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町中華には赤いカウンターが似合う

 中野坂上は交差点を中心に、道で隔てた4ブロックそれぞれに飲食店が点在している。
 その中でも「麺屋たいせい」「松屋」「炭火焼専門食処 白銀屋」「らぁ麺なとり」などがあるブロックは駅の2番出口を出てすぐに店が並ぶため、利用頻度が一番高い。
 しかも出口周辺に店が集中していることもあり、このあたりでランチを済ませてしまうことが多い。

 実はこのブロックには完全予約制の人気ラーメン屋「むかん」もある。現在は営業をしていないから行くこともなく、何も気にしてなかったのだけど、ふと「むかん」のある通りって他に店ないんだろうか? と気になってしまった。
 「むかん」も駅からは近いものの、住宅街のようなひっそりした裏通りにあるので、わざわざ足を運んだことがない。が、気になってしまったので、ちょっとだけ行ってみようと思った。

 山手通りを東中野方面へ歩き、「モスバーガー」を越えて一つめの通りを左折する。
 知らなかったけれどこの通りにも飲食店がいくつかあった。「不二子」という寿司居酒屋や会員制のバー、「むかん」は閉まったままだが隣には「ZUCCO」というカフェバーがある。「不二子」と「ZUCCO」はランチもやっているようなので、どちらかに入ってみようかと思ったところで、僕のセンサーに何か引っかかるものを感じた。
 そうなのだ、視界の中に気になるものがチラついた。道の先をよく見ると、赤色のひさし、そしてレトロなコカコーラ看板が見える。これは昭和的町中華に違いない!

 こんなところに町中華があったとは。俄然、気分が上がってきた。
 足早に店の前へと行く。
 赤いひさしには「味の王者 新華楼」と店名が描かれている。
 味の王者。まさに昭和町中華らしい。味の横綱とか大げさなキャッチコピーはレトロ町中華の定番だ。さらに気分上々になる。

 店内は四人がけテーブル4つとカウンター8席くらい。結構お客さんで賑わっている。
 カウンターに座って、周囲を眺めるとメニューの張り紙が壁中に貼られていた。
 さて、何を頼もうか?
 隣のお客さんはオムライスを食べている。いいねぇ、昭和っぽいオムライス。あ、ドライカレー食べている人もいる。それも旨そう。他にはレバニラの定食、カツカレー、タンメンとチャーハン、みんな食べてるものはバラバラだな。

 メニューを見ると、オリジナル料理がある。しんちゃん丼? なんの説明も書いてない。なんだろうちょっと気になるな。あとうどんナポリ。これは焼きそば麺のナポリタンなんだろうな。カレー野菜つけ麺、こいつも気になるが、グルテン制限中だしな。もう一つ、スタミナ丼。これもなんだろう? よし、とりあえず今日はこのスタミナ丼を頼んでみよう。と、おかみさんに注文する。

 カウンターには普通に灰皿が置いてある。喫煙可みたいだ。そういえば、一品料理もあるし厨房内にあるホワイトボードには酒のつまみメニューも書かれている。かつの卵とじやミートオムレツ、焼鳥なんかもあるみたい。町中華で焼鳥は珍しい。へえ、今度は夜の晩酌に来たいな、タバコも吸えるし。まずは餃子とビールからスタートだな。町中華で一杯って最高だよね。

 カウンター内ではご主人が中華鍋を振っている。と、ほどなくスタミナ丼が提供された。

スタミナ丼 新華楼@中野坂上

スタミナ丼

見た目はかつ丼、いや一味唐辛子がかかっているのとカツの下にニラが見える。かつ丼そのものもメニューにあるから、ニラ入りかつ丼でスタミナってことなのだろう。

 かつは薄っぺらい。厚めの生姜焼きに使ってる豚ロースくらいの厚さだ。衣にはしっかり味が染み込んで旨い。唐辛子もいい感じ。やっぱりかつ丼は卵とじがいいよね、ってしみじみ思う。
 と、かつを一切れ食べて気がついた。かつの下からニラとひき肉が現れたのだ。

ひき肉とにらの卵とじ

 ひき肉を使ったニラ玉、またはニラの入ったミートオムレツとでもいうべきだろうか。なるほどスタミナ丼だ。かつとひき肉ニラ玉のコンボ丼。
 で、この肉ニラ玉が旨い。かつの肉が薄いのはこのためなのかもしれない。両方合わせると結構ボリューミーなのだ。丼もデカく、白飯も結構入っている。かつと肉ニラ玉というボリューミーなおかずのおかげで、ボリューミーな白飯でもちょっとご飯が足らないかもと思ってしまった。
 
 腹一杯になって、iQOSを一本吸って店を出る。常連さんが多いのか、次から次へとお客さんがやってくる。このお店の創業は1969年とある。僕も50歳を過ぎて改めてこういうお店に対して尊敬の念を抱くようになった。僕が生きている人生の時間すべて、50年以上、店主とおかみさんはこうやって鍋をふり、この街の人々の胃袋を満たしてきたのだ。
 ご夫婦がお店を続けていられる限り、この街にあり続けて欲しいと本当に思う。

 こんなところで最高の町中華に出会えるとは思わなかった。やっぱり同じところばかりじゃなく、たまにはうろうろしてみるもんだね。
 次回は、赤いカウンターでノスタルジックに晩酌をしようと決めた。
 やっぱり〆には、しんちゃん丼かな。ものすごく気になる…。


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