「穴」(超短編小説)
「わたくしの恋は百通りございます」
ほう、なんともその通り。私はなんともはがゆい気持ちで頷き、もうすぐにでもこの場を立ち去りたかったが、
「わたくしが百も生きたからでございます」
初恋の思い出を物語ってください。気づけば返していた。
私の曽祖母は私の存在を忘れ、なぜか毎夜のように初恋の思い出を語るのであった。
アルツハイマー病の治る薬が開発されてはや3年。まだ、曽祖母は治らない。
私が磨りガラスの外を眺めていると、曽祖母はいつも通りに話し始めた。それも決まって3時33分3秒か