[3−12]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?
第12話 あなたのブラコンが、ここまでだったなんて……
「ユイナス、あなた一体どういうつもりなの?」
お兄ちゃんとあの女が家を出て行ってすぐ、ユイナスはお母さんに問い詰められた。
でもわたしは臆することなく、お母さんを睨む。
「言った通りよ! あの女はお兄ちゃんを狙ってるから、わたしが阻止しなくちゃいけないの!」
そう断言すると、お母さんは、困った顔つきになって頬に手を当てた。
「仮に、ティスリさんがアルデのことを好いてくれているとして、どうしてユイナスが阻止しなくちゃいけないの?」
「どうしても何も、お兄ちゃんはわたしだけのお兄ちゃんだからに決まってるでしょ!」
分かりきったことを聞かれ、わたしが苛立ちを隠さずにそう言うと、お母さんはため息をついた。
「はぁ……あなたのブラコンが、ここまでだったなんて……」
「ブラコンって何よ!? わたしは常にまっとうよ!」
「兄の恋人を拒絶するなんて、ブラコン以外になんだというの?」
「あの女は恋人じゃない! 本人がそう言ってたでしょ!」
「恋人じゃないなら、そっとしておいてあげなさい」
「でも狙ってるのは確かだから阻止するの!」
わたしがそう言うと、お母さんは首を横に振った。
「はぁ……思い返してみれば……あなたはそうやって、ミアちゃんにもいじわるしてたでしょう?」
急に話題を変えられて、わたしは眉をひそめる。
「なんで急にあの女狐の話なのよ。そもそもいじわるなんてしてないし。わたしは、お兄ちゃんを女狐から守っていただけなんだから」
「女狐って……あなたねぇ……」
そしてお母さんは遠い目をして、窓の外を眺めた。
「アルデは昔から、村の武闘大会でいちばんだったのに、どうして全然モテないのか不思議だったのだけれど……あなたが裏で色々と手を回してたのね……」
「お兄ちゃんがモテないのは生まれつきよ! わたしのせいにしないで!」
「…………あなた、アルデのことが好きなのよね?」
「当然でしょ! お兄ちゃんのいいところは、わたししか知らないんだから!!」
「はぁ……まったくこのコは……アルデが王都に行くときは妙に素直だったけど、それにも裏があったのね?」
「…………裏なんてないわよ。うちは貧乏なんだから、お兄ちゃんが家計を支えてくれるなら万々歳じゃない」
わたしは内心ギクリとしながらも、適当に辻褄を合わせる。なんとなく、お母さんには内心を読まれている気がしたけれど、それ以上は突っ込んでこなかった。
その代わりに、お母さんは厳しい口調で言ってくる。
「とにかく。ティスリさんはお客様で、しかもアルデの雇用主でもあるんだから。これ以上の失礼な態度は許しませんからね」
「ぐ……で、でも……」
確かに、あの女はお兄ちゃんの金づる──もとい雇用主でもあるわけで、機嫌を損ねすぎて、お兄ちゃんをまた失業させるわけにもいかない。
わたしが口ごもっていると、お母さんはさらに念を押してきた。
「あなたもお世話になっているんだからね」
「あんな女の世話になった覚えなんてないわよ!」
「この数カ月、食卓の品数が増えたのもティスリさんのおかげなんだから。覚えはなくてもお世話になっているのよ」
「くっ! ならわたしが働くわよ!」
「一体どこで働くというのよ?」
「村から出ればどこだって働けるわ! こうなったらわたしがお兄ちゃんを養ってやるわよ! そしたらあの女を追い出したって問題ないでしょ!」
「あなたは何を言って──あ、ちょっと待ちなさいユイナス!」
わたしは、お母さんの静止を振り切って家から出て行く。
お母さんもお父さんも運動は無理だから、飛び出したわたしを追いかけてくることはできないはずだ。
わたしは、田んぼの畦道を走りながら拳を握る。
「くっ……何もかも貧乏が悪いんだ!」
っていうか、元を正せば両親が病弱で不甲斐ないから、お兄ちゃんが村から出ざるを得なくなって、だからあんな女に掴まってしまったんじゃない……!
ということは、わたしはこれっぽっちも悪くないのに、どうしてお母さんに責められなくちゃならないのよ!
そりゃあ確かに、お兄ちゃんが王都へ上京すること自体は反対しなかったわよ。だってそれは、あのミアから遠ざけることができると思ったからで……!
そして、わたしだってあと2年もすれば学校を卒業するのだから、そうしたらすぐさま、お兄ちゃんを追いかけて上京するつもりだったのに!
そのために勉強もがんばってたのに! 王都で就職するために!
2年だけ我慢さえすれば、お兄ちゃんはわたしのものだったのに!
いったいなんでこうなったの!?
そんなことをグルグルと考えているうちに、気づけばわたしは、村はずれの丘にまで来ていた。村を一望できる高台になっている場所だけど、集落からも田園地帯からも離れているから、めったに人はやってこない場所のはずなんだけど……
「……なに、あれ?」
丘の上に1本だけ生えている巨木の根元に、いくつかの天幕が立てられていた。
天幕といっても、行商キャラバンのような簡易的なものではない。大きくてしっかりした作りで、うちの家屋より立派かもしれない。さすがに広さは家ほどではないけど、でもあの天幕とわたしの部屋を比べるなら、天幕のほうがずっと広々しているだろう。
つまり、遠目に見てもずいぶんとお金がかかりそうな設備だった。あんなものをこの辺の村人が持っているはずもないから、となるとあれは……
「おい貴様! そこで何をしている!」
背後から急に声を掛けられて、わたしは驚いて振り返る──
──と、そこには、剣を抜き放った二人の女性騎士がいた。
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