SNS Shocking#8「対抗文化フロム湘南」(ゲスト:Kenshiro Kameyama)
対抗文化=カウンターカルチャー。そのひとつのピークは60年代後半からのいわゆる「サマー・オブ・ラブ」だろう。多くのアーティストたちがロックやフォークで平和を訴えた時代だ。日本でも学生運動が燃え、新宿駅西口でヒッピーたちが歌っていたのは反戦フォークだった。
そして2023年夏、まったく無名のシンガーソングライターの曲がビルボードチャート首位に彗星の如く現れた。それがオリヴァー・アンソニー「Rich Men North Of Richmond」。“リッチモンド”と“リッチ”で韻を踏むので単純に邦題にできない歌だ。そして彼が歌ったのは現状を憂うプロテストソングであり、カントリー(≒フォーク)である。
しかしリリックを見るに、込められた思想は保守的だ。もしかしたら70年を経てカウンターカルチャーが持つ思想が逆転したのかもしれない。これは非常に興味深い動向である。その一方で日本の文化事情はどうなっていくのかにも注目だ。ただ、それに主要な音楽メディアで触れられることはないと思う。
記事&ポッドキャストによるハイブリッド・インタビュー「SNS Shocking」第8回目のゲストは、ベーシストのKenshiro Kameyama。カウンターカルチャーの影響を受けて現在のスタイルを培ってきたという彼が何に反抗し、どうクリエイトしているのか。育った神奈川・湘南エリアのことについても含めて話してもらった。
(写真:西村満、サムネイル:徳山史典、ジングル/BGM:sakairyo)
文化がクロスオーバーする湘南
――カメヤマさんが育った湘南・茅ヶ崎エリアといえば、古くは加山雄三やサザンオールスターズらに始まり、最近だとSuchmos、ラッパーだとLEX、さらにレゲエアーティストも数多く輩出している地域です。何か土地に根ざしたものがあるのでしょうか。
蓋を開けてみるとミュージシャンが多いですね。あとはサーファー、スケーター、ラッパーとかも。なぜでしょうか……(笑)。ただ新しい音楽だけでなく、古い音楽もクロスオーバーしているような印象があります。僕自身もビートルズとニルヴァーナが音楽に目覚めるきっかけでした。
それを教えてくれたのがミュージックバーを経営していたSuchmos・YONCEの叔父さん。彼はずっとBOOK OFFとかをディグっていて、『白番(ザ・ビートルズ)』などの名盤やダニー・ハサウェイの音源を貸してくれました。そんな音楽ディガーや、いい音楽のかかる店が多いので僕も22~3歳の頃から通ってますね。
あとは気軽にジャムできる場所もあります。自分が働いていた茅ヶ崎のライブバー・the froggiesではコロナ禍の期間でも、頻繁にジャムセッションがありましたよ。シンガーソングライターのさらさも来てました。
――YONCEさんとはバンド・OLD JOEで一緒に活動されていたとか。
15歳の時にベースを始めたのですが、YONCEとは小中学校の同級生だったという縁で、7年ほど一緒にバンドをやっていました。
あと最近までSuchmosのドラム・OK、DJ・KCEEとバンド「ゆうやけしはす」も組んでいたんですよ。そのメンバーで前回のゲスト・LISACHRISのサポートもしたりして。
――大学はどちらだったのでしょう?
昭和音楽大学ジャズ科の1期生でした。当時まだ設立されたばかりで実験的なカリキュラムだったと思います。先生は安ヵ川大樹さん。いきなりコントラバスを持たせられて、ひたすらアルコ(弓)の練習をするスパルタな毎日でした(笑)。指の皮もボロボロ。ボーヤ(アシスタント)もやってましたね。今思えば、とても貴重な経験だったなと思います。
学校では奏法や音楽理論を学びましたが、ジャムっていた思い出の方が強いかな。リハーサルスタジオとか借りるお金もなかったので、外部の人を呼んだリハやセッションを学内でしてました。お酒とかも持ち込んだり。ベロベロでセッションして楽しかった(笑)。同期にはSuchmosのドラムス・OKや、DATSやyahyelのドラムス・大井一彌がいます。ただ音楽を続けてない人も意外と多いですね。
――ジャズ科の設立ブームがちょうどカメヤマさんの世代とジャストだったのですね。卒業試験は何を発表されたんですか。
べース奏者のブライアン・ブロンバーグのような独奏をやりました。コントラバスはもう全然触れていませんが、やりたいとはずっと考えてます。鳴らし方がエレキベースと違って難しいんですよ。
卒業してからは、バイトしながら音楽活動をやってました。KANDYTOWNのRyohuやRyu Matsuyama達と一緒にバンド・Aun beatzを組んで活動したり。
社会と演奏の“同期”に抗う
――特に影響を受けたアーティストはいます?
やっぱりジョン・レノンとカート・コバーンは生き方がカッコいい。ただ真似事はしたくないですから、彼らのやったことを自分なりに消化したいと思ってます。
あと彼らのように世の中に対して「なぜこうなっているんだ?」という追求を止めてはいけないなと。ただ、それを考えるのは興味深い反面、苦しいことでもありますね。でも社会の早すぎる流れに抗いながら生きるためには大切なことなのかなと。
――SNSを見たところ、カメヤマさんは「ネオ断食」をしたり、「スピ山」という名義も使ったりとヒッピーな印象を持ちます。
あるタイミングで世の中の見え方が変わったんです。それから体が急激に痩せたり、神社にお参りに行くようになって。今では1日1食くらいで調子がいいくらい。周りからしたら「急にどうしたの?」という感じだったと思いますが(笑)。ただ気付いたら、周りにそういう人が集まっていた。LISA(CHRIS)もそのひとりです。
――その考えに至った経緯も教えてください。
特にコロナ禍は大きな転機でしたね。社会全体がどんどん「何でもいい」という方向に向かっているなかで、声を上げる人が少ない。
例えばインボイス制度はバビロンシステムですよ。大企業は別にして、個人として登録するつもりはありません。マイナンバーカードやコロナワクチンもそう。製薬会社がめちゃくちゃ儲かっているのも変だなと感じています。
――ワクチンについては接種/未接種者を問わず、疑いの目で見ている音楽家は少なくないイメージです。
いると思います。こういうことをもっと世の中に発信した方がいい。
――独創的でいるために大事だと思うことは?
瞑想です。音楽もまずは体と心を整えてからだと思うので。そうすると、インスピレーションが降ってきやすくなる。あと練習は大事なのですが、それよりも瞬間のバイブスだけで30分誰かとジャムるということの方が重要。
曲作りもセッションのなかで生まれたものの方がヤバいんですよ。即興的な演奏をスマホのボイスメモでもいいから、もっとみんなに聴いてもらいたいですね。
――プレイについてのこだわりも知りたいです。
お客さんやメンバーのコンディションで音も変わるので、自分が弾く時は同じ曲でも毎回フレーズを変えます。結局ライブと音源は別物。必ずしも音源を再現する必要はありません。それだとお遊戯会になってしまいます。
最近はシーケンスの同期ありき、イヤモニ(イヤーモニター)の使用が当たり前になっていますが、やはり命をかけて鳴らす生音の波動には敵わないですよ。あと「Mステ」は当てぶりなのに、朝から12時間拘束だったのが辛かったですね。本番は謎にタッピングとかしてました(笑)。
――イヤモニを最初に使って同期演奏したのはYMOです。彼らが使ったクリック(打ち込みと同期するために演奏しながら聴くメトロノーム)の音色は「YMOクリック」と呼ばれています。
YMOは僕も大好きです。アメリカツアーの渡辺香津美さんの演奏はヤバいですよね。テクノとジャズって合うんだなと。ただ、それが主流になってからが問題なのかな。パッケージされたものが悪い訳ではないけど、自分はそれだけになってしまうと抗うことができなくなる気がするんですよ。
音楽は自他を浄化する
――最近も「インボイスで困る人は作品に需要ない」や「プロを辞めろ」という意見が物議を呼びました。
僕も25歳くらいの時に就職して音楽を趣味にするか迷った時期がありましたね。家の近くのアーバンリサーチで働いていた時期もあるんですよ。音楽は聴くのも弾くのも好きなので、妥協しなければいけないのかと苦しかった。でもちょうどサポートに誘ってもらったり、「フジロック」などのフェスに出させてもらったりしたことで助けられましたね。そういう岐路には何度も立ちました。
――未来はどんなミュージシャンになりたいですか。
周りの人を少しでも楽にしてあげたり、笑顔にできるような存在にはなりたいです。音楽は国籍も性別も乗り越えるし、正解も間違いもない自由なものですし、その波動が聴いた人だけではなく、自分自身も浄化してくれるんです。
実は今、自分のバンドをやろうと準備しているんですよ。やるなら仲のいいメンバーと、音楽性も縛らずにトランスもテクノも、ヒップホップもパンクもあり。ジャムでできたものを昇華していければいいかなと。我こそはと思う人は、ぜひInstagramでDMしてください。
次回のゲストは・・・
社会的な同調を拒んだKenshiroさんがクリックによる同期演奏に苦言を呈する、興味深い内容となりました。同期演奏のオリジンのひとり・坂本龍一さんが晩年にアルバム『async(アンチ・シンクロナイゼーション)』をリリースしたことも再考されるべきなのかもしれません。
さて、Kenshiroさんが次回ゲストとして紹介してくれたのは、シンガーのannnkさん。Anna Yanoとしてモデル、アーティスト活動をしてきた方ですが、一体どんなお話が聞けるのか。楽しみにしております。(小池)
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