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12.7miss you大宮公演レポート

会いたかった。

言葉で、メロディで、表情で、仕草で、光で、空気で。そのシンプルな一言を、会場を包むすべてを使って全力で表現するような時間だった。

18時35分。

開演時間を少しだけ過ぎて、会場の緊張感がピークに達したころ。響き渡っていたSEが止まり、ショパンの『別れの曲』が流れ始めた。

この公演を楽しみにしていた人たちの多くが、きっと自由に各々の「一曲目」を想像してきただろう。しかし、この『別れの曲』の登場で戸惑った人も多いのではないだろうか。もちろん、私もその一人だ。ここからどうやって、一曲目につなげるのか。何の曲につながっていくのか、まったく想像がつかなかった。

本編

そんな会場の戸惑いをよそに始まる一曲目は、2020年に発売された38thシングル、『Birthday』。

『映画ドラえもん のび太の新恐竜』の主題歌にも起用されていたが、発売された直後に新型コロナウイルスが流行した関係で、これまでのライブで披露されたことはなかった。

会いたかった。
聴きたかった。

その想いで、会場の一体感が増してく。昨年行われた30周年を祝うツアー「半世紀へのエントランス」を経て、新しいスタートを切った。そんなMr.Childrenを象徴するような、まさに一曲目にふさわしい選曲だなと思った。その高い温度を保ったまま、次の曲へ。

「新しい歌です」

アコギを持った桜井さんがかき鳴らし始めたのは、きっとここ数ヶ月繰り返し何度も聴いた人も多いだろう。ツアータイトルにもなっている新アルバム『miss you』の3曲目、『青いリンゴ』。初めてライブで披露される曲たちに、会場のボルテージは高まっていく。

『miss you』の楽曲を含め、このままライブ未公演曲の演奏が続くのだろうか?

そんな予想は、次の曲で見事に裏切られた。続いて披露されたのは、1996年に発売されたシングル『名もなき詩』だった。

Mr.Childrenのライブでは、定番と言ってもいいであろうこの曲。ライブで何度も聴いた、という人も多いだろう。何年、何十年と聴き続けて体の芯から馴染んだこの曲に、自然と体を揺らし、手を振っている人が多く見られた。

その後、miss youから『Fifty's map ~おとなの地図』、2008年に発売されたアルバム『SUPERMARKET FANTASY』から『口がすべって』、2012年に発売されたアルバム『[(an imitation) blood orange]』から『常套句』が演奏された。

『常套句』がライブで披露されたのは、2013年に開催された『 [(an imitation) blood orange] Tour』以来、10年ぶりらしい。

「君に会いたい 君に会いたい」

ストレートに「会いたかった」を表現する歌詞に、目頭を抑えている人の姿があちこちで見受けられた。

『常套句』の演奏が終わると、メンバー全員で深いお辞儀をし、ボーカルの桜井さんはこう続けた。

「ここからは、新しい音の世界に身を委ねてください」

ボーカル、キーボード、ドラムのみの編成で『Are you sleeping well without me?』の演奏がスタート。これを皮切りに、新アルバム『miss you』の世界が広がっていく。

『LOST』、『アート=神の見えざる手』、『雨の日のパレード』、『Party is over』、『We have no time』、『ケモノミチ』と、アルバムの曲順通りに演奏が進んでいった。

『LOST』では、歌詞に出てくる「年老いた2匹の犬」の目線までしゃがみ込み、壊れやすい大切なものに触れるような仕草を見せた直後、『アート=神の見えざる手』では薄ら笑いを浮かべながら彼女を殴る蹴る仕草や、男性器の表現をストレートにぶつける危うさを見せつけた桜井さん。彼のころころ変わる表情や仕草に振り回され、取り憑かれ、沼にハマった人は、いったい日本に何万人いるのだろうか。

ちなみに『アート=神の見えざる手』は、音源だとボーカルとシンセサイザーがメイン(だと思う)の楽曲だけれど、ライブではバンドアレンジで演奏されていて、とんでもなくライブ化けする楽曲だと思った。陳腐な言い方になってしまうけれど、とにかくとんでもなくかっこよかった。

また、アルバムの曲順通りの演奏は、アルバム『深海』をすべて曲順通りに演奏した、1996年から97年にかけて行われたツアー『REGRESS OR PROGRESS』を想起させた。

「みんな、こういうの待っていたんでしょ?」
「こういうライブ聴きたかったでしょ?」

MCなどで、直接そう言われたわけじゃない。でも、そんな私たちファンの心を見透かしたようなモンスターバンドの底知れなさを恐ろしく感じるのと同時に、安心して身を委ねられる心地よさを感じた。

しかし、ここでmiss youからの選曲はいったんストップした。

誰もが「このまま『miss you』を最後まで演奏するんだろう」と思う、ある種の“慣れ”が出てきた頃、ガラッと構成を変えてくる。まさに、『miss you』のテーマである「優しい驚き」そのものだった。予想を裏切られるたびに、「そう来たか」と顔がニヤけてしまう。

2012年に発売された34thシングル『pieces』、2015年に発売されたアルバム『REFLECTION』から『放たれる』、『幻聴』と続いていく。

『pieces』と『幻聴』は、今年の夏に開催された「ap bank fes ’23 〜社会と暮らしと音楽と〜」でも演奏された曲だ。現実は厳しい。予想通りにいかないことだらけだ。それでも願い続ければ、きっと少しずつ、だけど着実に前に進んでいける。そんな内容が、今の彼らの心情に合っているのだろうか。

また『幻聴』では、「暖かな誰かの微笑み」の「誰かの」を「さいたまのみんな」と言い換えて、会場を湧かせていた。

そして、今日1、2を争う盛り上がりを見せたのがこの曲。2008年に発売された、『SUPERMARKET FANTASY』に収録されている『声』だ。

桜井さんの「C'mon!」というコールに、会場は「Yeah,yeah,yeah,yeah」でレスポンスする。

やっと、声が出せるライブが帰ってきた。
やっと、一つになれた。

「たまらなく 君に会いたかった」

そんな歌詞も相まって、幸福感と高揚感が会場を包んでいく。

そして、曲の終盤。

桜井さんがマイクを外し、アカペラで「Yeah,yeah」と歌い出した。2000人規模のホールだからできる演出。この瞬間、会場のボルテージは最高潮に達した。マイクを通さなくても、会場中に澄み渡る声。この人は、いったいどこまで進化していくんだろう。

そして、最近すっかりライブの定番曲の仲間入りを果たした、2018年のアルバム『重力と呼吸』に収録されている、『Your Song』に続けていく。

「一緒に歌おう!」

そんな桜井さんの掛け声で、『声』に続いて会場は一体感を増していった。コール&レスポンスが気持ちよくて、嬉しくて。そして、そんな会場の様子を見ているMr.Childrenのメンバーの表情が本当に嬉しそうで。

あぁ、この時間がいつまでも続けばいいのに。

会いたい気持ちが強ければ強いほど、別れも辛い。そんな私たちの気持ちを汲むように次の選曲についてこう告げられた。

「今日の楽しかった余韻が、明日の朝も残っているように。この歌を歌います」

アルバム『miss you』のラストを飾るバラード、『おはよう』が演奏された。

桜井さんのくちぶえで曲は締めくくられ、興奮冷めやらぬまま舞台の幕が閉じる。

アンコール

会場のアンコールの手拍子に合わせて出ていたのは、キーボートのSUNNYさんとアコギを抱えた桜井さん。

「どんな歌を歌ったら良いのか、分からなくなるときもありました。そんなときに作った曲です。これからも、そんなときが来るかもしれない。でも、今日ここにたくさんの人が来てくれたことを肝に銘じ、Mr.Childrenの曲を代表してこの曲を演奏します」

そんなMCのあと、2001年に発売された20thシングル『優しい歌』がアコースティックアレンジで演奏された。

「出口のない自問自答 何度繰り返しても やっぱり僕は僕でしかないなら
どちらに転んだとしても それはやはり僕だろう
そのスニーカーの紐を結んだならさぁ行こう」

シンプルなアレンジだからこそ引き立つ、力強いメッセージ。デビューから30年以上経った今も、これで良いのかと立ち止まったり、迷ったりする日々。それでも自分らしく。Mr.Childrenらしく、一歩一歩前に進み続けたい。ステージに立ち続けたい。そんな決意を思わせるような、アンコールのスタートだった。

そして、メンバー紹介。珍しくギターの田原さんがMCを担当していた。

「ファンクラブ限定で配信している、誰も得しないラジオ(仮)。そこで、たくさんのお便りをいただいてます。目を通すたびに、勇気をもらっています。本当にありがとう」

田原さんの言葉にあわせて、Mr.Childrenのメンバー全員深くお辞儀をする。

そしてアンコールも終盤へ。

「もともと、ライブで演奏することを想定して作った曲でした。でも、コロナ禍でそれが叶わなかった。今日、大宮のみんなの声で、この曲を完成させたいと思っています」

演奏されたのは、2020年に発売されたアルバム『SOUNDTRACKS』の収録曲、『The song of praise』。

桜井さんの「聞かせて!」という掛け声にあわせ、歌い出す会場。

やっと会えた。
やっと歌えた。

会えなくて寂しかったのも、聴けなくて物足りなかったのも、私たちファンだけじゃない。Mr.Childrenも、そう思ってくれていたんだ。きっとあの会場にいた多くの人が、そう思えた瞬間だったんじゃないか。

そして、アンコールのラストを飾ったのは、2012年に発売された34thシングル、『祈り 〜涙の軌道』。

「さようなら さようなら さようなら
夢に泥を塗りつける自分の醜さに
無防備な夢想家だって 誰かが揶揄しても
揺るがぬ想いを 願いを 持ち続けたい」

この時間が終わったら、「会いたい」「さみしい」と思う日々がしばらく続くかもしれない。その間に、辛いことや悲しいこともたくさん起こるかもしれない。

「また」と言うのがはばかられるほど、最近では悲しいニュースが多い。いつ何が起こるかは、誰にも分からない。でもだからこそ、次の約束をしたい。祈りを持ち続けたい。

「また、会えるよ」

21時ちょうど。そんなメッセージを残すように、あたたかく、優しい時間は終了した。

セットリスト

  1. Birthday

  2. 青いリンゴ

  3. 名もなき詩

  4. Fifty's map ~おとなの地図

  5. 口がすべって

  6. 常套句

  7. Are you sleeping well without me?

  8. LOST

  9. アート=神の見えざる手

  10. 雨の日のパレード

  11. Party is over

  12. We have no time

  13. ケモノミチ

  14. pieces

  15. 放たれる

  16. 幻聴

  17. Your song

  18. おはよう

  19. (アンコール)優しい歌

  20. (アンコール)The song of praise

  21. (アンコール)祈り~涙の軌道

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