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我的好曲2021(JP)

もう2022年も3月になってしまいましたが、2021年に印象に残った音楽でプレイリストを作りました。今回は主に日本語のポップスを並べています。このために昨年の色々な曲をひっくり返して聴いたものの、例によって出会えなかった楽曲もあると思うので、現状で面白かった11選とさせてください。

リストアップ基準はまず聴いて引っ掛かりがあることが第一、その後に分析してみて「これは!」と思ったもの。もはやヒップホップもポップスとして聴けるので、かなりジャンルが入り乱れたものにはなっていますが、これが今の自分の音楽観です。普通に聴くだけでも楽しめると思いますし、さらに発見があったら嬉しいです。





1:QUEEN / avex ROYALBRATS(P:RYUJA)

私のなかでは、大きな衝撃がこの曲。プロダンスリーグ「Dリーグ」を取材している時に出会い、誰が歌っているのかを調べたところ、当時のavex ROYALBRATS・ディレクターRIEHATA氏であると知りました。

しかもラップを始めて1日で歌ったというのだから才能ありすぎでしょう。製作ドキュメンタリーを見ると彼女は「ダンスから生まれた歌詞」と語っていますが、まさにその通り。

<A-A-B-A-C-D>というポップス規格でない構成ながら、コレオグラフと合わさると違和感なく聴けます。第1期aRBは楽曲の良さとダンスの今っぽさがハマってましたね。



2:CRAZY OUTSIDE / MIYACHI×青山テルマ(P:Matt Cab)

ベタなファミマの音楽をカッコよくしてしまったことに(そしてJust a two of us進行の強さに)驚きましたが、本楽曲のトピックに合わせて青山テルマを客演に呼び「ここにいる方がいい」と歌わせたMIYACHIとMatt Cabは本当にセンスがいい。

テルマちゃんの良いところを引き出して、フィーチャーされた側にとっても近年の代表曲になっています。そして誰が彼女を「ここ」から連れ出すのかにも今後注目ではないでしょうか。また地味にコードがⅣM7→Ⅴ#dim→Ⅵm7なところもヒップホップでは珍しいです。


3:Our Style / WILYWNKA & Brasstracks

Brasstracksのプロデュースは大体ハズれがない。この曲はWILYWNKAがヤンキー調にラップをしますが(Brasstracks oursideはダサいぞ・笑)、対照的にビートはループセクション毎にバッキングが変わるなどクレヴァー。

特に一番の見せ場であるドロップに関して、ベースが<Ⅵ→Ⅲ→Ⅳ→Ⅱ→♭Ⅱ→Ⅲ→Ⅴ→Ⅵ>と動きますが、コードが鳴っていないこともあり♭Ⅱでトランペットによるメロディの調性が長短に揺れるのが興味深いです。


4:GILA GILA feat.JP THE WAVY, YZERR (Prod. Chaki Zulu) / Awich

Awichヴァースにあるブレイク部分のラップに「2021年ベストスキル賞」を進呈したい。11連/8拍×2(4小節)という構造です。2拍3連だと12連/8拍なので、それよりも1連符分だけ遅い奇数のフロウ。「ヒット」というリリックが3小節目の頭に文字通り“ヒット”して違う意味を生むところも素晴らしい。

<M・ステ・出た・から・何・ヒット・なきゃ・続・きは・無い・ヒット>
<ヒット・知ら・ない・人・にも・言わ・れる・おま・えは・誰・(休)>

ポリリズムが好きなドラマーやジャズメンが考えそうなアイデアですが、これを天然でやっているだから驚き。


5:A-Team's Fables - Remix / Rikuto AF, Lil' Leise But Gold, BEN BEAL, KM

こちらは「美しいフック賞」。Lil' Leise But Goldのヴォーカルはどの曲も繊細で魅力的です。ぜひEP『Sleepless 364』も聴いてください。途方もない仕事量を高いクオリティでこなすKMも、公私におけるパートナーである彼女との仕事は他のプロデュースワークとは違う密度を感じさせます。

ファミリー感というのでしょうか。10年代の終わりには「バンドは時代遅れ」という雰囲気もありましたが、ふたりの創作はリモートワーク時代のカウンターとしても聴こえてきます。「家族」を奪還せよ。


6:チョコチップかもね(feat. Ric Wilson) / CHAI

正直、2ndアルバムまでの作風は個人的な琴線に触れませんでしたが、最近のCHAIはプロデュースがヤバい。この曲はBIGYUKIとRyu Takahashiによるもの。ビートに乗るシンセの音色と微分音のピッチの揺れが気持ちよすぎます。

楽曲で彼女たちの発するメッセージやアティテュードは確かに素晴らしいですが、この音楽は世界の大人が本気を出したらこうなった感があり、ある意味でインディペンデントなアイドルの理想形なのかと思いました。



7:Jeter & Y ohtrixpointnever / FANTASMA feat.SEEDA

これは並べた曲のなかで一番謎な曲で、サウンドデザインが特殊で爽やかさが90sぽい。JeterとY ohtrixpointneverは21、2歳くらいの若手ですが、オリジナリティのあるビートメイカーは貴重なので今後も期待したいです。抽象的な日本語交じりの英語詞も面白いし、SEEDAがこういうビートでも輝けることにも感動。


8:ミハエルシューマッハ(feat.Jinmenusagi) / Shurkn Pap(P:KNOTT, Kosuke Harada)

「The Weekndの80s感を日本の文脈に落とし込んだらこうなる」という感じで、音楽的な文脈理解と批評眼の鋭さを感じました。最初のギター部分も絶妙で、ギリギリでダサくないのがすごい。トピックに対して「はやい」Jinmenusagiの起用も的確。Shurkn Papは最近出した『Call Me Mr. Drive 2』がマジで傑作なので、ぜひチェックしてください。


9:Destruction / さとうもか

コロナ禍以降の世界で起きているのは価値破壊です。変革は歓迎ですが、過去のよいものも壊れていく。謎のコロナ対策もウクライナ情勢もそう。よそで戦争が起きると危機を感じて、「反戦」といいつつも日本からの義勇兵を喜んで送り出したりする。「お国のために」と死んだ先人たちについての考え方も変わっていくでしょう。緊急事態条項付き改憲の機運も高まると思います。うんざりですねえ。

…と、この曲はそれと全く関係ありませんが(笑)、「Destruction」という言葉をタイトルとサビに持ってきただけで時代を射たなと感じました。いわば「ベストタイトル賞」です。それからサビのメロディ最後のマイナー9thに個人的ノスタルジー。


10:ラブ feat.pH-1 / indigo la End

川谷絵音くんのプロデュースセンスは底知れません。今ロックバンドとラッパーの有機的なコラボレーションを果たそうと思ったら、サウンドデザインなどにもこだわらないとダサくなってしまう訳ですが、これは成功例でしょう。しかも韓国のpH-1を誘うとは、増えそうで増えないKポップとのアーティストとの客演交流の先手となったのでは。そして「愛は難しいものではないでしょう」というカタコト日本ラップもキザな韓流スターみがあって、とても良い。


11:ドーパミン / ゲスの極み乙女。

もはやindigo la End/ゲスの極み乙女。/ジェニーハイは川谷くんのプロジェクトとしてまとめてしまえると思うので、本来なら入れたくなかったのですが入れてしまいました。川谷くんはJロック側から現行のヒップホップを内包した音楽を目指しているので、この曲でもフジファブリックや奥田民生、もっと辿れば、はっぴぃえんど直系のユーモラスなリリックが冴えています。

<セロトニン/ノルアドレナリン/アドレナリン/ヒスタミン/ドーパミン>というフックなのですが、2回<アドレナリン>が被るところに3連符を含ませ<アドレ・ナリンア・ドレナリン>としたのは技あり。同じ歌詞とフロウなのにキックとぶつかる言葉が<ア/ド>とズレるのが最高でした。



<昨年以前の年間まとめプレイリスト>




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