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映画・ドラマ・アニメ・Netflix履歴

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2023年を映画でふりかえり

今年はなかなか面白い映画と出会えなかった。そもそも映画を観る本数が極端に減ってしまったのだ。去年までは1年に100本は映画を観ていたのだけど、今年は12月になってようやく60数本。観る作品が減ると名作に出会う確率も減るのだなと、身をもって証明する年だった。数打てば当たるというのは映画にも当てはまるようだ。 人口あたりの映画館数が世界一とも謳われていたパリから、映画館のない町に引越した。最寄りの映画館まで車で1時間かかるようになったいま、映画館の有り難みを感じる。 劇場公開

一番好きな映画はなんですか?

時間があるときに、ひとりでよく考えているのが『好きな映画ベスト10』と『好きな小説ベスト10』だ。子供の時から暇があると頭の中で好きな作品のリストを作って遊んでいる。 10作品に絞るのは難しく、難しいからこそ楽しい遊びだ。その時々にリストに上がる作品が変わることもあれば、ずっと上位に輝いている作品もある。 映画は十代に観た作品に記憶に残っているものが多く、小説は二十代から三十代にかけて読んだものに記憶に残っているものが多い。 先日、またラジオに出演させていただける機会があ

物語が終わる、終わらない物語

進撃の巨人が終わった。PLUTOも見終わった。 アニメでもドラマでも、シリーズものを、特に長く続いたシリーズものを終わらせるのは難しいことだと思う。 2,3時間で終わってしまう映画と違って、シリーズものは長い時間をかけて並走する。時間を共にしているうちに、物語に対しても登場人物に対しても並々ならない情が湧いてくる。 シリーズものは長い時間をかけられる分、伏線や謎もふんだんに盛り込んであるから贅沢だ。話が展開するごとに次が気になって、止まらなくなる。面白さ曲線が時間と共に倍

壊れゆくのは誰か? 『こわれゆく女』

ジーナ・ローランズの怪演に引き込まれ、精神の揺らぎに、正常と異常の境界を問われる作品でした。ジョン・カサヴェテス監督の代表作に相応しい、見応えのある一本です。 急な工事のせいで家に帰れなくなると妻に電話をかける夫のシーンで、映画は幕を開けます。 ここだけみると妻と家族想いの男気ある良い男に見えるニック。 一方で、子供を母親に預けるだけなのに、尋常でないほどの心配と執着を見せる妻のメイベルの様子に、観客はすでに違和感を抱くことでしょう。 『こわれゆく女』改め『A Woma

2022年を映画でふりかえり

2022年はどんな映画を見てきたでしょうか。 新作・旧作問わず、今年初めて見た作品の中から特に印象深かった5本+αを選んでみました。年末年始の映画鑑賞にぜひ! 1. 『ポゼッション』 アンジェイ・ズラウスキー監督 (1981年) 今年最も魂を揺さぶられたのは、ポーランド出身のアンジェイ・ズラウスキー監督作品『ポゼッション』。こういう作品に出会えるからこそ、やっぱり映画を見るって素晴らしい。圧倒的な狂気と美しく破壊的で想像を超えた展開、一見狂ったようなカメラワーク、しかしそ

『楢山節考』 目を背けたくなるほどに生々しい人間の生と欲望

今村昌平監督は『楢山節考』で第36回カンヌ映画祭の最高賞であるパルム・ドールを受賞。さらに『うなぎ』でも第50回カンヌ映画祭のパルム・ドールを受賞している映画監督です。 同賞を2度受賞した監督はコッポラ監督やケン・ローチ監督、クストリッツァ監督など世界でも8人しかいないのだとか。しかも日本映画がパルム・ドールを受賞したのはこれまでで全5本。そのうち2本が今村監督の作品です。 カンヌ映画祭で賞を取った作品って存外好みに合わないものが多いのですが、今村監督の受賞作品はどちらも

『tout simplement noir』 肌の色、いろいろ

最近見たフランス映画『tout simplement noir』が面白く、それ以来肌の色について考えている。本作はフランスにおける人種差別問題をコミカルかつシニカルかつギリギリのブラックユーモアでコテコテにデコレーションした作品で、笑いの中に鋭い視点や問題提起のある興味深い作品だった。 BLM運動のお陰で人種差別問題について少しは関心を持つようになっていたのだけれど、本作を観て今まで”黒人”と大きな括りでひとまとめにしてしまっていた自分の浅学さに気づくとともに、人種差別とは

狂気の大傑作! 『ポゼッション』(1981)

久しぶりに魂を揺さぶられるような、映画を一本見たと言うのでは足りない、ひとつの経験を得たと言える力強い作品に出会えました。 こういう作品に出会えることがあるからやっぱり映画はやめられません。見たことがないもの、経験したことのないものとの出会いに、全身に光を注ぎ込まれたかのような目の覚める思いです。 『ポゼッション』はポーランド出身のアンジェイ・ズラウスキー監督による1981年の作品です。(サム・ライミ監督の同名作品とは異なりますので要注意) どこか奇妙な夫婦の様子に、はじ

初代『トップガン』 映画をつくるのは誰?

パリでもロングラン公開中の『トップガン マーヴェリック』。 戦争をかっこよく描く作品は好んで見ないため、流行っているなあと横目で眺めつつなかなか食指が動きませんでした。 が、本作公開によって海軍への入隊希望者が殺到したという噂を耳にし、試しに初代『トップガン』を見てみることにしました。 というのも、今まで戦争映画とは戦争に反対するための有効な手段だとしか考えていなかったのです。むしろ、軍隊のPRやリクルートとして非常に有効な手段なのだと初めて気がつき、自分の視野の狭さを痛感

『ソー ラブアンドサンダー』 マーベル流B級コメディ

他シリーズとのコラボレーションが激しく、予習作品が多すぎた『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』と比べると今作はソー三部作とアベンジャーズシリーズのエンドゲームまでの流れをおおよそ観ているだけで大丈夫。 ただ予告編を観ると誰だか思い出せない登場人物もいたので、サッと主要な登場人物を振り返ってから映画館へ行きました。 振り返って気づいたのですが、マーベル作品って3、4年前に観た作品にも関わらず内容がほとんど思い出せません。登場人物もタイトルになっているヒーロ

青春のジム・ジャームッシュ

大学生になった頃、かっこいいものをいろいろ教えてくれる先輩からおすすめされたのがジム・ジャームッシュだった。『コーヒーアンドシガレッツ』は観たことがあったけれどあの時は幼かったのだろう、よくわからない作品だという印象が 残っていた。 先輩におすすめされた『パーマネントバケーション』を観てみたけれど、全く面白いと思えない。でもジム・ジャームッシュを知ってる方がお洒落っぽいのだなということはわかったので、そこから立て続けに『ストレンジャー・ザン・パラダイス』『ダウン・バイ・ロー

『砂の女』を読んで『パピヨン』を観る

ご存知の通り、主人公が砂の穴から出られなくなってしまう不条理な物語です。 穴の中に住む女は彼の質問になかなか答えてくれないし、読み手も主人公と一緒に困惑します。一体どうしてこんなことになってしまったのか。これは一体なにかの間違いじゃないのか。 監禁されるのも身体的に怖いけど、意味が分からない状況に突然放り込まれ、誰も質問に明確な答えをくれないというのがさらに精神的な恐ろしさを掻き立てます。 それにとても臭い匂い漂ってくる文章です。不衛生な穴の生活。自分の常識が通用しない

楽しみよりも宿題を片付ける気分になってきたマーベル作品あれこれ

※『ワンダ・ヴィジョン』と『スパイダーマン』シリーズと『ドクター・ストレンジ』シリーズのネタバレがあります。ネタバレしかありません。 『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』絶賛公開中につき早速行ってきました。が、観に行く前に乗り越えるべきハードルがいくつもありました。 マーベル作品の熱狂的なファンではなく、見始めたのは『アベンジャーズ エンドゲーム』が公開された時にパートナーから「騙されたと思って見てみて!」と布教されたのがきっかけと、遅め。その時すでに

どこまでヒーローの残虐さを許せるか?

先日『ザ・スーサイドスクワッド “極”悪党、集結』を観ていて気になったことがありました。 (『ザ・スーサイドスクワッド1』も『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』も観ていないので知識不足な点があるかとは思います!) スーサイド・スクワッドとは、自殺級に危険な極秘任務に挑む特殊部隊。減刑と引き換えに受刑者たちが隊員に選ばれます。 主要キャラはハーレイ・クイン、ブラッドスポート、キングシャーク、ポルカドット・マン、ラットキャッチャー2、ピースメイカー、そして”スーサイド・スクワッ