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『女子校出身者オンリー女子校百合アンソロジー 青春の瞬き』感想+よもやま話



はじめに

 またまた非常に遅くなりましたが、2024年2月25日コミティア147にて、『女子校出身者オンリー女子校百合アンソロジー 青春の瞬き』を頒布しました。気付けば一カ月以上、経過している……!
 ご購入いただいた方、執筆でご参加いただいた方、作業中励ましてくださった方、本当にありがとうございます!
 ありがたいことに、今回も物理本に関しては完売しました! 現在はPDFを販売中ですので、ご興味のある方はぜひ!

 今回は、『巷にある学生百合って女子校出身のわたしからすると中々非現実的だけど(※創作なんだからそれはそう)、それなら女子校出身者による、女子校を舞台にした百合を書いてもらったらどうなるんだろう……?』という考えからスタートしました。これはわたしにしかできないコンセプトだ、わたしがやるしかない……! という使命感(?)の元、早速執筆者の方を探しました。
 半ば公募のような形で参加者を募っていたのですが、これが中々見つからず……。女子校出身者の創作百合書きの方なんてそうそういないよな……と思っていた所に相互フォローの方々にお声がけ頂いたりお声がけしたりで三名の方にお集まりいただきました。奇跡。
 コンセプトは”リアリティ”に置き、執筆をお願いしました。執筆者の方々にお渡ししたレギュレーションも、けっこうきびしかったと思います。

・作者自身が女子校に通学していた期間を舞台にする事
 ※塾・予備校・アルバイト先等でも可
・社会人になってからの学生時代の回想、もしくは学生時代の仲間たちとの内容でも可
 ※その場合は内容を女子校に関連させる事
・周囲で実際に起こっていても不自然ではない程度にリアリティを持たせる事

 実際、原稿を書いていたわたしも何度も「リアリティって、なんだ……?」と何度も壁のぶち当たりながら書いていたので、執筆者の方々は相当悩んだのではないかと思います。すみませんでした。
 途中、わたしがコロナにかかったり胃腸炎にかかったりで、熱があってふらふらする中、布団からなんとか這い出しPCでイラレデータを確認するなんてこともあったりしながら、12月初旬から始まったこの企画は約3ヶ月で頒布までこぎつけることができました。原稿締切まであまり時間が設けられず、執筆者の方々にも申し訳無かったです。ここまでのスピード感でアンソロを頒布するのは良くないなと反省。
 とても素敵なお話、表紙イラスト、デザインが揃い、わたしは大満足です……! みなさん、本当にありがとうございました!
 自作語りをしてしまった、お恥ずかしい……! そろそろ感想に移りたいと思います。
 ネタバレありなので、未読の方はご注意下さい。

桐島あおさん『せをはやみ』

 感想の前に、作者・桐島あおさんの簡単なご紹介から。
 短歌を詠まれていらっしゃる方です(中には内容が百合の短歌も発表されていらっしゃいます)。繊細な心情が、美しい言葉とともに三十一文字に込められていて、どれも素敵な作品ばかりです……! 昨年夏は個展も開催されていました(私もお邪魔させて頂きました)。

岡藤真依さんの透明感あふれる絵もあいまって、個展はとても素敵な空間でした

 創作百合小説も発表されていて、大人百合の作品が多い印象があります(だから、今回学生さんのお話を書いて頂けて貴重だなと思いました……!)。ストリップ劇場に通う女性客の方のお話をいくつか発表されているのですが、どれも艶っぽくどこか切ないお話が私も大好きです。
 アンソロとはまた違った良さのお話ですので、ぜひお読みになって下さい……!


 今回ご寄稿頂いた作品、まず特筆すべきなのは、文章の美しさですね……! 一文が適度な長さで、漢字が開かれて書かれているその書き口だけでもう雰囲気があると言いましょうか。わたしなら『くちびる』を平仮名で表そうと思わないですから……。漢字を開いて書く、というのは(前のアンソロでも同じような話をしましたが)作者の方のセンスが光るところが大きく、中々真似できるものではないな、と思わされます。
 (余談です)最近意識的に漢字を開いて書くことに挑戦したのですが、やっぱり不自然になってしまう気がして、これができる方々をさらに尊敬するばかりです。

 ようやくここから、内容に関する話。花ちゃんの心情描写がすごく素敵だと感じました。
 花ちゃんは、中等部で同じクラスだった親友の詩乃ちゃんの考えに染まってしまう所(詩乃ちゃんが好きなものは好き、反対によくないものはよくないと思ってしまう)に不安を感じています。
 しかしこれって普通のことで、陳腐な例えですが、恋愛感情が介在している関係性だと『好きな人が好きなものはわたしも好きになる』ということはよく言われますよね。花ちゃんにとって、詩乃ちゃんの考えについ迎合してしまうのは、ある種強い親愛の裏返しだともいえます。
 この『自分の考えが無く、誰かの考えが自分の考えになってしまうこと』の恐れというのは、すなわち個性や自分らしさが無いということであり、個性の無い自分に対する嫌悪感を花ちゃんは持っているのでしょう。
 一方、小学生の頃の椿ちゃんや詩乃ちゃんは、花ちゃんにとっては『確固たる自分らしさを持った人物』のように見えてしまうのです。自分らしさを持った周囲と、それが無い自分。横並びにいるはずの近しい人とつい比べてしまい、自分自身の中ですら自分が揺れ動いてしまう、そんな十代の『青い』心情がありありと描かれているのが印象深く感じました。
 そんな花ちゃんが、ラストで椿ちゃんの状況に対して『瀬をはやみ』の句を二人に告げます。確固たる個性を持つ(ように見える)二人に対して、花ちゃんが自分しか持ち合わせていない個性的な考えをあらわにすることにより、自分らしさを出すことができた場面なのだと感じました。だって、百人一首を引用できる高校一年生なんてなかなかいないですよ(『ちはやふる』の奏ちゃんを思い出しました)。

 ここからは誤読も誤読の拡大解釈なのですが、これらのことを考えていたら、サカナクションの『アイデンティティ』という曲をふと思い出しました。
 この曲、こんな歌詞が出てきます。

取りこぼした十代の思い出とかを
掘り起こして気づいた
これが純粋な自分らしさに気づいた

サカナクション「アイデンティティ」歌詞

 花ちゃんは『自分らしさが無い』ように思っているかもしれませんが、振り返ってみればその時期の自分こそ、まさに自分らしさそのものであったということに、大人になったら気付くものなのでしょうね。

 端々の描写から女子校らしさや学生らしさが詰まっていて思わず自分の学生時代のことを思い出してしまいました(友達の膝に乗ったり乗られたりするの、あるあるだったなとか)。
 百合作品、という括りを越えて、上質なYA作品を読ませて頂いた、という満足感がありました。忘れかけていた十代の青くてきらきらした感情を思い返せるすてきな作品でした!

東雲真響さん『青い春と巡る』

 軽快な会話劇が繰り広げられる連作短編でした。
 女子校の日常を描いているのですが、わたしには日常系というものが書けないので、まずそれが書けるというのが純粋に羨ましいなと思わされました。

 先輩と皆瀬ちゃんの会話劇が非常にテンポ良く進んでおり、読んでいて楽しいです。基本的に先輩と皆瀬は憎まれ口を叩き合っているのですが、その中にも互いを大切に思う気持ちが感じられて百合ですね。
 なんといっても、後輩である皆瀬ちゃんの『生意気な後輩』というキャラクターがあまりに強い……! 誰でも好きになりますってこんな後輩。
 先輩の立場からすると、従順に慕ってくれる後輩の存在も確かにありがたいし嬉しいんですが、それはお互い上下関係を弁えなければならない少し堅苦しい関係なんですよね。先輩の方も『後輩の前なんだからちゃんとした先輩でいなきゃ』と思わなければいけない気持ちが働くというか。でも、皆瀬ちゃんのように、口調は敬語でも、軽口叩きまくり、時に先輩ディスりまくりな後輩だと(もちろんやってはいけない一線はありますが)、そこにツッコミを返さないといけないのもあってかえってわりと素で話せるんですよね。でも、皆瀬ちゃんは軽口叩くだけじゃなくて、ちゃんと先輩を慕っていて(忙しいのにわざわざ昼休み図書室にかけつけたり、手作りクッキーがたくさん入った箱をもらったりとか)、先輩を尊敬している面も行動としてみせてくれる。お互いの信頼関係があるからこそそういったやり取りができるわけなので、さらに親密になれるというか。気安く話せるけど、ちゃんと尊敬してくれてる後輩ってかわいいと思わないはすがないです。作中にも出てきますがまさに自分に懐いてるわんこですよね……!

 あとは、各章最後に出てくる< >で先輩と皆瀬ちゃんの心情(セリフ?)を示しているこの表現方法が新しいなと思いました。わたしにこの発想は無いのでびっくりしました。かたちにとらわれているのは、わたしの方なのかもしれない……!

かろでなさん『水槽の龍』

 前回のチェーン店百合アンソロに続き続投していただいたかろでなさん。前作での関西の食べ物や美しい景色で元気を貰えそうな作風から一変、今作は女子校の"影"に迫りつつしっかり女の子同士の連帯や愛情を感じさせられる作品でした。
(今回のアンソロは前半2作品を"光"、後半2作品を"影"だと思っています)
 この作品は語り尽くせない位に考えさせられるがありすぎて、ちゃんと読み込んでいる方からすると読みが浅いと思われそうですが感想を書いていこうと思います。

 まず特筆すべきなのが、(スペースでもさんざん話していた内容ではあるのですが)二人の着ているお洋服のディテールが細かく描かれている事ですね。最初のサイン会のシーン、珠蘭ちゃんの紺色の『誰も文句言わなそうな』ワンピースもそうですが、なんといっても輝久さんの地雷系ファッションの描写が目を引きます。ベリショで高身長というマニッシュさを感じる特徴に地雷系という特大に甘いテイストの服装を持ってくるという完璧に足し引きされたチョイス、流石というほかありません。作者の方の、お洋服好きな所がしっかり武器になっていて羨ましく思います。服の描写って難しいですからね……。
 さらにそれらの細かな描写が、本作品の『自分の好きな女の子らしい服装を同輩の前で見せることができない』という二人の共通する問題に大きく関わっていて、お洋服のディテールがきちんと作中の重要な要素になっていることがさらに感嘆させられます。人物の見た目や情景描写って、ディテールをこだわるあまり言葉を重ねられると、文章を読む集中力を削いでしまうことが往々にしてありますが、そうはなってない所もすごいです。
 (完全に蛇足ですが)珠蘭ちゃんは俗に言う美人百花系の、めちゃくちゃ甘すぎるわけじゃないシンプルで綺麗めなお洋服を着てそうだなーと。ノエラとか、あとはプロポとかジルバイとか?(作者の方がまさに詳しいジャンルだと思うので違ったらごめんなさい)完全に冒頭からの想像です……。
 対する輝久さんはお洋服の描写が度々出てくるのですが、冒頭の地雷系からロリィタチックなコルセットスカートにチャイナワンピと、幅広いジャンルの、一本筋の通った個性的で可愛いお洋服だなと思いました(どちらかといえばお洋服だけなら子供顔というか)。でもやっぱり冒頭の地雷系ファッションの印象が強いので、ロジータとかアンクルージュとか着ててほしいなって。リルリリーみたいなポップでキュートな感じもいいかも! あとはリリーブラウンのレースのチャイナワンピですね! わたしもあのワンピ欲しい……。
(どのブランドも高校生が買えるようなやつじゃないのはゆるしてください)

 内容についてなのですが、このお話が、他3作品に比べて一番『百合』を感じさせる作品だったと思います。今回のアンソロは、リアリティに重きを置いて執筆頂いたので、女の子同士の恋愛を強く押し出すことができないのは想定できていたのですが、これはリアリティとも両立できていて上手いことやっていらっしゃるなーと思わされました。

 百合を感じさせる要素のひとつとして、"ふたりだけが通じる言葉"というのがあります。今回、作中作である王八波先生の『南十字星の墜落』では、主人公の訪子が使う日本語、対する人魚のタオは東シナ人魚語を話すのですが、この二人が漢字を介してコミュニケーションをする中で新たな言語を獲得します。作中、この二人は親密に描かれているようなのですが、二人しか知らない言葉でやりとりをするというのは、どこまでも閉じた世界でありたいへん百合だなあと感じます。
 また、作中何度か登場する王先生の誕生日会のシーンには、王先生の隣にはお揃いの華ロリを着た女性がいます。王先生がファンに日本語で語りかける傍ら、この二人は時折中国語でお喋りをする様子が見かけられるのですが、おそらくこの二人はパートナー同士なのでしょう。ここでも、皆がわかる日本語ではなく自分たちしか知らない中国語で自分たちだけの世界を時折繰り広げています。これも百合ですね……! 人に蟹を剥いてもらって食べさせてもらうって、相当親密な間柄でないと出来ないですよね。ただでさえ蟹なんて剥くの面倒なのに……。この女性の王先生に対する献身さが垣間見えます。

 ↑の曲でもサビ部分で『上海蟹食べたい あなたと食べたいよ』という歌詞が出てくるのですが、剥くのも面倒だし、無口になってしまう上海蟹をだれかと食べたいと思うことがすなわち愛なのかもなーと。(そんな解釈がこのMVのコメントにあって、『水槽の龍』を読んだ時にその解釈を思い出しました)

 さて、このような"特定のマイノリティな言語による二人だけの閉じた世界の形成"は今回の主人公である珠蘭ちゃんと輝久さんにも起こっていると言えます。元々、中国出身の王先生の作品繋がりで出会ったという経緯もあり、簡体字や中国語の存在が近く、中国語での単語でのやりとりをしたり、漢詩を読んだりしています。ここまでの前段を踏まえた上だと、中国語を使用した上での二人のやりとりというのが、ただのやり取りの域を越え二人だけの閉じた世界の形成に繋がっているように思えてくるのです。めちゃ百合です。

 少し話はずれますが、作中、互い以外の受け入れがたい存在を何度も爪弾きにし、二人だけしか入れない閉じた世界を徹底的に作ろうとしているんですよね。珠蘭ちゃんの部活の同輩に対して輝久さんと休日一緒にいた事を否定し、作中何度も輝久さんとの世界に立ち入らせないようにさせたり、偶然でくわした輝久さんの同輩(輝久さんの格好をからかう)に対して「警察を呼ぶ」と言ったり。学校の同輩に内緒にしていることから繋がった仲間というのもあってか、時に強硬に、徹底的に二人だけの世界を作り出そうとしています。それに加え、作者が前に仰っていたのですが、珠蘭ちゃんの同輩のセリフは「」で括られていない辺り、二人以外の言葉は"外"に置かれているということがわかります。すごく、百合です……!

 あと、互いに互いを愛おしく思うセリフや心情がどんどん作中に登場しており、双方満更でもない反応をしているので、おそらく『両片想い』状態なのですが、関係を壊したくないからなのか、決定的な愛のことばは出てこない所がリアルだと思いました。こういう所でアンソロのコンセプトを生かして頂いてありがたい限り! よくよく考えると、言葉に出して気持ちを伝えてようとしているのは、守られる場面が多い輝久さん側なのが面白いです。行動で愛情を示す珠蘭ちゃんと言葉で愛情を示す輝久さん。恋人同士にはならずとも、二人が末永く心通じる相手で居続けてほしいものですね。

 本筋から逸れるのですが、前作でも登場した秋河さんが再登場していたのが嬉しかったです!(勝手にファンサだと思ってます)。しかも今回のセリフは二人が将来を考えるきっかけになっているので重大な役割を果たしています。同輩にはかたくなに可愛いお洋服が好きなことを話さない二人が秋河さんにはそれをカミングアウトしているので、秋河さんは生徒から信頼を置かれているのでしょうね……!
 ちなみに秋河さんの大学から遠い塾で働いているという設定だそうで、その理由が以前ツイッターに投稿されており、

(あっ気持ちが重いな)
 今回は二人を導く先輩的ポジションでしたが、中身は変わっていないようで安心しました。

 つらつらと語ってしまいましたが、これは氷山の一角でしかない解釈なので、ぜひお読みになってこの作品から何かを感じ取っていただけますと嬉しいです。女子校の功罪を捉えたとも言うべき内容ではありますが、女子校のことを知らなくてもどこかしら響くところがある作品であると思います。 

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