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SNS Shocking#9「頑張ることに疲れた女性たちへ」(ゲスト:annnk)

拙い自作曲のなかでも「ZipperGirls」という曲が好きだ。“『Zipper』のカヴァーガール、ジッパーを開けないで”というフックの導入は説明するまでもなく、<ファッション誌と服を開閉する機構>を掛けた歌詞。図らずも2023年の今聴くと「可愛い読モだけど、人格までは知りたくない」というルッキズムを歌っているようでもある。

『Zipper』や『CUTiE』は個性的な着こなしや尖ったキャラの読者が多く、「青文字系」の雑誌だと言われる。本カテゴリはきゃりーぱみゅぱみゅ、中田ヤスタカ、最近だと新しい学校のリーダーズらが所属するアソビシステム株式会社の中川悠介氏が『JJ』や『CanCam』などの「赤文字系」と区別するために命名した、というのが定説だ。

そんな「青文字系」文脈から転生する形で、1stシングル「Cat Chill」をリリースしたのがシンガーのannnkである。「やのあんな」や「Anna Yano」名義でモデルや歌手として活動してきた彼女が、新たな音楽活動としてテーマに据えるのは「チル」。頑張りすぎてしまう現代女性にくつろぎと潤いを与える、力の抜けた音楽性を目指している。

このannnkが記事&ポッドキャストによるハイブリッド・インタビュー『SNS Shocking』第9回目のゲストとして登場。名義を含めた活動を一新させた理由、さらには経緯や心中を初めて語る貴重なインタビューとなった。

(写真:西村満、サムネイル:徳山史典、ジングル/BGM:sakairyo)


annnk(あんく)
annnk is singer , songwriter , model based in TOKYO.

X(Twitter):@annnkk_
Instagram:anna_inthesea
HP:https://bio.site/annnk

心にいつも音楽がある


――「やのあんな」から「annnk」へ、音楽性も大胆に変化しましたね。

annnk:時間が流れ、時代が変われば、誰でも変化するじゃないですか。音楽だけでなく、私はファッションの系統も男性の好みも変わりました。常に変わっていきたいから、自分にとって同じ場所に居続けることは怖いことなんですよ。改名はその「変化したい」という考えの表明ですね。

「『やのあんな』という名前にも価値はあるから、もったいないよ」と言ってくれる人もいました。その言葉は嬉しかったのですが、私個人としては脱皮するようにペルソナを変えたかったんですよ。

――ネーミングの由来も気になります。

annnk:最初は「Ann」に改名しようと思っていたんです。でも「アン」は世界共通ネームで、個人的には「赤毛のアン」に代表されるような、頑張り屋さんの強い女性というイメージ。

「頑張りすぎてしまう女性が、ふと力を抜いてもいいと感じるチルな音を作る」というコンセプトなので、「Knife」や「Knight」という単語にある、何かが始まる予感を持った「k」を最後に置きました。

もう頑張りすぎなくていいんだよ、のんびりでもいい。そんな「自分らしくいよう」というメッセージが込められています。

――活動を転換したきっかけは何だったのでしょう?

annnk:アニソンを歌っていた「やのあんな」は、大勢の人を巻き込んだ大規模なプロジェクトだったんです。基本「頑張ろう!」や「明日はできるよ!」というガッツ系のメッセージですから、自分も毎日15キロ走ったり、フルマラソンを走ったり、ほぼアスリートのような生活でした。

でも、がむしゃらに頑張っても結果が出る訳ではないし、疲れてしまって。「たくさんの人を巻き込んでいる以上、頑張らねば!」とやりすぎた結果、心が壊れそうになったんですね。

さらにコロナ禍以降によって時代も聴く音楽も変わり、多くの人が疲れているのを見て、もう「頑張ろう」という内容は世の中に響かないなと悟りました。それを踏まえて、次のステップに進むには多くを学んだ事務所を出て、自分で学びながら進む必要があるなと。それで事務所を出て韓国へ留学しました。

――そもそもキャリアのスタートであるモデルになった理由は?

annnk:15歳の頃からバンドをやっていましたし、モデルになったのも音楽をやるためでした。当時は読者モデルが流行っていて、憧れはJUDY AND MARYのYUKIさんやSHAKALABBITSのUKIさん。そういう人達が拍子に出ているような雑誌『Zipper』や『SEDA』、『CUTiE』の読モは大体バンドを組んでいたんですよ。つまり読モになることが音楽で活躍する近道になるのかもと考えてモデルになりました。

――なろうと思ってなれるところがすごいような。

annnk:どうしたらなれるかと調べまくったら、青山学院大学出身でバンドをやっている人が雑誌で「表参道のローソン前を歩いてスナップを撮られるといい」と書いていたんです。それで決めたのが青山学院女子短期大学への進学。そして、スナップを撮られるために表参道をトイレで着替えながら何十往復もしましたよ(笑)。

読モとして最初に載った雑誌は『SEDA』。「これでバンドが売れるぞ!」と思いきや解散し、その後はモデルの仕事が増えていくんです。気付いたら就活の時期が終わっていました。それから卒業してバンドをやらなきゃと思っていたところに、アソビシステムから声がかかったんです。所属するのも「音楽をやらせてくれるなら」ということで決めました。

――やはり何事も音楽が先行するんですね。

annnk:常に自分の心の中にあるのは音楽です。とはいえ、モデルも楽しいので表現に差はなくて、形を変えているだけかな。肩書きも気にしていません。

(上)やのあんな時代に参加していたユニット・livetune+「Sweet Clapper」のMV。annnkの楽曲とは違いアッパーな4つ打ちとなっている。所属していた事務所の先輩・CAPSULEを彷彿とさせる編成とサウンド。

(下)インタビュア・小池が主宰したプロジェクト・3(tora)による原宿をテーマにした楽曲「ZipperGirls」のMV。ファンクやヒップホップを要素として持っていた渋谷系、オルタナロックな新宿系の中間をコンセプトに代々木系ではなく「原宿系」を目指していた。

新たなテーマは「チル」


――キラキラした世界に居続けたいという気持ちはなかったのですか。

annnk:新しい自分の居場所や活動を探求しない、成長する意志がなくなるのは嫌ですね。私の場合音楽の進化も止まってしまう気がします。そういう意味でいうと今さまざまな大御所の方が、若手のアーティストの楽曲に客演する姿勢はすごいなと感じます。

もちろん変化だけが正義ではないと思うので、職人のように誇りを持って自分のスタイルを続ける人もリスペクトですね。

――事務所を出て、留学した韓国で学んだことは?

annnk:向こうの音楽や文化、動画編集を勉強しました。もともとmisoOOHYOLEEBADABIBIなど韓国のインディーやR&B、ヒップホップが好きで、音楽性を変えようと思っていたんですよ。実際に現場を見学できたことは有益でしたね。韓国のアーティストは告知だけでなく私生活も発信するなど、SNSの使い方も日本とは違うんですよ。猫に餌をあげる動画を投稿したり、そういう部分にも影響を受けました。

――有意義な充電期間になったようですね。

annnk:ロックから始まり、大学くらいでボカロや「歌ってみた」にも触れて、アニソンという流れで音楽活動をしてきましたが、「30代の今の自分は何が好きなのか?」をコロナ禍でゆっくり考えられたのはよかったです。

自分自身が大人になったのもあるし、まずは肩の力を抜いて純粋にシンプルに音楽を楽しみたいなと。そんな時、自分の中で浮かんだワードが「チル」。コロナ禍以後の夜中に一人お風呂で音楽を聴く時間、恋愛に疲れて音楽に浸る時間、カフェでぼーっと作業しながら音楽を聴く時間、チルな時に聴く音楽にすごく救われたんですよね。

だから再び音楽がやりたいと思えたし、annnkもチルでいたい。1stシングルが「Cat Chill」だったのも自然な流れでした。

頑張ることに疲れた女性たちへ


――その「Cat Chill」についても教えてください。

annnk:プロデューサー・Chocoholicちゃんと一緒に作りました。最初はどんな曲を作るか考えながら「Lo-fiがやりたいよね」と。それから彼女が飼っている保護猫の寝ている姿からインスピレーションを得たビートで挑戦してみることになったんです。

私は当時、猫を飼っていませんでした。でも恋人や家族、友達達の寝顔を見ている時って愛があふれる一番温かい時間。それは誰でも共感できる気持ちだと思うし、女性同士で作るので「母性」というテーマも込めました。

――Chocoholicさんとの出会いは?

annnk:Spotifyで働いている友人に「今の私が届けたい音楽・メッセージを汲み取ってくれるミュージシャンを紹介してほしい」と相談して、紹介してもらったのがChocoholicちゃん。すぐに意気投合して、翌週には一緒に沖縄に行ってましたね(笑)。石垣島で月を見て「きれいだね」と涙を流しながらハグして……。この子とならバイブスも合うし、いい音楽が作れるんじゃないかなと。今では良き友人です。

――日本語だけでなく英語と韓国語でも作詞をされています。

annnk:はい。日本以外、特にアジア圏に届けたいという想いがありました。あとは先ほど挙げた韓国のmisoとも一緒に仕事をしている、GILLAさんにミックスとマスタリングをお願いしたのもポイント。

――SNS的なバズを目指す価値観は「チル」な方向性と矛盾すると思いますが、その辺はいかがですか。

annnk:そこは歯がゆいところです。ミュージシャンとインフルエンサー、モデルの方の多くが感じていると思いますが、世間の評価と自分のやりたいことのギャップ。あれが辛いんですよ。でも私は今はやりたいことをやりたいから、いいねの数は気にしていません。

「Cat Chill」も日本でバズる曲に寄せれば、もっと聴かれたかもしれない。でも、やりたいことを実行しなかったら後は死ぬ人生ですからね。頑張りすぎず肩の力を抜いてリラックスしつつ、水のようにしなやかに形を変えながら続けていきたいです。

――ちなみに恋愛に疲れてしまった理由についても、可能な範囲で聞きたいです。

annnk:今って時代的にひとりでいた方が楽じゃないですか? 誰かの受け売りかもしれませんが、Netflixがあって、YouTubeがあって、TikTokがあって、Instagramがある。自分の趣味嗜好にパーソナライズされたエンタメに溢れていて、勉強しなくちゃいけないこともたくさん。

誰かといて興味ないものまで摂取していたら疲れるし、趣味が合っても性的な相性や価値観、タイミングは合わないかもしれない。全部がバチっと合うのはほぼ奇跡、宇宙的な確率。だからこそ歩み寄るのがきっとオトナの恋愛なのですが、今の私にはできない気がして。それで疲れたなと(笑)。

――なるほど。同年代の友人もそんな感じ?

annnk:私の周りは結婚するか「もう男はいいよね」という人のどちらかですね。後者の人は多分、真剣に恋愛して燃え尽きたんです。30歳を過ぎると本気で走るのに疲れちゃう。向き合うのではなく、一緒に同じ方向を見て歩いたり、一緒に休んでくれる人を見つけるのが今後の課題かもしれません。

――次作の予定は?

annnk:本当は年内に出したかったのですが、色々とトラブっちゃって。スケジュール管理が苦手なんですよ……。次は1月かな。同世代の女性に共感してもらえる内容になるかと。そこからはコンスタントにリリースしていけるはずです。

次回のゲストは・・・


annnkさんの印象は「自分をよく知っている方」でした。記事内容を相談させてもらうなかでも、やりたいことの方向性やビジョンが実に定まっている。選択や自由に幅がありすぎて決断が難しい現代ですが、まずは彼女のように「汝を知る」ことが大切だなあと感じた次第です。そして何よりもフォトジェニック!

annnkさんが次なるゲストとして紹介してくれたのは、京都宇治出身の新世代SSW・luvisさん。どんなお話が聞けるのか楽しみにしています。思えば随分遠くに来たもんだ。(小池)

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西村満
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