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綿密な計画と準備で役に立つトレーサー・テスト

地下資源にはいろいろな種類があります。石油や天然ガスももちろんですが、金属や石炭、ウランなども地下資源として開発されています。

石油・天然ガス開発の特徴として、流体 (液体・気体) を開発対象としているということが挙げられます。

固体資源であれば、直接その資源が存在する地層や岩石を掘り進むのが基本だと思いますが、石油・天然ガスは流体であるがために、地層内を移動することができます。そこが流体資源の大きな特徴であり、固体資源開発とは違う難しさとなってきます。

流体の特徴として、圧力の高いほうから低い方へと流れていきます。比重が違う流体同士では、お互いが混ざらなければ、比重の軽い流体が上方に、比重の重たい流体が下方に移動します。

井戸を掘って石油を生産し始めれば、井戸の周囲は圧力が下がるために、圧力の高い周辺の地層から石油が生産井に向かって集まってきます。油層に何も障害が無ければ、少ない井戸数で十分油田内の石油を吸い尽くすことができそうです。

もし油層の浸透率 (流体の流れやすさ) が悪ければ、圧入井を掘って水などを圧入してあげて、油層内の圧力を上げてあげたり、圧入した水などで石油を生産井の方へ押し出したりすることもできます。

しかし、多くの油層はその性状が不均質であり、また、断層などによって油層が分断されていることもあります。3次元地震探査データなどで油層のつながりをある程度把握することはできますが、本当に流体の通り道として油層がつながっているかどうかまでは、地震探査ではわかりません。

そこで、実際の流体の流れ道としての油層のつながりを調べるために、圧入井から圧入する水などの流体の中に、トレーサーと呼ばれる物質を混ぜて、生産井でそのトレーサーが観察されるかどうかをテストするトレーサー・テストというものが行われます。

断層を挟んで圧入井と生産井を配置して、圧入井からトレーサーを入れて、生産井でトレーサーが観測されれば、間に断層があっても、少なくとも圧入井と生産の間に流体の流れがあることは確認できます。

トレーサーでも、坑内検層で検出できるようなタイプのトレーサーを使えば、ただ圧入井と生産井の導通を確認するだけではなく、油層のあるレイヤーに入れたトレーサーがどのレイヤーから出てくるか観測することによって、レイヤー同士の接続や、レイヤーの流体移動に対する貢献度などがわかる場合もあります。油層が複数のレイヤーからなる場合、どのレイヤーが流体移動に貢献しているのか知ることは非常に大切です。

生産井のまわりに複数の圧入井がある場合には、各圧入井に違う種類のトレーサーを同時に入れて、生産井でどのトレーサーから検出されるか知ることによって、どの圧入井からの流体が生産井に届きやすいかわかります。流体の流れやすさの方向性がわかるということですね。

このようにトレーサー・テストは上手にデザインすることによって実際の油層の中の流体挙動を調べることができます。

トレーサーはできれば低濃度でも確実に検出できて、しかも、自然界の物質とは確実に区別できることが望ましいです。途中で変質などしないことも大切です。圧入水に混ぜた場合には、圧入水と同じ挙動を示すことが必要です。生産を止めずに簡単に継続的にトレーサーの検出を続けられることも重要です。

また、複数のトレーサーを使う場合は、すべてのトレーサーが石油中や水中でまったく同じような挙動を示すこと(同じ条件なら同じように動くこと)、トレーサーの検出感度が同じであること(観測できる最小濃度が同じ)など、いろいろな制約があります。

トレーサーを入れた圧入井から生産井までが遠すぎると、トレーサーが届くまでに時間がかかりすぎたり、検出可能な濃度になかなか達しなかったりする場合もあります。

トレーサー・テストはトレーサー物質の信頼性、坑井の配置などを含めたテストのデザイン、そして結果をあらかじめ予想し、さまざまな事態を想定したトレーサー検出プランを立てておくことが大切で、それらを十分に検討しておかないと、時間をかけてテストしたのに結論が導き出せないということもあり得ます。

私が以前経験した断層を挟んだトレーサー・テストでは、断層自体が流体の流れ道となり、本来は全くつながっていないと考えられた別の地層からトレーサーが検出されたこともありました。そのような事態を想定してトレーサー検出網を広げておいたことが役立ちました。

一方で、井戸の仕上に問題があり、井戸の中に入れた鉄管まわりのセメントの効きが悪く、鉄管の背後を回り込んでトレーサーが別の地層で検出されてしまうという例もありました。

なにごともそうですが、トレーサー・テストは十分な計画と準備が大切です。


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