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過去の1場面物語『君、星、そしてこの場所で』

1人目。
手を伸ばした。
何を掴めるわけでもないのに。
それでもその日空に向かって手を伸ばしたんだ。

朝露に草が濡れて、空気はひんやりとしている。
舗装されていない土の道はボコボコとしていて、たまに足を取られる。
リュックと背中の間は早くも汗ばみだしている。
隣を楽しそうに歩く足を見ながら、何でこんな事してるんだろうと考える。


2人目。
 大切なものが居つまでも此処にあると信じて疑わない人間は、大切なものの形が無くなってはじめて『そんな魔法のような永遠はこの世にない』ことを知る。
明日でいいやと流した言葉は何処に行くこともできず、このだらしない心の中に留まっている。
とりあえずで家を出る。古びたタバコ屋の横を曲がる。線路の下の短いトンネルを抜ける。土手へ上がり、道なりに進む。

3人目。
 ベタベタとする空気が鬱陶しい。夏も、勘違いな人間も何もかも鬱陶しい。そう思っていた時もあったなぁ、なんて足をバタバタさせながら空を仰いだ。
すっかり夏になろうとしている空は濃く青く、顔に影を作る木の枝も濃い緑で覆われている。夏は濃い。夏は恋。朝に咲く朝顔みたいな君を思い出して涼しくなる。
短めの制服のスカートをパタパタとやって、夏の濃さと戦っていた。

4人目。
 手を伸ばす。物凄い力で引っ張る。手繰り寄せる。抱きしめる。一瞬の出来事。心臓に悪い。
知らない人だと思う。正確には、何時も景色には入ってる見たことだけある人。儚くて、消えそう…なんて思っていた。まさか、目の前で消えるというか、消し飛ぼうとするとは思わなかった。私の腕の何処にそんな力があったんだろう?私の心の何処にそんな力があったんだろ?
『なんで…?』そう呟く初めて触れたアナタの身体は小さく震えていた。

5人目。
 足が向かう。いつも通りを、当たり前のように。ただそれだけのことに心臓が痛い。『いつも通りを、当たり前に見せかけて、それはもう精一杯です。ギリギリなんですよ。』そう言って、諦めてしまいたい。隣をひらひら飛んでいく蝶にまで嫉妬しなくて済むようになるなら、この命あげますから。
足が向かう。いつも通りを、装って。当たり前のように、あげてしまおう。そうしよう。そうだ。そうしよう。

 
私。
 一年で一番人が集まる。普段は、通勤途中のサラリーマンとか運動してる人とか、疲れた顔のお姉さんとかが行き来してる土手の上。 
今日は皆、馬鹿みたいに上を見上げてる。
夕暮れ時には賑わいも一段と盛り上がって、屋台に並ぶ行列も長くなって、カラフルに咲くレジャーシート。
濃紺の空に涙が出るほど儚い花が咲いては消えて、終わる季節を更に切なくさせる。
去年も来た。来年も来る。この星がある限り、何処かで巡るはずなのに、何でこんなに毎回切ない気持ちになるんだろう。
名前も知らない、どんな生活をしているかも知らない、アナタたちと見上げる打上げ花火は如何してこんなに美しいのでしょうか。



結構前に書いたやつ。
言葉選びがなんか気に入って
こっちにも載せ直す。

過去の私は5曲歌を聞いて、これ書いたんだって。
人の繋がりは結んだり解けたり切れたり。
そんな事書いてあった。コメントに。

儚い光の下で、見上げる空は同じで、想いだけが交差して。

それでも、願うこともあるでしょう。
そういうの、悪くないよね。

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