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大切なことはわかりやすい言葉で

娘との受験勉強の日々も、いよいよラストスパート。
入試対策として1日の勉強の終わりにSDGsの本を少しずつ読み進めるのがここ1ヶ月ほど日課となっていて、本番が近くにつれ、その本のページも残り少なくなってきた。こんなことからも、いよいよだなぁ、と思う。

SDGsを学ぶ

SDGsに関連する入試問題を、社会や国語で出題する中学校は多いという。
わたし自身も近年興味あるテーマだし、娘がこの機会にSDGsに関心を持つことはとてもいいことだと思っている。
そのため、昨年秋には早々と大手進学塾が発行するSDGs本を購入した。がしかし……はたして、この本は本当に中学受験生(つまり小学生)にSDGsを理解させようという意図でつくっているのだろうか?と首をかしげたくなるくらい、内容がわかりにくくて困ってしまった。
ページを音読している娘はいかにも読みづらそうだし、内容が頭に入らずただ機械的に字を追っているだけ、という様子があきらか。聞いているこちらも、まるで娘の声がお経に聞こえてくるくらいに退屈なのである。

こりゃいかん、と別の本を買い直すことにして、次に買った本は、当たりだった。
それが『こどもSDGs なぜSDGsが必要なのかがわかる本』。

そもそもSDGsの開発目標を日本語訳した文言は、わかりにくい。
「持続可能」や「包摂(ほうせつ)的」という言葉には、大人でも思わず身構えてしまう堅苦しさがあるし、この言葉こそ日本語に訳してほしいんだけどな……という横文字がなぜかそのまま残してあったり。
たとえば、

目標8「すべての人々のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進する」

目標9「レジリエント(強靭)なインフラを整備し、包摂的で持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る」

目標15「陸上生態系の保護、回復および持続可能な利用の推進、森林の持続可能な管理、砂漠化への対処、土地劣化の阻止および逆転、ならびに生物多様性損失の阻止を図る」

目標16「持続可能な開発に向けて平和で包摂的な社会を推進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供するとともに、あらゆるレベルにおいて効果的で責任ある包摂的な制度を構築する」

……こんな感じ。
一応、それぞれの目標をシンプルに短くまとめたキャッチコピーもあって、上記の目標はそれぞれ

目標8「働きがいも経済成長も」
目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」
目標15「陸の豊かさも守ろう」
目標16「平和と公正をすべての人に」

……となるのだが、これらのキャッチと、先ほどの長くてわかりにくい文言をセットで読んで、各目標の内容を理解しなくてはいけない。

子どもにも大人にもストレートに届く言葉で

そこへ『こどもSDGs』という本がありがたいのは、入門向けにもかかわらず、SDGsという開発目標の内容を説明することに終始していないから。
そもそもSDGsという目標が今なぜ必要なのか、それは世界には現在こうした課題が山積しているからなんですよ、という視点を軸に構成されていることで、おのずとSDGsの成り立ちが理解できる。そのアプローチが自然で、とっつきやすいからなのだ。
写真も多く、イラストもかわいく、文章も長すぎず、コラムも効果的に差し込んであり、読みやすい。SDGsの17の目標の正式な文言については、最後に付録として掲載してある。そうそう、こういう本を求めてました、という感じだった。

ちなみにネットの記事で見つけた池上彰さんによる解説も、さすがのわかりやすさで感動。

子どもはもちろん、わたしみたいに常識がないまま年だけ食ってしまった大人にとっても、池上彰さんの解説は本当にありがたい。昨年の自粛期間中は経済の勉強でもお世話になった。

でも本当は、池上彰さんに頼らずとも、世の中のあらゆること、難しくて複雑に見えることまで自分で理解できれば、それが一番いいのだ。
そのためには、大人には難しい言葉や専門的な言葉、子どもにはやさしい言葉、と使い分けたりせずに、子どもから大人まで一生使い続けられる言葉をみんなで共有できたら、世界情勢にも政治や経済にも苦手意識を持つことなく、誰もが若いうちから自分ごととして関心を持つことができるようになる気がするのだけれど。それって難しいことなのだろうか。

ともあれ、SDGs本の買い直しの一件を通じて、物を書く立場としてひそかに心に刻んだことがある。それは「大切なことほどわかりやすい言葉で伝えよう」ということだった。
言葉選び一つで、読む側の理解のハードルは簡単に上がってしまう。だから何を書くにせよ、スッと心に届く文章を書く技術を、これからも磨いていきたいと思う。

というか、「包摂的(どんな立場や境遇にいる人のことも社会の一員としてとらえて排除しない、という意味で解釈している)」をもっとストレートに伝えるちょうどいい言葉って、ないものかな。

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