクトするMJスタイルを音と衣装を切り離したことはチームとして画期的だった。
SEPTENI RAPTURESはコンセプトに「和」も掲げたショウケース。ダンスは文句なし。全体としては、もう少しテーマとの関連性と統一感がほしいところだが、本試合で唯一の日本語メロディが異彩を放っていた。しかも、これまでのリーグであまり聴かなかったフロウ。日本語をカッコいいダンス曲に仕立てるのは難しいのかもしれないが、I moon「Arise」のような名曲の登場に期待している。
結果は4-2(AUDIENCE:青/SAM:赤/Koji:赤/KETZ:赤/KAORIalive:青/WREIKO:赤)でSEPTENI RAPTURESが2連勝。
<勝者コメント>
HARUTO「昨シーズンはLUXさんにSWEEP負けだったので、こういう形で勝てて嬉しいです。今年のRAPTURESは強いです。チャンピオンシップにも行くので応援お願いします」
(※Medical Concierge I'moonは今回ノーマッチ)
■総合ランキング
1位.KADOKAWA DREAMS(7)
2位.CyberAgent Legit(6)
3位.SEPTENI RAPTURES(6)
4位.Benefit one MONOLIZ(4)
5位.KOSÉ 8ROCKS(3)
6位.FULLCAST RAISERZ(3)
7位.Valuence INFINITIES(3)
8位.avex ROYALBRATS(3)
9位.LIFULL ALT-RHYTHM(1)
10位.SEGA SAMMY LUX(0)
11位.dip BATTLES(0)
12位.DYM MESSENGERS(0)
13位.Medical Concierge I'moon(0)
(カッコ内はCSP=チャンピオンシップポイント)
MVD(Most Valuable Dancer):颯希(KADOKAWA DREAMS)
私的楽曲賞:LIFULL ALT-RHYTHM「RUMBLE(short ver.)」
ROUND.2はKADOKAWA・KISAの「自分たちを常に超える」というコメントが全てではないだろうか。もちろん長く険しいレギュラーシーズンを戦うために過去のアイデアをリサイクルしたり、リファレンスを用いることは必要だと思う。
しかしながらアーカイブを超える気概がなければ負ける。とすれば、Dリーガーが戦うべきは他チームよりもまず自分自身なのだろう。そんなことを感じさせたラウンドだった。次戦は11月24日。さらなる熱戦に期待したい。
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