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泥酔していた金正恩氏は怒鳴り散らし、夜を徹して反省文を書くよう命じた。

昨年(2023年)、『政治家の酒癖』(平凡社新書)という本を出した。紙幅の都合で割愛した愛すべき政治家についてここで紹介したい。

粛清理由は「姿勢が悪いから?」

両脇を刈り上げ、ポマードで固めた独特の髪型に詰め襟の人民服姿。いまではお馴染みだが、当初、独特のスタイルに世界は困惑した。インターネットで画像検索すると驚くが、祖父であり「建国の父」である金日成そっくりなのだ。金日成に似せるために整形を繰り返したとの脱北者の証言すらある。

10代半ばからタバコを吸い、酒を浴びるように飲んでいたという。お気に入りの酒はウオッカ。期待を裏切らない酒豪感が漂う。北朝鮮が現体制になってから世界を驚かせたのは粛正の多さである。2017年2月にマレーシアで金正男氏が暗殺されたらしいことは多くの人の記憶にとどまるっているだろうが、粛正された人数は、定かではない。

韓国の情報機関・国家情報院によると、正恩政権誕生以来、処刑された北朝鮮の幹部は(※著者注体制発足5年時点の)今年九月までに百六十四人に上る。強制収容所への送致や「革命化教育」と呼ばれる地方農場での強制労働に処された幹部は、数え上げるときりがない。

北朝鮮はいま 金正恩体制5年(上)「正恩氏 裸の王様」
2016/12/13 東京新聞朝刊

幹部クラスに限っても5年で164人。1年で33人。小学校の1クラスがまるごとふっとぶ計算だ(ちなみにこれらには心臓麻痺や泥酔しての交通事故死などは含まれていない)。

もちろん、この推測は正しいかどうかはわからない。あくまでも韓国筋の情報だ。そうした前提で読んで欲しいが、本当になにがきっかけで粛正されるかはわからないのだ。

例えば、金勇進副首相は2016年8月処刑されたが、6月末の最高人民会議の席上、メガネをはずして拭いていたことが正恩氏の逆鱗に触れ命を落としたといわれている。さすがにそんな理由はないと思われるだろうが、当初は「姿勢が悪いから」と報じられていたから、なんだかメガネを拭いていても粛清されかねない気もしてくる。どちらにしろ、理解に苦しむ。

「泥酔状態」で処刑説


この問題をさらに複雑にするのが酒だ。

例えば、下記の記事ではいかにこの君主と酒のl組み合わせが怖いかを物語っている。

北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は、全国に三十以上ある別荘の一つに急きょ軍長老を集めた。「おまえたちが軍事衛星ひとつ造れなかったのは反逆罪に等しい過ちだ」。泥酔していた正恩氏は怒鳴り散らし、夜を徹して反省文を書くよう命じた。
震え上がった長老たちは翌朝、書き上げた反省文を携えて控えていた。それを見つけた正恩氏は、事情をのみ込めない様子で言い放つ。「どうして集まっているんだ? 皆いい年なんだから、もっと健康に気を使え」。これを聞いた長老たちはその場で号泣。一方の正恩氏は自分の温情に感動したとでも思ったのか、満足げな表情だったという。
 声を潜めてエピソードを語った北朝鮮関係者は、こう推し量る。「粛清が脳裏をよぎった長老たちは、一気に緊張感が解けて泣きだしたのだろう」

北朝鮮はいま 金正恩体制5年(上) 「正恩氏 裸の王様」
2016/12/13 東京新聞朝刊

なんだか典型的な酔っ払いのエピソードでこちらも泣けてくる。長老たちは生きた心地がしなかったに違いない。

実はこの3年前に、正恩の叔父で政権ナンバー2だった張成沢朝鮮労働党行政部長が処刑されている。この事件は日本でも大々的に報じられたので覚えている人も多いだろう。背景はいろいろ語られているが読売新聞の報道によると直接的には酒が引き金になっていたという。

北朝鮮で政権ナンバー2だった張成沢朝鮮労働党行政部長が処刑されたのは、張氏の部下2人が、党行政部の利権を軍に回すようにとの金正恩(キムジョンウン)第1書記の指示を即座に実行しなかったことが契機になったと20日、消息筋が本紙に語った。金正恩氏はこれに激怒し、2人の処刑を命じ、国防委員会副委員長も務めた張氏らに対する一連の粛清が開始されたという。
部下2人は、同部の李竜河(リリョンハ)第1副部長と張秀吉(チャンスギル)副部長。消息筋によると、2人は金正恩氏の指示に対し、「張成沢部長に報告する」と即答を避けた。激怒した正恩氏は「泥酔状態」で処刑を命じたという。
部下2人は11月下旬に銃殺され、驚いた2人の周辺人物が海外の関係者に電話で処刑を知らせた。韓国政府はこの通話内容を傍受し、関連人物の聞き取りなどから張氏の粛清が避けられないことを察知した。最終的に処刑された張氏勢力は少なくとも8人いたという。

正恩氏激怒 張氏側近 命令に即答せず 粛清の契機に
2013/12/21 東京読売新聞 朝刊

金正恩氏には重病説がつきまとう。韓国の国家情報院によれば、身長は約170センチとされるが体重は、権力を継承した2011年末の約80キロから14年には120キロに、16年には130キロに達した。国情院は20年11月の国会説明では体重が140キロに達したと説明していた。映像や写真を見る限りでは実際、体重増は否定できない。肥満はご存じのように心臓病のリスクを高める。祖父の金日成(キム・イルソン)も、父の金正日(キム・ジョンイル)も心筋梗塞で死亡しており、酒もタバコもなんでもこいとなれば心臓への負担はさらに増す。

影武者説とジェットスキーダイエット

常にささやかれていた体調不安説がピークに達したのが2021年9月9日未明に行われた軍事パレード。激やせして髪型も一変させた金正恩氏の映像に「影武者説」がインターネット上を駆け巡った。悲しいかな、誰もダイエットとは考えずに、影武者説や死亡説を喧伝した。確かに体重は右肩上がりに増え続け、10年間で約1・8倍。そこで反転して激やせとは考えにくい。

結局、この激やせ映像は本人の可能性が高い。実際、韓国の国家情報院は二ヶ月前の7月8日の韓国国会情報委員会で「正恩氏が体重を10~20キロほど減らした」と説明している。また、米国の北朝鮮専門メディアNKニュースは6月に民間衛星会社「プラネットラボ」の衛星写真を根拠に、日本海側の元山沖で同月6日と13日に、それぞれ10数台のジェットスキーの一群とプレジャーボートが航行している様子が確認されたと伝えたという。

こうした点と点を結んでいけば、影武者説の可能性は極めて小さくなる。とはいえ、20キロ落とすにはジェットスキーに励んだくらいでは難しいはずだ。病気で無ければかなりの食事制限と強い運動を強いられたはずだ。果たして金正恩式ダイエットがあるのか。気になるのは私だけではあるまい。

※トップ画像はそっくりさんです。

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