「ポストヒューマニズム・トランスヒューマニズムと機能主義的転回」応用哲学会発表予稿

5月の応用哲学会で発表予定の、「ポストヒューマニズム・トランスヒューマニズムと機能主義的転回」という信原先生とやっている研究内容について、いろいろと議論を盛り上げていけたらいいなと思うので、noteにアップしておきます。

(今度の学会ではやらないと思うけど、今後、この話をさらに、ユク・ホイがいう機械と人の関係性をとらえなおすための、テクノロジーの再帰性、偶有性、偶然性の話と接続したい。)

本発表は、ポストヒューマニズム(以下PH)、トランスヒューマニズム(以下TH)の概念的位置づけ、概念的関係性を心の哲学における機能主義の立場から明らかにするものである。まず、PH・THの概念的あいまいさを指摘したうえで、PH・THの機能主義的解釈によって、PH・THのそのあいまいさを排除することが可能であることを示す。そのうえで、両者の関係性を新たに位置づける。また、本発表の背景には、あらゆる技術の考察に機能主義の考えを応用することの有効性を主張する機能主義的転回の意図がある。 技術思想において、ポストヒューマニズムとトランスヒューマニズムの立場はともに無視できるようなマイナーな立場ではない。また、現代において加速主義、新反動主義、ダークエコロジー、思弁的実在論などの思想もポストヒューマニズム思想に分類される場合があるようにそれらの思想的重要度は増してきている。現代の代表的な技術哲学者の一人であるマーク・クーケルバークによれば、それぞれ次のように定義される。PHは、「伝統的な西洋近代的自己観であり人間中心主義を否定し、動物、植物、ロボットなどの非人間的な存在と人間の関係を強調する思想」(Coeckelbergh 2019)、THは、「人類は科学技術によって現在の状態よりも進歩することができ、またそうするべきだと信じる立場」(Coeckelbergh 2019)となる。またPHは非人間中心的立場、THは人間中心的立場(西洋近代的自己観を前提とする立場)をとる点で違いがあるとされる。しかし、その概念的実態は、あいまいさをともなう。例えば、ポストヒューマニズムは、人間とそれ以外の存在との境界をどの程度、どのようになくすのか(完全になくすことは実質的に困難)を予め明確にして論じられることは少ない。THは、科学技術によって人間の身体を置換するというアイデアを伴うことが多いが、そうしたアイディアはSF的発想を超え、現実的にどの程度可能な考えとなりうるのか(トランスヒューマニストは、二元論者と言われることがあるが、少なくとも二元論の立場をとった場合、心の哲学の考察が明らかにしているように、身体を機械に置換したところで、意識が伴うのかどうかは全く明らかにならない)について、あいまいにしたまま、例えばマインドアップローディング等が実現した未来について語る傾向がある。つまり、身体の技術置換を前提としながら、その心身関係の考察が不十分な場合が多いのである。 本発表では、PH・THの機能主義的解釈によって、PH・THの思想的あいまいさを排除することが可能であることを示す。まず、機能主義とは何かであるが、機能主義は、心を機能の関係から理解しようとする説で、心は機能であるととらえたうえで、その機能は物理的基盤に付随すると考える。この機能主義を技術的人工物に応用することで、技術的人工物の機能はその物質的基盤に付随すると解釈することが可能となり、人間も技術的人工物も同様にその機能と物質の関係を付随関係によって説明可能になる。また、その機能が人間と技術的人工物が一体となって実現すると解釈した場合、人はサイボーグ的存在であると解釈可能となる。 この機能主義の立場をとることで、PHの思想は、異なる存在間に共通する機能的な同一性を見出し境界がないことを強調する思想、THの思想は、脳身体環境のあらゆる物理的基盤を、技術的人工物に置換することで、サイボーグ的存在としての人間に新たな機能を付与させようとする立場と再解釈可能となる。このことによって、例えば、PHにおける、人間以外の存在にどのように行為者性を認めるのかというあいまいになりがちな議論は、行為者性を機能と捉えることで、人間とそれ以外の存在の機能的関係性を考察する作業(そのロボットが、どのような人間と同じ機能を持っているのかを峻別したり、その同一の機能について人間のその機能との代替可能性を検討する作業など)へと置き換えることが可能となろう。THについては、物理的基盤を技術的人工物に置換すること(例えばBMI)による人間の機能的変化を、より合理的に説明することが可能となるのである。また、この機能主義からの再解釈によって、PH・THの概念的関係性はより明瞭に示されることとなる。

参考図書
Clark,C., 2003, Natural-Born Cyborgs, Oxford University Press.(呉羽真・久木田水生・西尾香苗 訳,2015,『生まれながらのサイボーグ:心・テクノロジー・知能の未来』,春秋社.)
Coeckelbergh,M.,2019,Introduction to Philosophy of Technology, Oxford Univ Pr.


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