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「ずっと好きだった」(赤)

*企画参加*

前半《Marmaladeさん作》


わたしの名前はフランボワーズ、猫の世界に生まれた。当然、猫語は母国語だ。他にも日本語、英語、フランス語、そうそうこびと語も操ることができる。まあ猫としては当然のことだ。ショートヘアでジンジャー(赤毛)の毛並み、瞳は緑、足先だけ真っ白なの。自己紹介はこんなところでいいかしら。

ひと月に一度のご褒美時間、それはお気に入りの本を片手に1人過ごすカフェの窓際、夏でも冬でも必ずクリームソーダをお供に。エメラルドグリーンのソーダはしゅわしゅわと金色の気泡を立てている。その上には真っ白なヴァニラアイスクリーム、真っ赤なさくらんぼがあらぬ方を向いて乗っている。そのさくらんぼを見つめながら、あの日の出来事を思い出していた。

わたし、すごく嫌な猫だった。
どうしてあんなこと言ったんだろう。

何度となく後悔することが猫にはあると知ったのは、自分が大人になったせいなのか、それはまるで、お気に入りの赤いセーターを着るたびに少しチクチクしてしまう、そんな些細な気持ちではあったけれど。



アイスクリームが溶けかかっている。滑り落ちたさくらんぼがソーダの中にゆっくりと沈んでいく。はっと我にかえって、せっせとアイスクリームを食べると、つきんっとこめかみに痛みを感じた。その瞬間、何が起こったんだろう。フランボワーズの世界が赤く染まっていった。


《koedananafusi作の後半》

「痛ぁ…って何?!ここは…どこ?」

フランボワーズが先程まで物思いに耽っていたはずのカフェは跡形もなく消えていた。

わたしったら、どうしたのかしら…。それにここはなんなのかしら?どうしてカフェにいたはずなのに…こんな、こんな…

フランボワーズがいるのは真っ赤な薔薇の上だった。柔らかな花びらの感触が肉球に伝わる。
フランボワーズは猫なわけだから、そんな大きな薔薇なんてあるはずはないのだけれど、その薔薇はフランボワーズを包み込むほどの大きさだった。

あたり一面薔薇の香り。
見渡すと巨大な薔薇に囲まれている。

「わたし…眠っちゃったの?これは夢なの?」

フランボワーズは花の上で、ソワソワと髭を撫でた。
真っ赤な薔薇、芳醇な香り…あの猫の傷ついた瞳…。
カフェでも思い出していたけれど、薔薇の花はフランボワーズにとって良い思い出の花ではなかった。
赤を見ると、薔薇を思い出して、薔薇を思い出すと、彼を思い出す。

『ひどいよ……フランボワーズ…』


フランボワーズにはピスタチオという名前の幼馴染の男の子がいた。
彼はブルーグレーの美しい毛並みの持ち主で、瞳は青みがかったグリーン。
大人しくて優しくて、口下手な、そんな猫。

フランボワーズは彼の事が好きだった。
お転婆で、男勝りな性格の自分に、何時だって付いてきてくれるピスタチオ。

あれは、そう。数年前のクリスマスイブ。

ピスタチオに呼び出されて公園に行った。
そこはピカピカに輝くイルミネーションが綺麗で素敵な場所だった。

もじもじとしたピスタチオが、真っ赤な薔薇の花束を差し出して、目の前が真っ赤に染まったのを覚えている。

わたし…嬉しかった。
女の子扱いなんて周りにされなかったから、お花なんてもらえるとは思ってなかった。
それも、好きな猫に。

けれどフランボワーズは、それ以上に恥ずかしかった。
普段は男前なキャラで男達にだって負けなかったから。だから…あんなことを言ってしまったんだ。

「フ、フランボワーズにあげる。あのね、僕、君の」
「ピスタチオ。薔薇の花なんて持ってきてキザなのね?でも、わたし、花って興味ないの。だって枯れたら終わりでしょ?苦いけどニボシの頭のほうが数倍マシよ。わかったら、本当に好きな子にあげるときはニボシか高級爪研ぎにするといいわっ!」

思い出すと、頭が痛い。
なんて酷い台詞なんだろう。
ピスタチオがわたしのことを好きだなんて知っていた。
知っていて、はやく告白してくれればいいのになんて、花占いまでして、楽しみにしていたのに、呼び出された時は舞い上がるほど嬉しかったのに、いざ、ピスタチオが勇気をもって言おうとしてくれたのを自分で台無しにしたんだ。

「ひどいよ…フランボワーズ……ぼくは…他の子なんて好きにならないよ……」

ピスタチオは耳をペショッと下げたかと思うと、その場を走って去ってしまった。

「あ…」

追いかけようとして、わたしがどれだけ酷い言葉を言ったか考えて、追いかけられなかった。

その後、ピスタチオとは会っていない。
最近、ピスタチオが住んでいた辺りに行ったけど、前に住んでいた家は空っぽだった。
知らない間に彼は何処かへ引っ越してしまったのだ。

あれから、わたしは猛烈に反省して、女らしくお淑やかになった。男勝りで、口の悪いわたしなんて大嫌い。

そのおかけで、様々な猫から交際を申し込まれるようになったけれど、わたしはピスタチオのあの瞳と薔薇の花束を忘れられずにいる。

「もし、もう一度会えたなら…」

柔らかな花びらの上でフランボワーズはギュッと手を組んだ。

「それが君の願い事?」

すると小さな声が聴こえた。

「え?!だれ?!」

よく見ると小さなナナフシが花びらの上にちょこんと乗っている。
フランボワーズは目を見開いてナナフシをみる。

「わたし、、、虫語は覚えてないはずだけど」

「ぼくが猫語を喋ってるのさ!」

「まぁっ!!」

ナナフシは驚くフランボワーズにこう言った。

「君の願い事。叶えてあげるよ」

「え?」

「もう一度会えるよ。大丈夫」

「どうして?」

どうしてだろう。
でも、もし叶ったら、今度はわたしがきっと…。

「今日がクリスマスイブだから」

ナナフシがそう言って笑う。
今日は魔法の力がたくさん集まってるからね。

「さぁ、目を閉じてお嬢さん」

フランボワーズは目を閉じる。
優しい甘い薔薇の香りが胸いっぱいに広がる。


そして、目をあけると何時ものカフェの窓際の席にフランボワーズはいた。
アイスクリームはすっかり溶けて、さくらんぼはグラスのそこで横たわっている。

「あら…」

1つ違うのは、目の前を染める赤。
零れんばかりの薔薇の花束が置かれていた。
隣にはそっとハート型の爪研ぎ。

ハッとして、店内を見回すと、今開いた出入り口からブルーグレーの尻尾が出ていくのを見つけた。

フランボワーズは、薔薇を掴んで駆け出した。


今度こそ、今度こそ!!
あの時の薔薇の花は99本あったのだ。
その隠された言葉にきっと…
わたしは…

振り返ったグリーンの瞳と目があって
フランボワーズは…


街にはチラチラと雪が舞い始めた。




ピリカさんの企画に参加してみました!!

最初は読む側になろうとおもってました。
なかなか、私のテイストで続き考えるのが難しかった。
でも、猫ならば!猫だから!

素敵な赤の前半を、Marmaladeさん有難うございます!!
火サスの空気を感じたのだけど空間捻じ曲げてみました。
ご本人はどういう結末を考えていたのか……気になります!!


そして、私の話にはしれっとナナフシを登場させました。笑

現実の私もお話のナナフシのように仕事場でお客様に魔法を使って……いや、普通に頑張って、お靴売ります。セールだよ!!

ブーツがどんどんなくなるよ!!

お休みの皆様は素敵なクリスマスイブ&クリスマスになりますように。

お仕事の方は…きっとかきいれどきでしょう。クリスマスも気合い入れてがんばりましょう!!



寒い日が続きます。最強寒波だってさ。
皆様お身体ご自愛ください( ˘ω˘)フランボワーズとピスタチオの組み合わせ大好きなkoedananafusiより☆

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