[2−35]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?
第35話 それはごくごく普通の事なのですから──ふふっ
割れんばかりの大歓声の最中、ティスリは満足して小さく笑いました。
実況も、狂ったように叫んでいます。
『ななな、なんということだーーー! わずか一瞬、ほんの一瞬で決着がついたーーー!! ジェフ選手、完全にノックアウト! もはや意識もない模様です!! アルデ選手、並み居る強敵を打ち破り快進撃だーーー!!』
まったく皆さん大袈裟ですね。最初から、アルデとの実力差なんて一目瞭然でしたでしょうに。
とはいえ観客も実況者も素人ですし、前評判ではジェフという男のほうが高かったようですから、驚くのも致し方なしといったところでしょうか。
わたしにとっては出来レースではありましたけれど、従者の活躍は、主として喜ばしいものですからね。なんと言っても、従者のことを思う主人は、世間一般的に見ても常識的に考えてもステキなのですから。
だから今夜は、アルデをねぎらってあげるのも悪くはないでしょう。それはごくごく普通の事なのですから──ふふっ。
セコンド席でわたしがそんなことを考えていたら、対戦相手が担架で運ばれて行くというのに、審判はいっこうに判定を下しません。それどころか、副審二人も闘技台中央へ集まり出しました。
実況者も、妙に思ったのか解説を続けます。
『おや、どうしたのでしょう? 審判団が集まって、何やら協議を始めた模様です。ジェフ選手が気絶した今、アルデ選手の勝利は揺るがないと思いますが、これはいったい……』
会場内も、歓声から騒めきへと変化しています。何やら不穏な空気がコロシアム内に漂い始めました。
これは、やはり……
わたしが次の展開を予見していると、案の定、主審の男が拡声器を持って、会場内に告げました。
「ただいまの試合、魔法の不正発現が発覚しました。不正発現したのはアルデ選手! よってアルデ選手は失格! この試合、ジェフ選手の勝利とします!」
主審のその判定に、一気に喧騒の渦となります。実況者も叫びました。
『ななな、なんということだぁぁぁ!? もはや無敵かと思われていたアルデ選手、まさかの不正! まさかの不正です!! ひょっとしたらこれまでの試合も不正を働いていたのか!? これは武術大会の歴史に残る汚点だぞぉぉぉ!!』
……この実況者、どんだけ手のひらが軽いのですか。
いささかムッとしましたが、しかしこの展開は読めていたので、わたしはゆっくりと冷静に立ち上がります。
そうして闘技台に上がると、静かに穏やかに、審判団の元へと向かいました。アルデも向こうからやってきます。
わたしに気づいた審判が言ってきました。
「なんだねキミは? ん、キミは女子部門優勝者の──あ、おいコラ!?」
わたしは主審から拡声器をふんだくる──いえ手渡てもらうと、会場内に聞こえるように言いました。
「不正だというのなら──魔法の検知ログを見せなさい!」
ちょっと声が大きすぎて、キーンというノイズが混じってしまいました。そこまで大声を上げたつもりはないのですが、はて?
まぁいいです。おかげで会場内も静まりました。これで、わたしの声も隅々まで届くことでしょう。なのでわたしは続けて言いました。
「不正判定は、試合の記録を追いながら下すのが常識でしょう!」
「わ、分かった! 今から提示するから静かにしろ!」
主審がそう言うと、コロシアム前方にある巨大な掲示板に、魔法の検知ログだけが表示されます。
魔法語で書かれているので素人では読めないと思いますが、わたしには、一目見ただけで偽物だと分かります。
「違う試合のログじゃないですか!」
「な、何を根拠に──」
「ならばログの証明書を映しなさい! 国家認証局が発行している正式なものを!」
「認証局の証明書だなんて、そんな大がかりなログは──」
「公営賭博でもある本大会で、認証局の証明書がないわけないでしょう!」
そうしてわたしは、光だけで虚空に巨大な掲示板を作り上げると、そこに自身が記録した検知ログを映し出しました。
「これが検知ログというものです! もちろん、国家認証局の証明書も添付されています!」
「ぐっ……!」
魔法語で書かれているとはいえ、武術大会の審判ならログを見ただけで内容が分かるはずです。だからでしょう、審判団は数歩後ずさりました。
そんな彼らに、わたしは追い打ちを掛けます。
「観客の方々にも分かるよう、このログを動画にしましょうか!」
そして別の掲示板を作り出し、そこに動画を映し出すと、動画とログを付き合わせて説明を始めます。
「魔法を使っていたのは、アルデではなく相手選手のほうです! 試合開始から13分後、相手の動きが急に良くなりましたが、あのときが最初の魔法発現です!」
わたしがそう説明すると、次第に場内がざわつき始めます。聞こえてくる観客の声を魔法で拾うと「そう言われてみれば……」「あの動きはちょっと妙だったよな……」「そもそも大会側のログは確かにおかしい……」などという声が聞こえてきました。
なのでわたしは、この機を逃さず畳みかけます。
「そして! 魔法の出所はブーツです! 試合開始13分以降、相手選手はブーツ型の魔具を使っていたのです! 違うというのならあの選手を連れ戻し、ブーツを調べさせなさい!」
わたしは一歩踏み出すと、審判団は、顔面蒼白になって視線を逸らします。
「魔法発現されたにもかかわらず、アルデはそれに打ち勝ったのですよ! 不正は一切行わずに! その戦果を称えるのではなく、失格にするとはどういう了見ですか!」
しかし審判団は答えてきません。だからわたしはさらに詰め寄ります。
「さぁ、アルデ失格の取消を!」
わたしが審判団の間近まで詰め寄った、その瞬間──
「そこまでじゃ!」
──場内に、しゃがれた声が響き渡りました。
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