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大学教員の私がnoteに記事を書く理由

 私は大学教員になって13年目になりますが、最近思うところあって、noteに自分の研究分野に関係する記事を投稿することにしました。私の日本語教師人生後半の大きな挑戦なので、ここに私の思いを書いておきたいと思います。私自身の自己紹介にもなりますし、もしかしたら同じ志を持つ人が読んでくださるかもしれません。
 
1.    日本語教師を目指すまで
 私が日本語の文法研究を始めたのは2001年です。1998年に大学を卒業した後、いったん一般企業に就職しましたが、大好きな語学を仕事にしたいという思いが強くなり、大学院に進学しました。私は外国語学部を卒業したのですが、4年間外国語を勉強したというだけでは仕事に結び付けられず、とりあえずと言ったら失礼かもしれませんが、その時内定をいただけた一般企業に就職しました。
 一般企業に入社して、社会人として重要なことをたくさん教えていただけましたが、同時に自分が好きな語学の分野で仕事をしたいという気持ちが強くなりました。しかし、私が専攻した外国語は日本では需要がありませんし、英語教師になるのも違うように思いました。そんな時、ネットの記事で国際交流基金が日本語専門家を海外派遣するプログラムについて知り、日本語を外国語として学ぶ人たちをサポートする仕事に興味を持ち始めました。外国語能力そのものよりも外国語を学習してきた経験が活かせるのではないかと思ったからです。そこで思い切って会社を辞め、日本語教育を大学院で学ぼうと決心しました。大学院に入学したのと同時期に日本語教育能力検定試験に合格し、日本語学校の非常勤講師として採用していただくことができました。そのように日本語教育のキャリアをスタートしたものの、研究も教育も初めての私にとって大変ないばらの道でした。
 
2.    研究と教育実践の2足のわらじ
 大学院で学術研究の仕方を曲がりなりにも身につけて修士論文を執筆するというだけでも泣きたくなるぐらい大変な作業でしたが、同時に日本語学校の非常勤講師としての役目を果たすことに大変苦労しました。おそらく大学院の先生方にも日本語学校の専任の先生方にも多大なご迷惑をおかけしていたに違いありません。しかし、現場の経験と研究を両輪として同時に進めてきたことは、後の私の強みとなりました。
 私が博士号を取得できたのは2011年で、修士課程に入学してから10年後のことでした。実は私は修士課程修了後に一度就職し、専任の日本語教師を数年間経験してから博士課程に戻ったという経緯もあり、博士号を取得するまでかなりの時間をかけてしまいました。
 
3.    大学教員としてのキャリア
 やっと博士課程を修了して、大学教員としてのキャリアをスタートして今年で13年になります。現在までに執筆した研究論文は30本となり、指導した留学生の数も数百人ぐらいになると思います。経験を重ねるにつれ、日本語を学習する人が躓きやすいポイントがわかってきたり、知識と経験の蓄積によって適切な指導やアドバイスができるようになってきたり、留学生の指導に手ごたえを感じられるようになってきました。ただ、日本の大学教育の現状は大変厳しいものです。目の前の留学生に教えるという仕事に専念しつつも、将来この仕事にどれほどニーズがあるのか、考えてしまいます。
 
4.    大学の未来に対する不安
 大学といってもやはりビジネスですから、世の中のニーズに応えられなければ淘汰されていきます。ただでさえ少子化によって大学受験者数自体が減っていますが、加えて実学志向の高まりによって教養的な学問よりも仕事に直結する学びが求められるようになりました。また、生成AIの発達によって機械翻訳の精度が高まると、自ら語学を学ぶよりも大学では他の専門性を身につけ、語学はAIで代替できるのではと考える人も現れてきました。また、海外から日本への留学生も今後安定的に獲得できるのかにも不安材料があります。日本経済の低迷によって日本留学の価値が相対的に弱まり、特に東南アジアなど経済成長著しい国から見ると以前ほど日本に魅力を感じられなくなっているのではないかと思います。そんな中で大学教育における語学教育の役割を改めて考えさせられ、私の残りの職業人生にとって大学以外で教える選択肢を持つことが重要に思われてきました。
 
5.    オンライン日本語教師としての挑戦
 私自身の日本語教師としての働き方を模索する中で、オンライン語学プラットフォームに登録し、オンラインで日本語を教える仕事を経験させていただきました。オンライン日本語教師は、それはそれで大変厳しい世界で、学歴や専門性だけでは戦えない厳しい市場競争があります。そういう意味で現状の私はビジネスとしてうまく行っているとは言えませんが、それでもこれまで出会った学習者の方々はさまざまな国籍、年齢、職業を持っていて、大学だけで教えていたら出会えなかった方々ですし、さまざまな学習者のニーズに応えて教える仕事は、楽しさとやりがいを感じます。個人事業なのですべて自分の裁量で決められる点も自由で楽しく、集客の工夫などマーケティングの考え方も学べます。そのような取り組みの中で、私がこれまで身につけてきた専門性と教授経験という強みがやはりオンラインで教える際にも十分に役に立つと気づきました。他のnoteの記事でも書かれていましたが集客の際の訴求力はやはり見た目の印象などのほうが強く、専門性だけでは売れません。だた、出会った学習者には満足してもらえます。オンラインで学んでいる方の多くは明確な目的意識を持った大人の学習者で、目標達成までの効率的な学習を求めています。そして、長く独学されてきた学習者はさまざまな疑問・質問を持っておられて、長年の疑問が解決されたと言って喜んでくださいます。
 
6.    SNS情報発信の必要性を感じて
 私の限られた研究成果と教授経験であっても、日本語を学んでいる人の役に立てることがあるという確信を得て、もっと広く世界中で日本語を学んでいる人たちに情報を届けたい、そして、教える立場で日本語学習者を支えている人たちの助けになりたいと考えるようになりました。学会誌に掲載する学術論文では読む人が限られていますし、学術的に価値がある内容だけが役に立つのではないと思います。日本語を学んでいる人や日本語を教える人が疑問に思っていることにピンポイントで答える情報がSNS上に蓄積していけば、独学で学んでいる人たち、教えている人たちの助けになると思います。そのように考えて、これまでの私自身の研究成果や、学習者の方からいただいた質問をきっかけに調べたりまとめたりしたことなどをSNSでわかりやすく伝える活動をしていきたいと考えています。
 
 なんだか偉そうに書いてしまいましたが、私自身どこまでできるかわかりません。しかし、SNSを通して日本語教育に関する専門的な情報をわかりやすく伝えていくことを残りの日本語教師人生の挑戦として続けていきたいと思います。

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