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[3−13]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?

第13話 それは〜、このあとの展開次第かな〜?

 天幕が準備されたのち、リリィわたしはその中でティータイムを楽しんでいましたが、天幕の外から声が掛けられます。

「リリィ様、不審者を捕らえたのですがいかが致しましょう?」

 ちなみに声を掛けてきたのはラーフルではありません。ラーフルは、領主代行という重要な役割をお姉様に与えられたわけですから、先日まで滞在していた領都に置いてきました。

 お姉様から直々に役職を賜るなんて名誉、早々ないというのにラーフルはなぜか泣きそうでしたが……あれはきっとうれし泣きというものでしょうね。

 ただその弊害として、わたしを護衛する親衛隊員が、何かに付けいちいちわたしに指示を仰いでくるので、いささかうんざりではありますが。

 まぁ親衛隊の指揮はラーフルが統括していたわけで、その当人がいなくなれば、ラーフルより上位であるわたしに指示を仰ぐのは、軍人としてはまっとうなことではありますが……

 だからわたしはため息交じりに言いました。

「不審者って村人でしょう?」

「はい、おそらくは」

 そんな分かりきったことの対処までわたしに聞かないでくださる? ──と喉元まで出かかりましたが、わたしはグッと堪えます。

「でしたら、この辺には来ないよう言い含めた上でさっさと解放を──いえ、ちょっと待ちなさい」

 そこでわたしはハタと思いつきます。

 せっかく村人を捕らえ──もとい出会えたのですから、ここは情報を引き出すのが得策というものですわね。

 あの麗しいお姉様が、こんなド田舎の農村にまで来たのですから、その美貌一つとっても、すでにたくさんの噂が飛び交っていることでしょうからね。

 わたしとしても、どんなタイミングで、あるいはどんな名目でお姉様と対面すればいいか測りかねていたわけですし、ちょうどいいですわ。

 下手を打って、お姉様に帰還命令なんて出されたら目も当てられません。

 わたしは思考を一巡させたのち、外で待機していた親衛隊員に言いました。

「その捕らえた村人の性別や年齢について教えなさい」

「はい。性別は女性で、年の頃は14〜5歳くらいだと思われます。とくに武器を所持しているわけでもなく、ごく普通の村人の服装ですが、少々気が強いのか、さっきからやたらと喚いております」

「ふむ……」

 気が強いのは扱いづらそうですけれど、逆に、怖がって萎縮されては話もできないですしね。気が強いくらいがちょうどいいのかもしれません。

 ということでわたしは決断します。

「その村人を、わたしの元まで連れてきなさい」

「えっ……!? で、ですが……」

「何人かの護衛も連れてくれば問題ないでしょう? 村の状況を確認したいのです」

「なるほど……了解しました……」

 そうして親衛隊員の気配がなくなって少しばかり。

 天幕を覆う帆布の向こうから、やかましい声が聞こえてきました。

「ちょ、ちょっとなんなのよ!? わたしを一体どうするつもりなの!?」

「少し話を聞くだけだ。別に取って食おうなどとは考えていない」

「いきなり両手を縛り上げてよくも言えたものね!?」

「いいから少し黙れ!」

 そんな感じで、ドタバタとうるさい雰囲気が出入口の前で止まったかと思うと、親衛隊員が声を掛けてきました。

「リリィ様、連れて参りました」

「入りなさい」

 わたしが許可を出すと、二人の親衛隊員に両脇を固められた少女が入ってきます。

 確かに顔つきは14〜5歳程度で、その表情には敵意と、そして幾ばくかの困惑が見て取れました。

 そうして、その少女が放った第一声はこうでした。

「…………子供?」

 わたしはちょっとムッとしながらも、椅子の背もたれに寄りかかります。

「おそらく、あなたよりは年上ですわよ」

「いやでも……てっきり、スケベなおっさんがいるものとばかり……」

 どうやらこの子は、手籠めにでもされるのではないかと勘違いしていたようですわね。14〜5歳を手籠めにするような男なんて、この国にいたら即刻打ち首にしてやりますが、それはともかく。

 戸惑う少女に、わたしは名乗り出ました。もっとも、正式な身分を明かすことはできませんが。

「わたしはリリィと申します。あなた、お名前は?」

「ユイナスよ……」

「あの村の方かしら?」

「ええ……そうよ」

 その答えに、わたしは満足して頷きます。

「ではユイナス。先に言っておきますが、わたしは貴族ですわ。すでに察していると思いますが。今はお忍びなので家名は明かせませんが、その理由はお分かりですわね?」

 お忍びで家名は明かせないと言えば、大抵の人間は、相当に高位な貴族であることは推測できるでしょう。

 それを聞いたユイナスという少女は、先ほどまでの勢いはなくなりました。気は強いけどお馬鹿さんではないようです。あるいは、わたしが同世代の女性だと知って、恐怖心が和らいだのかもしれませんが。

 とはいえ警戒する視線は解かないまま、ユイナスはわたしに聞いてきます。

「……そんなご大層なお貴族様が、こんな田舎の農村になんの用よ?」

 後ろ手に縛られ、さらに両脇を親衛隊員にがっちり掴まれていては敬礼の一つもできないでしょうけれども、しかし敬語の一つも使わないとなれば、本来ならば不敬罪なのですが、今はお忍びですしまぁいいでしょう。そんな些細なことを気にしている場合ではないですし。

 なのでわたしは、単刀直入に言いました。

「ある人を探しているのです。あなたには、その心当たりがないかを聞きたくて呼びました」

「ある人……?」

 わたしの言葉に、ユイナスは眉をひそめます。その表情は、すでに何かに感づいたかのようで、わたしは思わず身を乗り出しました。

「ええ。これも詳しくは言えませんが、あなたの村に、大変に美しくて高貴で気高いお方が来訪されていませんか? それはもう、一目見るだけで神々しくて、まるで後光が解き放たれているかのごときお姿のお方が……!」

「………………」

 わたしがお姉様のお姿を説明すると、ユイナスはさらに眉をひそめます……!

「その表情──何か知っていますね!?」

 わたしが立ち上がってユイナスに近づくと、彼女は大きくため息をつきました。

「はぁ……やっぱり、あんたたちってあの女の関係者なのね」

「あの女とは!? あの女とは誰のことです!」

「えっと……あー………………ティスリ、って言ってたわね」

「そのお方です! わたしのお姉様ですわ!!」

 お姉様のことをあの女、、、呼ばわりだなんて、不敬罪どころか即刻死罪にも程がありますが今はそんなことどうでもいいですわ!

「お姉様は!? お姉様は村のどちらにいらっしゃるのですか!」

「どちらって……今ごろ、お兄ちゃんが村を案内しているわよ」

「………………いま、なんと?」

 何か、いま……不可思議な単語が聞こえてきた気がして、わたしは問い返しました。

 ユイナスは、むくれながらも再び言いました。

「だから、今はお兄ちゃんが村を案内してるってば」

「お……お兄ちゃん……?」

 今度はわたしが眉をひそめました。

「あの……お兄ちゃんとやらのお名前を聞いてもよろしいかしら?」

「アルデよ。アルデ・ラーマ。もしかして、あなたたちとも面識があるんじゃないの?」

「──!?」

 その名前を聞いた瞬間、わたしの背筋に電撃のような何かが走り抜けました!

「あ、あなた──」

 そうして目を見開いて、わたしはユイナスを凝視します!

「──アルデ・ラーマの妹なのですか!?」

「だから、そう言ってるじゃない」

「な、な、な……!」

 わたしは数歩後ずさると、ユイナスを凝視したまま、あらゆる可能性を数瞬のうちに探ります。

 アルデ・ラーマは、お姉様を王都から連れ出したにっくき相手ではあるものの、しかしお姉様のお気に入りであることは間違いありません。

 そうでなければ、二人で行動などするわけがありませんし。

 そもそも、これまでお姉様が家臣に目を掛けるだなんてこと一度もなかったわけで──強いていえばラーフルがそうであったかもしれませんが、だとしても、一緒に行動するだなんてことは今まで一度もありませんでした。

 そんな家臣の家族であるならば、その身分が例え平民であったとしても──それ相応に扱わなくては、お姉様の逆鱗に触れかねません!

「あ、あなたたち!」

 だからわたしは慌てて親衛隊員二人に言いました。

「彼女の拘束を今すぐ外しなさい!」

 わたしのその指示に、しかし隊員は即座に反応できません。

「え、しかし……」

「いいから! 彼女がわたしに危害を加えることはありませんから! だからすぐに拘束を外して、後ろに控えなさい!」

「わ、分かりました……」

 お姉様の親衛隊のくせに、お姉様のことをまるで分かっていない連中ですわね!

 お姉様は、そもそも身分なんかに執着しておられないのですから、目に掛けている家臣の家族が拘束されただなんて知ったら激怒しますわよ!?

 そうしたら、この辺一帯が焼け野原になってもおかしくはありません!

 わたしが、そんなことを考えてハラハラしていると、隊員は訝しがりながらもユイナスの手錠を外しました。そしてユイナスから数歩下がります。

 ユイナスは、手錠をされていた手首をさすりながら言ってきました。

「……どういう風の吹き回し?」

「も、申し訳ありませんでしたわね。アルデ・ラーマのご家族だとは知らなかったものですから……」

「ふぅん……?」

 わたしが視線を逸らすと、ユイナスはニヤリと笑いました。

「お貴族様の態度を変えるほどの身分や実力が、お兄ちゃんにあるとも思えないし……となると、あの女ね?」

「………………」

「アイツ、政商の娘だって言ってたけど、もしかしてかなり高位のお貴族様ってこと?」

「わ、わたしの口からはなんとも……」

「なるほどね? その高位のお貴族様が目に掛けている相手の家族を乱暴に扱ったら、そりゃあ、あの女、怒るわよね?」

「………………」

「わたしはよく聞かされていないけど、アイツってば魔法士らしいし、しかもお兄ちゃんと渡り合ったとか言ってたし」

「………………!」

「わたしに手錠をはめただなんて知られたら、まずいかもねー?」

「ま、待ってください!」

 わたしは堪らず、ユイナスに声を掛けました。

「た、確かに拘束したのはこちらの落ち度でしたが、しかしあなたがお姉様とご縁のある方だとは知らなかったがゆえなのです。許してはもらえませんか?」

「それは〜、このあとの展開次第かな〜?」

 くっ……ま、まさか、大貴族であるこのわたしを揺する気……!?

 普通の平民なら、相対しているだけで恐縮しまくるこのわたしを……!

 いったいどんな性根をしているんですの!?

 わたしは、拳を握りしめてからユイナスに言いました。

「よ、要求は何かしら? 単刀直入に言ってくれない?」

 するとユイナスは、不敵な笑みを向けてきます。

「そうね……まずは、あの女の正体を洗いざらい吐きなさい」

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