財務省の公債依存の問題点の指摘について考えてみる。

一 問題の所在
財務省のHPを見てみると、公債負担の問題点が指摘されている。
整理すると以下の点にあるようだ。

https://www.mof.go.jp/policy/budget/fiscal_condition/related_data/202110_02.pdf



①我が国では、社会保障の受益と負担の均衡がとれていない。
②現在の世代が自分たちのために財政支出を行えば、将来世代に重いツケを回す。
③望ましくない再分配
④財政の硬直化による政策の自由度の減少
⑤国債や通貨の信認の低下などのリスクの増大
以上の問題意識があるようだ。


これらの指摘は正しいのだろうか。ひとつずつ検討してみよう。

二 受益と負担の不均衡について
 高齢社会を迎えてイメージ的に社会保障費が増大しているように見えるため、社会保障の受益と負担の均衡がとれていないという批判は一見正しいようにも思える。すなわち、国民が支払っている負担に比べ、受け取る給付が多いと言いたいのだろう。
 しかし、社会保障は強制加入ではなかったか。社会保険料も給付金も国民が決定したのではなく、政府が勝手に決定したものだろう。いまさら給付が多いと言われても、困惑するのは国民のほうだ。強制加入の制度を国民に強いながら、後になって給付が多いとは後だしじゃんけんもいいところだろう。一般的な常識において許される主張ではない。
 給付を受ける受給資格者は40年社会保険料を支払っており、税金も含め正当な負担を支払っている。受益と負担のバランスが取れていないと批判される筋合いのものではない。社会保険料収入のほかに税金を投入しなければならないのは、国民から預かった社会保険料をきちんと運用することもできず、将来の見通しを誤って支払い余力を低下させている政府の責任であり、国民に対して謝罪するならともかく大きな顔をして財務省が主張すべき事柄ではない。

三 将来世代へのツケについて
 国債発行についても将来世代の負担はよく言われることであるが、それは見せかけにすぎず、国債発行つまり政府の負債が将来世代へのツケになるという批判も当たらない。
   まず、こういう議論がなされるときの将来世代とはいったいいつの世代のことを特定していうのだろうか。
 将来世代への負担という概念が当てはまるのは、政府債務の償還が現金でなされ、これが将来の国民への増税によってなられるおそれがあるという前提があるからだ。
 しかし、その将来世代もまた国債という金融資産を保有する世代であるし、全ての政府債務を現金償却して政府債務がなくなる事態など空想ならともかく現実に生じるのだろうか。
 国債償還を現金償還ではなく借換債ですれば、ツケを払う将来世代という限定は半永久的に出てこない。ツケを払わなければならないのは60年償還ルールを設け、償還時の景気不景気に関係なく現金償還をしているからに他ならない。
 言うなれば、将来世代にツケを払わせているのは、この60年償還ルールがその要因となっている。しかし、このルールを設けているのは日本以外には見当たらず、他の国は財政収入が黒字になるときに国債償還をしているにすぎない。
    不景気のときにも国債の現金償却をして更なる不景気を招くようなバカな真似をしている国家はただ日本だけであり。これが世界でもまれなるデフレスパイラルを30年も続けた要因となっている。そして税収不足で国債残高が他国に比べて増えている要因でもあるのだ。

四 望ましくない再分配
 将来世代のうち国債保有層は償還費等を受け取れる⼀⽅、それ以外の国⺠は社会保障関係費等の抑制や増税による税負担を被ることになりかねないという批判をしているが、これは経済格差が生じることを指摘していると思われる。
 しかし、これも不可思議な指摘である。
 まず、国債保有者は適切な支出をしたのだから、償還費を受け取るのは当たり前の話だろう。
 そして、国債発行による債務負担の側面しか強調していないが、獲得した財源を財政支出すれば、国債保有者以外の者も受益者になっているはずである。
 もしかりに、政府債務の増大で経済格差が広がるのであれば、それこそ財政政策で解決すべき問題だろう。

五 財政の硬直化による政策の自由度の減少
 経済危機時や⼤規模な⾃然災害時の機動的な財政上の対応余地が狭められるという批判である。
 これも税収の範囲内で歳出を決めようとする発想から生じる問題にすぎない。むしろ、経済危機や大規模な自然災害時には大規模な国債発行を行い財政支出すべきである。

六 国債や通貨の信認の低下などのリスクの増大
 国債や通貨の信認が低下するのは、債務残高の大きさで図るのではなく、返済能力があるかどうかによるだろう。
 したがって、国債の通貨の信認は、政府債務残高対GDP比ではなく政府純利払い費対GDP比で判断すべきだろう。
 さらに、そんなに国債や通貨の信認が心配なら、政府債務残高だけで判断するような乱暴な議論を展開するのではなく、「経常収支/GDP」「対外純資産/GDP」「政府債務対外債務比率」やクレジットデフォルトスワップ(CDS)の指標も国民に開示して慎重に判断すべきだろう。

七 おわりに
 景気化が過熱してインフレを抑制しなければならないときは税収も大幅に増加しており、債務を償還する余力があるのだから現金償還すればよい。そうすれば、市中の通貨供給量も減少して金利も上昇しインフレは抑制されるだろう。増税して市中の通貨を吸収しても構わない。
 しかし、物価が低迷しデフレが続き不景気のときに、現金償却や増税は、景気を悪化させるだけで、さらなる税収不足を招く。そうすれば、税収不足を補うために再び国債を発行せねばならなくなる。日本の30年間はこの繰り返しだった。財務省はなにも学んではいない。60年国債償還ルールを設けることで不景気のときにも現金償却を実施し、目の前の果実をむさぼり食べて将来の果実の種も残さなかったのは他ならない財務省だったのだ。本当は、この60年国債償却ルールを廃止すべきだった。



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