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Dekoさん『花吹雪のアサシン』のスピンオフ:【花吹雪を知る男】


Dekoさん作品『花吹雪のアサシン』
(↑↑↑ Dekoさんの作品へとリンクされております)

5/3更新:ひよこ初心者さんが『花吹雪のアサシン。のスピンオフのスピンオフ』を書いてくださいました!
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Dekoさん作『花吹雪のアサシン』ースピンオフ作品:

『花吹雪を知る男』



「自殺すんのかぁ…」

疑問でも、驚きでもない、サラリと聞こえた台詞に僕の肩が飛びあがった。
誰もいないことを確認したはずの海辺の丘。まだ明けきらない夜の闇に浮かび上がった男が、枝から下がったロープを見上げながら一歩一歩僕に近づいて来る。

「ほぉー。見事な桜の木じゃないか」

返す言葉も分からず、視線をあちらこちらに泳がせる僕をよそに、その男はロープの先に作られた輪っかを左手で撫でながら鼻先で笑う。

「ったく、これじゃ死ねねーぞ?」

手にしていた缶を地面に置き、男はロープの輪をあっという間に解いてしまった。

「結び目はな、こうやって作らねーと…締まらねぇ」

慣れた手つきで輪っかを作り、それは、通した喉を確実に絞めつけてくれるようなしっかりとしたものだった。

「あ、ありがとう…ございます?」

お礼を言うのは変な気持ちではあった。でも知りもしないこの男は、僕の言葉を聞いて「おう」と頷き、また鼻先でふんと笑った。
男は桜の先にある海に目をやり、今度はゆっくりと崖っぷちまで足を進める。死のうとここへ来た僕だったが、いつ止まるのか分からない男の歩みに、彼が身投げをするのではと急に不安がよぎった。

「どっ、どうして!!どうして結び方をしっているんですか?」

死のうと覚悟を決めた僕が、男の自死に慌てるなど、訳の分からない事をしている。どもりがちで出てきた僕の問いかけも、なんかおかしなものだったと、言った直後に気づいていた。男は足を止め、少し上の方を向くと

「俺は漁師だからな。職業病ってとこだな」

男の足が止まり、答えが返ってきたはいいが、別に真意で聞きたかったことでもない。僕は返す言葉に詰まっていた。少しの沈黙の後に男が海を見たまま話しかけてきた。


「死ぬのはいいけどよ…死ぬんだったら首吊りはやめた方がいい」


「えっ?」

「美しくない」

美しくない?なんだその理由。
こんな僕でも、首吊りは考え抜いた結果だった。ビルから飛び降りたり、特急列車に飛び込んだり、手首を切る事だって色々考えていた。人を巻き沿いにはしたくないし、家族に膨大な慰謝料や被害額を背負わせることもしたくない。自宅の風呂場で自死したら、家族は一生風呂には入れなくなるだろう。家も事故物件となれば売れなくなるはずだ。なのに「美しくない」?…。

「お前…『花吹雪』ってやつの話聞いたこと…んぁあ、あるわけねーな」

そこから始まった男の話はとても興味深いものだった。

千の顔を持ち合わせると言われる謎の男、花吹雪。姿すら誰一人まともに見たことがない故に、その真の姿はベールに隠されているらしかった。風に乗って現れ、花吹雪のごとく風に消える――伝説の暗殺者。年齢はおろか、男かどうかも定かではない。死の瀬戸際に、舞い散る花吹雪のなか遠ざかる背を目にするといわれているが、「野辺に打ち捨てられ死にゆく者が最後に見た光景を誰が知るというんだか」と、男は笑いながら話した。

でも、ただ一つだけ、分かっていることがあるという。

「そいつはな…確実に『美しく殺してくれる』」

僕はここに来た目的も忘れ、ごくりと喉を鳴らしながら男の話に聞き入っていた。

「美しく…殺す?」

「あぁ、花吹雪は『死を芸術にする暗殺者』だ」

「この間、木津川の砂州で中国駐日大使館の書記官が花見中に仏になっちまったって。あれも「花吹雪」の仕業だったんじゃねーかって噂だけどな」

僕は新聞で目にした書記官の死因が心筋梗塞だったことを思い出した。もしそれが、花吹雪の暗殺だとしたのなら…警察も欺くほどの見事なものだったことになる。死んでしまった今、その真相は結局「伝説」となっただけだろうけれど。

「人には気づかれぬほどに自然に、美しく殺してくれるんだってよ。暗殺者にしちゃ、乙な奴だと思わねーか?」

「かっ、かっこいいです」

即答だった。


男は今度は、ケッと音を鳴らして笑った。

「世の中にゃ死ななきゃいけねー人間もいるのは確かだが、命を奪うってこたぁ、罪には違いねぇ…。殺す奴へのせめてもの花向けに、花吹雪ってやつは、美しさを置いていくんじゃねーのかって…俺は思うんだがな」

そして、明るんできた空の映る僕の瞳を覗きながら、その左手をそっと僕の頭に置いた。

「坊主…自分の命に花向けできる死に方を手に入れるまで…」

僕の髪をぐしゃぐしゃにしながら、思い切り頭を撫でまくった。

「お前、それまで死ねねーな!」

僕は男の顔を見上げたが、水平線から顔を出した朝日が男の後ろから差し込んできて、見えたのは、優しく上がった口角だけだった。



「あぁー、朝日が登っちう前に出航しねーと。んじゃな坊主」

男がくるりと向きを変えて歩き出した。

僕は慌てて声を張り上げた。

「いつか…花吹雪さんに会えますかね僕!!」

歩みを止めた男の背中がクスリと笑ったように見えた。

「まぁ…生きてりゃ…」


「生きてりゃ、会えるんじゃねーの!」

男がケッと鼻で笑う音と共に、
桜の花びらが渦を巻きながら舞い、
いつの間にか男の姿は消えていた。




死ぬ理由は、もうどうでも良くなっていた。
それよりも、いつか…命果てる時。その時に自分自身に花向けできるカッコいい死に方が出来るように。
生きる理由を見つけようと、そう思った。

桜の花びらがひらひらと僕の額に落ちてきて、ふと木に目をやると、

枝から垂れさがっていたはずのロープが 

いつの間にか、跡形もなく消えていた。



(おわり)

*********************


Dekoさんの「花吹雪のアサシン」

そして、
ひよこ初心者さんの「花吹雪のアサシンのダブル・スピンオフ」


七田。。。やっちまいましたぁ。
読んだ瞬間に、書きたい衝動が込みあげてしまいました。
「えっ!!なに、この花吹雪っていうアサシン…かっこよすぎる!!」
と目がきらきらしちゃってですね。。。
止められませんでした自分自身を。

そして!!!なんと、私のスピンオフから、ひよこ初心者さんが 新たな『花吹雪』を描いてくださいました!!
私の中で、花吹雪の世界が開花してゆく。。。。幸せ。


小牧さんの#シロクマ文芸部のお題で「花吹雪」から始まる作品を書くというもの。
Dekoさんが、ものすごいものを生み出してくださいまして、感動というものを通り越して、うわぁーうわぁー!!Dekoさんの創作から生み出された「花吹雪」さんを私も書きたい!と、もうそれだけで頭の中いっぱいにさせられてしまいました。

もうですね。。。私がDekoさんの花吹雪さんに出会いたい…照。

オリジナルであるDekoさんの作品を汚していなければ良いのですが:)

ぜひ、是非!!まだ読んでいらっしゃらない方はDekoさんの作品を読んでみてください!!
もし、あなたもDekoさんの「花吹雪」を描きたい方があれば:)

Dekoさん、いつもいつも素敵なインスピレーションをありがとうございます!!!

有難うございました:)

七田 苗子

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