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連載小説「オボステルラ」 【第二章】23話「道、拓ける」(1)


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第二章の登場人物


道、ひらける


 翌日も、翌々日も、ゴナンの熱はなかなか下がらなかった。

 解熱剤を飲んだら少し落ち着くが、薬が切れるとまた高熱になってしまう。その繰り返しだ。ゴナンも体こそ起こせるものの、体全体がだるそうで寒気もあり、頭を痛がる。トイレに立つ以外は、ぐったりと寝込んだままだ。

(かろうじて果物は食べられてるけど食欲も回復しないし、本当に疲れだけが原因なんだろうか…)

 アドルフの手紙に書かれていて医者も言っていた「街の空気」のせいだったら、これは治るのだろうか? 街にいる限りは治らないのか、もしくは悪化するのでは…。

 気が気ではなく、リカルドはずっとベッドサイドでゴナンの様子を見ている。夜も、ベッド脇の椅子に座ったまま眠る。ゴナンの少しのうめき声でもはっと起きていた。とにかく、心配でたまらない。

「ちょっと…、あなたが看病で倒れちゃうんじゃないの?」

夜中、閉店後にナイフが心配して様子を見に来た。

「私が交代するから、下のお店のソファで寝たら? 今日はもう閉店したから」

「大丈夫だよ、僕が多少無理したって平気なの、知ってるでしょ? 心配なんだよ…」
「……」
ナイフはふう、とため息をつくと、後ろからぐっとリカルドの首に腕を回し、ぐいっと締めた。

「どうしても寝ないなら、このままあなたを落として下に運ぶけど」
「…ぐ…、ちょ、それ、マジなやつ…」

元格闘家という噂もあるナイフにかかれば、細身の男を落とすのなんて一瞬なのだ。リカルドは降参でタップする。

「…分かったよ…。下のソファ借りるね。頼むよ」

「任せて。万が一何かあったらすぐ呼びに行くから。大丈夫だと思うけど。お酒飲みたかったら適当に飲んでいいわよ」

「…そんな気にはなれないよ…。でも、ありがとう」

ナイフにひらひらと手を振って、リカルドは階下へと降りていく。ナイフはお店もあるのに申し訳ないと思いつつ、ここは甘えることにした。

 ソファの一つに敷き布をしき、部屋から持ってきたクッションを枕にして、ふうと横になる。

(ゴナンの体が弱いのは、あの貧しい環境のせいだと思っていたけど、もし体質の問題だったら、旅で連れ回すのは少し考えた方がいいのだろうか…)

目を閉じ、今後のことを思案するリカルド。もう少しこの街に滞在する予定だが、そろそろ次の行き先を検討しなければならない。以後、巨大鳥の目撃証言は途絶えてしまっているし、卵の件で気になることもある。それに、巨大鳥の背に乗り何ヵ月も飛び回っていたミリア…。

(…………)

いろんな思案でごちゃ混ぜになるうちに、リカルドの意識は睡眠の谷へと深く落ちていった。

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「……? うわぁっ!」

 ふと目覚めたリカルドは、目の前で自分の顔をじっと見つめていた壮年の男性に驚き、飛び起きた。

「ロベリアさん。……あ、もう、朝、か……」
「大丈夫ですか? かなり眠り込んでいたから、相当疲れているのかと心配して……」

 今日はまだウィッグもドレスも身につけておらず、「普通のおじさん」な雰囲気のロベリア。

「申し訳ない、部屋でゴナンが高熱で寝込んでるので、ここで仮眠を取るつもりが、すっかり熟睡してしまって。もうお店の準備を?」

「…いえ…、ちょっと考え事をしたくて、早めにこちらへ。寮ではヒマワリちゃんと同室だから、なかなか、ね」

そう言って笑うロベリア。確かに、あの賑やかしい彼が横にいては、考えられるものも考えられないのかもしれない。

「…ロベリアさん…、あの…」
「……?」

リカルドは、ずっと気になっていることを聞こうと思ったが、ためらった。余りにも唐突な質問になってしまうからだ。

「……いえ、何でもありません。僕は部屋へ上がりますね」

そう微笑んで、リカルドは2階の部屋へと上がっていった。ロベリアはそのまま、ソファに座って考え事を始めたようだった。

「ナイフちゃん、ごめん。すっかり寝てしまって」

「あら、それは良かったわ。ゴナンも熱はまだ下がっていないけど、特に何もなかったわよ」

 ナイフはリカルドの顔色が良くなっているのを確認して、「よし、じゃあ私はちょっと仮眠取るわね」と部屋を出ていった。リカルドはベッドサイドの椅子に座って、ベッドで眠るゴナンの顔色を確認する。熱はまだ高く、苦しそうだ。汗を拭いてあげる。

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「まいどー、配達でっす」

と、そう元気な声で入ってきた人物がいた。ヒマワリだ。

「ヒマワリちゃん…。ゴナンがまだ寝てるから」
「あら、ゴメンゴメン。ナイフちゃんに言われてね、氷の換えと果物もってきた」

 謝りつつも賑やかしいトーンのまま、テキパキとゴナンの頭にある氷嚢を交換し、切った果物の皿をドンとデスクに置く。

「わー、実は私、この2階に上がるの初めてなんだよね。ちょっと探検していい?」

 そういって部屋をグルグル見て回り、そこら中の引き出しを開けて回る。




「……君の『探検』とは、引き出しや棚を引っかき回すことなのかな? 泥棒と同じ動きじゃないか」

「あれ、宝探しは探検の基本ではない?」

そう笑ってベッドの下やソファのクッションの裏まで点検している。

「うーん、特に面白いものはないか」
「……」

「熱、下がんないみたいだね。私も子どもの頃、よく高熱出したなあ」

 すぐに、ベッドで眠るゴナンに視線を移すヒマワリ。とにかく賑やかしい。これではロベリアが考え事ができないというのも、仕方が無いかもしれない。

「体が弱かったの?」

「そういうわけじゃないけど、子どもってよく熱出すじゃん? ゴナン、食べ物、果物しか取ってないの? もちょっとパワーになるもの食べた方がいいんじゃない?」

「あ、ああ…。でも、食欲が湧かないみたいで…」

「私、あれ食べるとすぐ治ってたなあ…。なんだっけ? えーと、カ…、カーユ…? 親がよく作ってくれてた。食欲なくても、不思議と食べられるんだよね。あれがいいんじゃない?」

そう言いながら、ゴナンに切ってきたはずのゴンの実を1個拝借して、シャクっと食べるヒマワリ。リカルドはそれをたしなめつつ、その料理に食いついた。

「…カーユ……? 聞いたことないな、どんな料理?」

「えーとね…。白くてドロドロしてて……、味が薄い、食べやすい、料理…」

「……」

リカルドはいつものうっすらした冷たい微笑をヒマワリに向ける。

「……まったく、わからない」

「仕方ないじゃん、自分で作ったことないんだからさあ」

腕を組んで逆ギレするヒマワリ。

「なんかね、たしか穀物を使うんだけど、その穀物が、栄養なんかがいい感じなんだよね、風邪とかに…」
「カーユ、か…。ぜひ食べさせてみたいけど、ナイフちゃんは知ってるかなあ…?」

 困ったときは、つい、すぐにナイフを頼ってしまうリカルド。しかし、自分の代わりに徹夜させてしまったナイフを仮眠から起こすようなことは、流石にできなかった。


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