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[3−9]最強のぼっち王女がグイグイ来る! オレは王城追放されたのに、なんで?

第9話 そぉんなに、わたしとプライベートで仲良くなることはイヤですか……

 ティスリわたしが、アルデを好き?

 まったくもって意味不明な理論展開に、わたしは頭をフリーズさせていると、ユイナスさんはさらに言ってきました。

「そもそも! なんで指輪を二人でしているのよ!? おかしいでしょ!!」

 固まっているわたしの変わりに、アルデが答えます。

「これは魔具なんだよ。不意の襲撃に効果抜群なんだ」

「だからって左手薬指にする必要ないでしょう!?」

「いやそれは……男避けも兼ねているからな。ほれこのとおり、ティスリは見た目は麗しいから──」

「お兄ちゃん? いま、『見た目麗しい』って言ったよね?」

「ああ……言ったけど?」

「つまり見た目以外は駄目ってことね!?」

「は? なんなんだ、その超解釈は?」

「ふふん、お兄ちゃん知らないの? 人間、無意識に出る言動に本音が隠れているのよ。このヒトが容姿は元より性格もお兄ちゃんにふさわしいなら、『見た目麗しい』というはずよ!」

「そんなの、揚げ足を取っただけだろ」

「違うわ! それに本題はその指輪よ!」

「だから、なんなんだよ……」

「男避けも兼ねているというのなら、お兄ちゃんまで薬指にする必要ないじゃない!」

「へ……?」

「だってお兄ちゃんは、そこまでモテないでしょ! だから女避けとしての指輪は不要のはず!!」

「い、妹よ……お前はいったい……何が言いたいんだ……?」

 ちょっと涙目になるアルデに、ユイナスさんは臆せず言い切りました。

「つまり! お兄ちゃんにも薬指に付けさせていること自体、おかしいのよ! 無意識のうちにある本音ってわけね!!」

 そんなことを言われて。

 わたしは、自分の指輪に視線をいっとき落としてから、静まるリビング内で、おずおずと手を上げました。

「あのぅ……」

「何かな!?」

 キッと睨んでくるユイナスさんに、わたしは萎縮を感じましたがなんとか話せました。

「わたし……アルデには、身の安全のために指輪を身につけなさいとは言いましたが、薬指に付けることを強要した記憶はありませんが……」

 そうしてまた、シーン……という音が聞こえてくるくらいの静寂が訪れます。

 やがて我に返ったかのように、ユイナスさんが言い放ちました。

「な、何を白々しい……! そ、そもそも! 指輪を渡した時点で意図があるに決まってるじゃない!」

「ですが……ネックレスなどですと、脱着に意外と手間なのです。何かの拍子に切れてしまうこともありますし。なので防御系の魔具としては指輪が一般的で……」

「あーもー! うるさいうるさい! そんなこと知らない!!」

 なんだか駄々っ子のようになってきたユイナスさんに、アルデが言い聞かせるかのように切り出しました。

「おいユイナス、いい加減にしろよ? そもそもティスリはオレの雇用主だし、大商会のお嬢さんなんだから、本来なら、そんな口を利いていい相手じゃないんだぞ」

 そう言われるのは……なんだかちょっと寂しい気もしますが……ユイナスさんをなだめるためというのなら致し方ありません。

 さらにお母様のサーニさんも言いました。

「そうよユイナス。そもそも、無意識の行動に本音が表れるというのなら、強要されてもいないのに、指輪を薬指に付けていたのはアルデなんだから、アルデがティスリさんを好きってことになるじゃない」

「……………………はいぃ?」

 どこからともなく、まぬけた声が上がりました。こんなまぬけ声、わたしの声であるはずがないわけですが……?

 そうしてまた静寂が訪れます。

 気づけばリビングの扉がキィッと開いて、シバが入ってきました。そうして「へっへっへっ」と舌を垂らしながらアサーニさんの元でお座りをします。なかなかにお利口さんな犬です。

 するとアサーニさんは「あらあら? もしかして水皿が空だったかしら?」と言って立ち上がると、シバと共にリビングに行ってしまいます。

 爆弾発言を残したまま。

 アサーニさんがキッチンへと消えたそのタイミングで、ユイナスさんが悲鳴のような声を上げました。

「おおおお兄ちゃん!? お母さんの言ったことは本当なの!?」

「本当なわけあるか!? そもそも無意識云々は、お前の勝手なでっち上げだろ!?」

「そそそそんなことないもん! ヨーゼフおじさんが言ってたもの!」

「学者気取りのインチキ野郎だろアイツは!?」

「でも一理あると思ったのよ!」

「一理もあったら、オレがティスリに惚れてることになるじゃんか!?」

「じゃあインチキよ!!」

 ………………。

 わたしは、ユイナスさんに気づかれないよう、アルデに念話魔法を飛ばします。

(そぉですか、アルデ……)

(な、ティスリ!? あ、魔法か!)

(そぉんなに、わたしとプライベートで仲良くなることはイヤですか……)

(そうは言ってないだろ!? ってか、この村までの旅路のぜんぶがプライベートだったじゃんか!)

(どぉりで、仲が悪かったわけですね。わたしたち……)

(えっ? あ、いや……オレは仲良くしていたつもりだったんだが……)

(……え?)

「ちょっと二人とも!」

 ユイナスさんが割って入ってきたので、念話は途中で途切れてしまいます。

「何を見つめ合ってるのよ!?」

「睨み合ってんだよ!!」「睨み合ってるんです!!」

 アルデとわたし、二人の声は重なりました。

「もー! とにかく!!」

 ユイナスさんは席を立つと、ぐっと身を乗り出して言いました。

「これ以上、ふたりっきりで旅行なんて禁止! もし旅行するならわたしもついてく!!」

「はぁ!?」「えっ!?」

 思いも寄らぬことを突然言われて、またしてもアルデとわたしの声が被ります。

 と、そこに、シバに水をあげたアサーニさんが帰ってくると一喝しました。

「ユイナス、いい加減にしなさい!」

 するとユイナスさんはビクリと肩をすくめます。おっとりした感じのお母様が声を荒げたので、わたしもいささか驚きました。

「あなたは、いったいなんの権利があって、二人の恋路を邪魔するのです!」

「い、いやあの………………」

 アサーニさんがお門違いなことを言い出すので、わたしは小さく挙手するのですが、どうやら視界に入っていないようです。

 困ったのでアルデを見ましたが、アルデは肩をすくめて首を横に振るばかり。そうこうしているうちにユイナスさんが言い返しました。

「だ、だって! わたしはお兄ちゃんの妹だもん! お兄ちゃんの結婚相手は家族の全会一致が必要なのよ!」

「で、ですから………………」

 顔が火照るのを自覚しながら、わたしは挙手を続けるのですが……二人は見向きもしてくれません……

 アサーニさんは、ため息をつきながらユイナスさんに言いました。

「あなたはどれだけ時代錯誤な話をしているの? 今どき、成人した男女の結婚に家族の承認が必要なわけないでしょう?」

「必要だもん!」

「必要ありません。法律的にだって、親の同意なしに結婚できます」

「で、でも……!」

 ユイナスさんは言い返せなくなりましたが、それでも納得してくれそうにありません……って……!

 この話、流れがおかしいでしょう!?

 なぜわたしとアルデが結婚すること前提で話が進んでいるのですか!?

 ご家族を訪問しただけで……どうしてこんな話に?

 いえ……なんとなくイヤな予感はしていたから、わたしはらしくもなく緊張していたのかもしれません……

 地元に女性を連れてくるとは、とどのつまりこういうことなのでしょう。よくよく考えれば貴族だって、自分の領地に見知らぬ女性を連れて行くのは、つまりはそのような理由なのですから。

 まったくもって……盲点でした。イヤな予感があったのに、その理由を放置していたとは……超絶天才美少女であるこのわたしが……

 そんな後悔をしていたら、アサーニさんが、いつも穏やかな表情をわたしに向けてきました。

「ティスリさん、ごめんなさいね。うちの娘が失礼なことばかり」

「いえ……構いません。見知らぬ女性が突然訪問したら、誰だって驚きますから……」

 わたしが知るのは王侯貴族の場合ではありますが、普通は先触れを出しますからね。しかしアルデの生家には通信魔具もありませんし、今のわたしには動かせる人員もいなかったのですから……致し方ないことではあります。

 だからわたしは、ユイナスさんの言動については気にしていない旨を伝えると、アサーニさんはホッとしたような顔つきになりました。

「そう言ってくれると助かるわ。この子はわたしがなだめておくから、その間に、アルデに村を案内してもらってはいかがかしら? ご商売の視察がそもそもの目的だったのでしょう?」

 なんとか妹さんの誤解を解きたいところなのですが……今の様子を見る限り、一朝一夕で出来そうにもありません。

 だからわたしは頷きました。

「そうですね……ではそうしましょうか……」

「ちょ、ちょっと!?」

 何かを言おうとしたユイナスさんでしたが、アサーニさんのひと睨みで黙ってしまいました。それからアサーニさんはアルデに言います。

「それじゃあアルデ、村をしっかり案内してあげてね?」

 するとアルデは、ため息をついてから頷きました。

「ああ、分かったよ。あ、そうだ。ついでにシバも、散歩がてら連れて行くか」

 そうしてユイナスさんとの口論は、お母様のおかげで一時休戦になったのでした。

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