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2022年を映画でふりかえり

2022年はどんな映画を見てきたでしょうか。
新作・旧作問わず、今年初めて見た作品の中から特に印象深かった5本+αを選んでみました。年末年始の映画鑑賞にぜひ!


1. 『ポゼッション』 アンジェイ・ズラウスキー監督 (1981年)

今年最も魂を揺さぶられたのは、ポーランド出身のアンジェイ・ズラウスキー監督作品『ポゼッション』。こういう作品に出会えるからこそ、やっぱり映画を見るって素晴らしい。圧倒的な狂気と美しく破壊的で想像を超えた展開、一見狂ったようなカメラワーク、しかしそれでも見るものを堪らなく惹きつけるのは根底にしっかりとある技術力の高さの成せる技でしょう。人生に一度は観ておきたい名作です。ただしなかなかに衝撃的なので、見るタイミングを選ぶ作品ではあります。



もっともっとぶっ飛んだ作品に常識を揺さぶられたい方には、同監督の『シルバー・グローブ / 銀の惑星』もおすすめ。ズラウスキー監督流、人類の創世記と宗教の起源をSFスケールで描いた超大作と言えるでしょうか。

早口の語りが多く、正直、何を言っているのかよくわかりません。その上2時間44分と、とにかく長くて何度も寝落ちしそうになりながら3日かけて休み休み観ました。美意識に電撃が走りました。

物語はあっちこっちに飛び回り、筋を追うのは困難です。というのもポーランド政府から製作中止命令が出たため、一度製作が中止された作品なのです。製作中止から10年後、一部フィルムの失われた部分は監督のナレーションで繋ぎ、一本のフィルムとして作り上げられました。ところどころツギハギの部分もあります。それでも踏ん張って見続けると、政府から製作中止命令を受けたのも納得の大転換が待ち受けています。

話はともかく、とにかく美しい作品で、これぞ眼福。最新SFの現実と見まごう技巧を凝らした美しさとは異なりますが、創意工夫に溢れる表現力はいま見ても色褪せていません。むしろいま見る方が新鮮に感じるかもしれません。ぜひ、予告編だけでも見てみてくださいませ!




ちなみにポーランド人の友だちに「ズラウスキー監督」と言うと初めは誰だか分かってもらえませんでした。やっぱりポーランドでは作品を作らせてもらえなくなってフランスで製作するようになったくらいだから本国では不人気なのかな?と思ったら、名前の正しい発音が「ズラウスキー」とは全く違ったのでした。どんな発音だったかカタカナで書けないのですが、「ズラウスキー!?誰それ!発音全然違うからー!!」と大爆笑されたのも良い思い出です。今ではポーランドでも名監督として知られているようでよかったです。


2.  『CURE』 黒沢清監督 (1997年)

黒沢清?黒澤明の息子?じゃあ観なくていいや。と思っていた昔の自分が恥ずかしい!沢の漢字が違うのに、思い込みって怖いものですね。本当に素晴らしい作品でした。

サイコスリラーというジャンルには興味がありよく見るのですが、筋は面白いけれど美的には退屈な大衆作品が多いジャンルだと思います。そんな印象に反し、今作はサイコでスリラーな物語の求心力、心理描写の秀逸さはもちろんのこと、映像美に唸ります。

一瞬挿入されるイメージ、バスの後ろに広がる天国のような景色、印象に残る赤いワンピース、リズムを刻む雑音、隠された記号の数々。作り込まれた映画の細部が、サブリミナル効果が無意識に作用するように深層意識に作用して、徐々に狂気と正気、無意識と意識の狭間が溶けていくかのよう。理解が追いついていないのに訳もわからず、どうしようも無く惹かれます。

観賞後は日常の雑事が吹っ飛ぶほどの充実感を得られ、やっぱり物語って生活に必要だなあとしみじみ感じさせられる名作でした。




3.  『オーディション』  三池崇史監督 (2000年)

死よりも恐ろしいのは拷問だなと思い知らされる作品です。骨の髄まで痛くなる音と映像に時々目を閉じてしまったけれど、これは面白かった!

怖いのは苦手なのでホラー映画は好んで見ないのですが、普段は隠されている人間の一面をまざまざと見せつけられるような心理的ホラー作品には見入ってしまいます。

『オーディション』はちょっとした戯れから、おじさんが花嫁候補探しのためにオーディションを利用する物語。無邪気なおじさんを初めは微笑ましくさえ思うのですが、後半の拷問パートになると一転、権力ある男性が理想の女性探しのために映画のオーディションを利用するのはアウトだなとハッとします。現実にもありそうな設定で、それを笑ってみていたことに気付かされる視点の転換が上手いのです。

男性から決して癒えることのない恐怖と痛みを与えられた麻美の行為は、果たして行き過ぎた行為だったのでしょうか。
『プロミッシング・ヤングウーマン』にも通じる、me too時代を先取りしていた作品で、今の時代にこそ見返してみると感じることのある一本だと思います。

でも身体の芯まで痛くなること間違いなしなので、元気なとき以外の鑑賞はおすすめできません。




4. 『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』 
ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート監督  (2022年)

おすすめ作品トップ3が猟奇的な作品ばかりになってしまったので、気分を変えて4本目は『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を。ここ数年の最新映画のなかで1番!文句なしの傑作です!


超大作系でこんなにも間口が広いのに、飛び抜けたオリジナリティのある作品は久々です。ふざけ具合の方向性と絵作りの突拍子のなさが振り切っています。よくこんな作品が作れたなあと感心しました。
それにマーベル作品のマルチバース設定に比べ、断然マルチバースであることに意味があり、多世界を表現する映像にも見応えがあります。

さらに役者が上手くて文句なし!それぞれの役者が異なる世界線にいる複数の人物を演じるのですが、ただ外見が変わるだけでなくて、演じ分けが上手いからこそパーソナリティの違う別人に、ちゃんと見えるのです。すごいなあ。

笑って泣けて誰でも楽しめるエンターテイメント性の高さと、個性ある作家性のバランス力が抜群で、惚れ惚れとする作品でした。

飛行機の中で観てしまったのが残念で、日本で劇場公開されたら是非とも映画館で見たい!と今から楽しみです。


 


5. 『H6』 イェ・イェ監督  (2022年)

上海にある第6人民病院を舞台に、5家族の悲喜交交を写し撮ったドキュメンタリー作品。
観賞後、これって本当にドキュメンタリー映画なの?と気になってすぐに調べました。それくらい、現実以上にありありと現実が描かれています。

普段メディアで見せられているのとは異なる中国の一面を見ることのできる作品です。”病院”というよりは”人生”を写した映画だと言えるでしょう。

お金によってシビアに迫られる命の選択。現実との向き合い方。決断。重く普遍的なテーマですがしかしユーモアがあり、押し付けずジャッジしない距離感がとても心地よい快作でした。

メッセージ性の強いドキュメンタリーや訴えかけるようなドキュメンタリー、時にはプロパガンダも興味深いのですが、本作はとてもフラットな距離と視点で撮られており、ただただ現実を見せつけられるような作品です。そこには良いも悪いもありません。それなのに見終わったあとにはきっと、なにかを考えずにはいられなくなる確かな感触をそれぞれの心の中に残してくれることでしょう。日本で公開されているのか分からないのですが、機会があればぜひ見てほしい作品です。




+α 短編部門

『Olla』  アリアン・ラベド監督 (2019年)

mubiで配信されている28分の短編作品。予告編にピンと来た方はぜひ!
コンパクトな作品でありながら、舐めんなよ!という気概が伝わって来ます。フラストレーションの残らない、スカッとするカタルシスが最高でした!




振り返ってみると、今年はなぜだかサイコスリラーに惹かれていたようです。それだけ現実の人生が穏やかだったということでしょうか。


『楢山節考』『Bad Luck Banging or Loony Porn』『女ばかりの夜』『スキャナーズ』などなど、ここには書ききれませんでしたが、たくさん面白い作品に出会えた1年でした。

ただ、ついつい配信やレンタル、名画座で選ぶのが古い名作に偏りがちで、あまり映画館で最新作を見ることができませんでした。古いものは好きだけど、懐古趣味にはなりたくないので2023年はもっと新しい作品も鑑賞していきたいなと思います。

来年も価値観が揺さぶられ、世界が広がるような作品にたくさん出会えますように!


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