見出し画像

須坂まで。

お盆休みの最終日、須坂へ出かけた。
長野電鉄の善光寺下駅から電車に揺られて
20分。千曲川の鉄橋を渡って行くと、
川面に暑い日差しが照り返し、空にはでかい積乱雲が
沸いている。
駅を出ると、いつものようにひと気がない。
この町はそこが好い。
かつて養蚕で栄えた町は、そこかしこに名残りの
土蔵が残っていて、街並みに落ちついた風情がある。
人混みが苦手だから、ゴールデンウィークやお盆を
はさんだ夏休みなど、普段暮らしている
善光寺界隈が人であふれるときに、思い出しては
訪ねているのだった。
ゆるやかな坂道を上がっていくと、こじんまりした
町の中で、県立須坂病院のりっぱな建物が目を引く。
そのわきの石畳の通りを歩いて行くと、
金物屋とおばさん向けの洋品店が店を開けていた。
八百屋の角を曲がって劇場通りを上がって行く。
かつて須坂劇場が在った通りで、当時の人気歌手や
歌舞伎一座の興行でおおいに賑わっていたという。
歩く先々に、閉店した店と、ひっそりと商売をしている
店が並んでいる。
通りの入口に往時を偲ばせる、劇場通りのアーチが
残っていた。
以前から気になっていた、昔ながらの食堂、東京庵は、
暖簾が出ているのに、入口に、都合によりしばらく
休みますの知らせがあった。通りから、古びた家屋の
並ぶ小路を抜けて駅まで戻っていくと、
廃業したお蔵の、松葉屋の軒先の杉玉が、哀愁を
誘ってくる。
跨線橋を渡って、さて、夏バテ防止に栄養を。
本日の昼酒に、鰻のた幸におじゃました。
カウンターの隅に落ちついて、エビスを一本。
飲みながらご主人と話をすれば、お盆の連休中は、
うな重の持ち帰りの注文が多かったという。
帰省してきた家族を迎え、おじいちゃんおばあちゃん、
息子夫婦や娘夫婦にかわいいお孫さん、
みんなそろって美味しいご飯どきを過ごしたことだった。
う巻きをつまみに越後の越路乃紅梅を酌み、
白焼きをつまみにおなじく越後の〆張鶴を酌んだ。
一輪挿しのユリの、ほのかな香りが心地好い。
かば焼きをつまみに酌み干して、なんとも贅沢な
お盆休みの締めとなったのだった。

静かなる町の鰻や盆休み。








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?