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対馬市長が「核のゴミ」処分地選定の「文献調査」に応募しないことを表明

原子力発電で出る高レベル放射性廃棄物 (核のゴミ) の処分地選定をめぐって、第1段階にあたる「文献調査」を誘致するかどうか議論が続いている長崎県対馬市の比田勝尚喜市長が、27日の市議会本会議で「文献調査」に応募しないことを表明しました。

[東京新聞 2023年9月27日 13時39分 (共同通信)]

対馬市議会は12日、地元の建設業団体が提出した調査受け入れを促進する請願を賛成10人、反対8人の僅差で採択し、漁協の一部や市民団体が出した反対請願6件は一括して不採択としています。市議会による請願採択の状況は下記のNHKの記事で詳しく報道されています。

[NHK 2023年9月12日 19時15分]

NHKの報道にもあるように、「核のごみ」は、法律で最終処分場を設けて地下300メートルより深くに埋める「地層処分」を行うことが決まっていて、処分地の選定に向けた調査は20年程度かけて3段階で行われます。

  • 文献調査:文献をもとに、火山や断層の活動状況など調査。2年程度。 (交付金最大20億円)

  • 概要調査:ボーリングなどを行い、地質や地下水調査。4年程度。 (交付金最大70億円)

  • 精密調査:地下に調査用の施設を作り、岩盤や地下水の特性などが処分場の建設に適しているか調査。14年程度。

はじめの「文献調査」は、公募に応じるか国の申し入れを受け入れることで始まりますが、いずれのケースでも自治体の長が受け入れを決める必要があります。全国では北海道の寿都町と神恵内村を対象に3年前から「文献調査」が行われています。

今回の対馬市議会での議論で、「文献調査」受け入れ賛成派は地域経済の活性化を受け入れ賛成の根拠にしているようです。「文献調査」の交付金20億円、「概要調査」の交付金70億円を市の財源にしたいとの意向もあるようです。

ちなみに対馬市の令和5年度予算を対馬市の資料 (https://www.city.tsushima.nagasaki.jp/material/files/group/4/R5-01.pdf) から見ると一般会計の歳入は326億6,700万円で、20億円はその6% (1年あたりにすると3%) 近く、70億円は21% (1年あたりにすると5%) に当たります。

一方で反対派からは、風評被害や安全性への懸念、被爆地・長崎県の県民感情に配慮すべきなどの意見が出されていました。

世界各国の「核のゴミ」最終処分地の状況については下記の経済産業省 資源エネルギー庁のページに記事があります。

これによると現在すでに処分地を選定しているのは世界でもスウェーデンとフィンランドのみです。フィンランドで選定されたのは「オルキルオト」という地域で、すでに最終処分施設の建設が開始されています。スウェーデンは「フォルスマルク」という地域が建設予定地となっており、現在安全審査中です。

「核のゴミ」最終地下処分地の選定は火山や断層などの活動状況だけではなく、岩盤や地下水の特性も重要な要素です。しかし処分地選定の重要調査項目になっているように火山や地震などの活動状況が非常に重要であることは間違いありません。
内閣府 防災情報のページに掲載されている「世界の震源分布とプレート」および「世界の火山」分布図を見てもらえばわかるように、スウェーデンやフィンランドと日本の状況は明らかに違います。

[内閣府 防災情報のページ 世界の震源分布とプレート]

[内閣府 防災情報のページ 世界の火山]

上記資源エネルギー庁のページでは「北欧の『最終処分』の取り組みから、日本が学ぶべきもの」としてプロセスのみを取り上げていますが、地質学的立場から言えば、北欧の基準では日本のどこにも安全な最終処分地候補はないということではないでしょうか?国内の相対的安全性で評価するのではなく、世界標準の基準で考える必要があると思います。

日本は「想定外」と言われる地震とそれにともなう津波で原発事故を起こしたばかりであるのに、科学的、技術的に最終処分施設の安全性をこの変動帯にある日本で想定できるのでしょうか?

そもそも、もし仮に処分地選定に向けた調査を受け入れることによる交付金が地方の死活問題になるということであれば、処分地調査の受け入れいかんにかかわらず地方がそのような状況に陥らないための施策をとることが先決で、財政の苦しい地方に対して交付金をエサのように使って地方に処分地を受け入れさせるようなやり方は、最終的には地方にリスクと負担を押し付け、住民の分断を進めるだけだと感じます。

無理のある原子力政策のしわ寄せを地方に押し付けないように、日本の原子力政策、エネルギー政策、地域活性化政策も含め、私たち国民みんなが真剣に考えていかなければいけないのだと思います。

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