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#63(最終)編集長より

こんにちは。「Tokyo Scope」プロジェクト、2023年度編集長の川路です。

2022年の12月から始まった『Tokyo Scope 2023』の活動も、昨年10月の本の到着と11月の販売イベントをもっておおかた終了し、今月の頭には次年度に参加するメンバーへのアドバイスの場となる講評会も実施したことで、今年度のメンバーでの活動はひと区切りとなりました。

これが『Tokyo Scope 2023』としての最後のnoteとなります。

そこで、最後に1年間の活動の記録をスケジュールを追って振り返りたいと思います。そのときどきの具体的な活動内容は広報担当が書いてくれているので、ぜひ該当記事を読んでいただきたいと思います。


前期:2022年12月〜2023年3月

2023年度の活動が始まったのは、2022年の12月から。それは、前年の『Tokyo Scope 2022』が2022年11月に出版されたからでした。

この頃はまだスケジュールがスカスカですね。それでも、[ニュー・ノーマル]というテーマの決定までには、紆余曲折がありました。
いがみ合うこともありましたが、今となってはそれも大切な時間だったと感じています。


今年度のプロジェクトを動かし始めたのは、僕と、はじめ副編集長を担当していた同期の2人。
そこから、運営部長の城川をはじめとして同期の参加意思のあるみんな、視デの山口に声をかけ、統括会議が発足しました。

余談にはなりますが、僕が編集長を務めると宣言したのは、このプロジェクト目当てで南後ゼミに入ったからです。
2022年度に当時の編集長と同じメインコンテンツ・コラムを制作し、彼の仕事ぶりを近くで見てきたことも、編集長を志すきっかけのひとつとなりました。

しかし、初期のメンバーはたったの7人(南後ゼミ6人+視デ1人)。この時点で、従来通りの形式を踏襲しないという意志は固まっていたように記憶しています。


少し脱線しますが、次年度のプロジェクトには現時点で11人もの南後ゼミの後輩たちが参加すると、先日の講評会で知らされました。

編集長を務めた僕としては、次年度もやりたいと考えてくれた1個下の代がこれだけたくさんいてくれたということは、このプロジェクトの面白さや意義を少なからず伝えられたということなのかなと、とても嬉しく思います。


さて、この時期はもっぱら前年の改善すべき点について話し合っていました。
ムダな会議が多い、連絡ツールが機能していない、みんなのやりたいことができない……。3年目はこれまでに蓄積したものをうまく運用しながらも、変えるべきところは大胆に変えなければならない。あくまでも、自分たちが主導するプロジェクトであることに自覚的になる必要がありました。

統括会議の議事録 1年間で112ページ分にもなりました

テーマ決めは難しくもありますが、同時に楽しくもあります。当初の「都市の健康診断」というテーマ案は、南後先生が開講している授業の中で紹介された「水戸空間診断」から着想を得たものでした。

しかし、この決定までの過程は、あまりにも妥当性のないものだったと思います。

たしかに、面白そうではあります。ただ、なぜ都市を人体になぞらえるのか?2023年にやる意義とは?そもそも健康な状態とはどのようなものなのか?

様々な点を考慮した結果、数年間続いたコロナ禍の生活がひと段落したこの年だからこそ、「ニュー・ノーマル」とはどのようなものだったのかを改めて考える余地があるとして、テーマを変更。
これが2023年3月中旬以降のことなので、かなり長い間テーマについて議論していたことになりますね。


この間に後輩に参加可否を募り、集まったメンバーで文献調査を行いました。これは、これまでの「Tokyo Scope」プロジェクトにおいて「デザインがスゴい」とばかり言われているように感じていたからです。

南後ゼミ生でさえもデザインばかりに言及していて、自分が考えたり書いたりしたものに対して、こだわりがない。企画・調査・執筆にメインで携わる者としての自覚をもってほしかったんです。全体での文献調査と発表は、南後ゼミ生の意識を高めたいという思いで断行しました。

が、このときまだテーマがフワフワしていたこともあり、それらが実際の紙面に何らかの形でいきてくることはほとんどなかったように感じています。形式を重んじるばかり、内容が空疎な試みとなってしまった印象は否めません。新しいことを始めるのは、難しいですね。僕の一存でみんなを振り回してしまいました。

ただ、次年度も文献調査は実施するみたいです。きっと、この失敗を糧にしたうえで、もっと上手く運用しようとしてくれているんだと思います。
これもこのプロジェクトの醍醐味のひとつです。前年度の失敗は、次年度に反面教師として活きてくる。

テーマは決まりましたが、具体的な紙面は何もない。ここまではまだ、卵の状態でした。


中期:2023年4月〜8月

本格的な紙面制作が始まったのは、新しく参加する視デのメンバーが決定した4月以降のことです。

この頃から統括会議では、全体会議の議題の決定とプロジェクト全体の流れに関する議論が主な内容となっていきました。

また、夏休みに入ると、出版費用や校正についての話し合いも活発化しました。

紙面が充実してくるとともに、自分たちがつくったものが金銭的な対価を要求するモノとしてリアリティを帯びてきます。何をどう見せたいのか、そのためにはいくらかかるのか、それを回収するには、いくらで売ればいいのか。

さらに、そうしてみなさんが買ってくれるものに対して半端なことはできない。

単なる粗探しなどではない校正の意義を伝えるために、ZOOMの全体会議で校正についてのレクチャー会も実施しました。

2021年から受け継がれている校正ワードリスト

また、運営面のリーダーの集まりである統括会議は、各メインコンテンツのリーダーの集まりでもあったため、進捗報告会も兼ねていました。

上級生である僕たちは、走り始めた紙面制作の流れにただ身を委ねていればいいわけではありません。
調整につぐ調整。40人を超える大所帯であるため、つねに全体としての方向づけを行わなければなりませんでした。

自分が参加するメインコンテンツは自分が引っ張っていかなければならない。コラムでは、主体となる下級生のサポートをしなければならない。そして、みんなの作ったものを総合しなければならない。

出版に係るすべてのことを自分たちだけでやっているからこそ、果たさなければならない責務も多く、ただの“本作りプロジェクト”とは一線を画したものであると痛感します。これも、このプロジェクトの学びのひとつでした。


後期:2023年9月〜11月

出版に向けて怒涛の追い上げを行った9月以降。
先ほど紹介した校正に時間をかけるためにも、紙面制作のデッドラインをつねに意識した取り組み方を心がけなければなりませんでした。

しかし、本来は9/22には完成紙面を発表する予定が、「まだラフ段階ですが…」「ここはこういう風にデザインしたいと思っています」といったコメントが続出。

今年度は広報・渉外との議論の結果、10/27に予定されていたムサビの芸術祭に出店・販売することを一番早いタイミングでのイベントとして予定していました。

そのため、納期が7-10日だと、イベントの2-3日前に完成したものを受け取るとして、これ以上の紙面制作の後ろ倒しはできないようにスケジュールを組んでいたんです。

そんな中での参加メンバーによる気楽な進捗報告に対して僕は、不安感と苛立ちを覚えました。

統括会議では意見の食い違いから議論がヒートアップすることもありましたが、下級生も含めた全員に対しては、極力優しく接してきました。

しかしこのときばかりは、穏やかでいることはできませんでした。

緊張感をもって取り組むこと、すでにスケジュールを当初から遅らせていること、自分たちが作り出したものが世に流通すること。

僕の伝え方にも問題があったのかもしれません。しかし、プロジェクトがいかなるものかということに自覚的な人があまりに少なすぎた。

焦ることは、基本的にあまり良くないこととされます。でも、焦ることが効果的に働く場面だってあるのではないでしょうか。まさにこのときこそが、僕たちにとって焦りをもつべきタイミングでした。

厳しく言った甲斐があってか、その後1週間の追い上げの勢いには目を見張るものがあったと記憶しています。
叱られた経験も遺産として、次に活かしてほしいです。




さて、無事に出版も終え、販売イベントや通販を通じて多くの方々に『Tokyo Scope 2023』を手に取っていただきました。

制作に参加していただいた方や図書館への献本、参加メンバーの身内への手売りも含めてにはなりますが、2024年2月現在、600部印刷したうちの500部以上が僕たちの手元を離れています。ありがたいことです。

これは監修した先生方に仰っていただいたことですが、今年度のプロジェクトは例年になく口出しすることが少なかった、と。

たしかに、今年度の紙面に先生方の意向が反映された部分はほとんどないのではないでしょうか。そのうえで、出来の良いものになっていると評価していただけることは、とても光栄なことです。

この本の著者は、「武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科学生有志・明治大学情報コミュニケーション学部南後ゼミ有志」。このことを強く意識していた上級生が多かった。先生方の関与が少なかった理由は、ただそれだけのことだと思います。

当然、普段のゼミでは、先生にアカデミックスキルを教えていただき、卒業論文の指導をしていただいています。

しかし、このプロジェクトは学生有志が主導するものなのです。先生が引っ張っていくわけでも、先生に言われたように進めていくわけでもない。

今年度の南後ゼミ8期生の参加者が少なかったこともありますが、だからこそ僕は、今年度の著者を「南後ゼミ有志」と書くことに決めました。

その意味で、本の内容やクオリティ云々よりも、先生方の手から離れたと認められたということが、なによりの成果だと思っています。



最後に、これは来年度にプロジェクトを主導する1個下のみんなへのメッセージでもあります。

来年度は諸事情によって新規のゼミ生募集がなく、例年のように参加者を募ることができないそうです。

僕たちの代は進んで前と違うことをやろうとしましたが、彼らはいやが応にも、変わらざるをえない状況に追いやられています。

そんなときだからこそ、何かを変えるのは他でもない自分たちだと強く自覚してほしい。

状況が一変したから、新しい参加者の所属が今までと違うから、2023年度が従来通りのものではなかったから。

そうではなくて、次の「Tokyo Scope」を創るのは自分たちだから。そういう理由で、プロジェクトに向き合ってほしい。自分たちだからこそできることをやってほしい。そう思います。


僕は『Tokyo Scope 2023』を、「Tokyo Scope」ルネサンスとして位置づけていました。「東京の新たな見方を提示するガイドブックプロジェクト」とは、一体何をすることなのか。1年間、このことばかり考えてきました。

今年度の特集テーマの[ニュー・ノーマル]は調査対象のみにあらず、僕の中では、プロジェクトの根源的な意義の再興をも意味していました。

その集大成が僕たちの本です。そして、ある程度それは達成されたかと感じています。少なくとも、下級生には伝わっていると信じています。


そして、『Tokyo Scope 2024』の編集長へ。

南後ゼミ生が担うことになる編集長という役割は、はっきり言って、誰でもできるものです。文章や写真のスキルも、卓越した取材能力も、出版社でのアルバイト経験も必要ない。

編集長としてもっていなくてはならないものは、情熱です。これだけは、他の誰よりも自信をもっておかないといけない。それこそが、あなたが編集長と呼ばれるにふさわしい資質となるのではないでしょうか。

きっと、「Tokyo Scope」を一番好きな人が、「Tokyo Scope」プロジェクトの編集長です。応援しています。



僕たちのnoteを1年間読んでいただき、ありがとうございました。今年度のnoteはこれでおしまいです。

名残惜しいですが、そろそろ次の子たちにバトンタッチしたいと思います。

『Tokyo Scope 2023 [ニュー・ノーマル]を見つめなおす』をみんなでつくることができて、幸せでした。

それでは。


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