彼は「俺は一生結婚する気がないから、あなたとは付き合えない」と言い、私は「1年以上彼氏と長続きしたことがないから、1年だけお試しで付き合おう」と言った。1年後、彼は1カ月間失踪をし、私は絶望をした。1年後、彼はアメリカで働き、私は日本で働いていた。1年後、コロナがふたりを襲った。1年後、お試しで同棲を始めた。そして今、結婚に至る。私はなぜ、彼の失踪を許せたのだろう。彼はなぜ、私に「結婚しようか」と言ったのだろう。

7月7日に生まれて、ななこと名付けられた私が、今日、結婚をした。

平日の昼にもかかわらず、役所はディズニーランドのハニーハント並みの大混雑。結婚する人、子どもが生まれた人、離婚する人でごった返していた。せっかく晴れていたのに、手続きが終わったのは17:30。会社の定時だ。仕事より疲れた。

彼と付き合い始めたときから、結婚するとは思っていなかった。お試しのお付き合いから始まったし、付き合って1年後、1ヵ月全く連絡が取れなくなったときがあったから。

朝はLINEでメッセージを送り合っていたのに、最後に私が送った言葉が火種となって、彼は待ち合わせ場所には来ず、連絡が途絶えた。その後、1度だけ繋がった電話で、私は怒りをぶつけ、結果、その後1ヵ月も着信拒否をされてしまったのだ。「着拒系失踪男子」と当時は呼んでいた。彼が初めてじゃないのが、私の男運の悪さとも言える。

「それ」があったから、私の親からも友達からもよりを戻すのを大反対された。

「1度あることは2度ある」「もっと自分を大事にしてくれる人と付き合え」

でも、私はわかってた。

「私と彼は付き合っているんだから、こうするべきだ・こうして欲しい」を私は押し付けた。それはもうパワハラ上司が部下を言いくるめるかのように、言葉巧みに彼を陥れた。

今でもそのことを後悔している。言葉を仕事にしているからこそ、「それ」はやってはいけなかった。

よりを戻してから「ななこは大人になったよね」と言われることが多くなったのだから、以前の私はよっぽどのワガママだったんだと思う。

ただ、全てを許したわけじゃない。

連絡をしないことが、どれだけ相手に心配をかけ、ときに恨みを抱かせ、自分の信用を陥れるかを説明した。

デートに無断で遅れるたびに、デートの計画を当日まで既読スルーをするたびに、私はずっと説得をした。

そのおかげか、以前よりもずっと意志疎通ができるようになった。えらい。

アメリカと日本の遠距離恋愛で、彼が「寂しさ」の感情を共有してくれたのも、よかった。

おかげで、あんなにコミュニケーションが大変だった彼と週1で電話をして、ときにはオンラインで顔を見ながら話した。

ひとりが好き、他人に興味がない、内向的な彼に、たったひとつ必要だったのは尊重だと、ようやくわかった。心がないわけでも、酷い人でもなく、ただ内向的で、自分の気持ちを表すのが苦手なだけ。

彼は私に何かを求めない。自分の要求を聞いてくれとも、家事をしてくれとも、言わない。ラクで助かる。

でも、彼は私のために何かをしようともしない。ときに冷たく感じるし、寂しい。

一方で、彼は本当に見返りを求めない。「自分はこれをしたのに、喜んでくれなかった」ということもない。

長所が短所で、短所が長所。

好きだけど嫌いで、嫌いだけど好き。

我が家のスローガンは「尊重」

ずっとそうして暮らしていけますように。

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