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アンバランス

 男女の賃金格差の原因を突き止めた研究でノーベル経済賞を受賞したClaudia Goldin氏(クラウディア・ゴールディ)の本『キャリアと家庭』は日本の男女賃金差の構造問題にも豊富な示唆を与えるとして話題になっていました。もちろん受賞後は今男女平等テーマに極めて関心の高い中国でもベストセラーになっています。

 中国語訳版は《事业还是家庭》(キャリアか家庭か)とまだ原作に近い訳になっていますが、日本語訳版はズバリ「男女賃金差」にフォーカスしてタイトルにしています。
 日本では、「2022年から常時雇用する労働者が301人以上の企業は、男女の賃金の差異を公表することが義務付けられました。集計の結果、女性の平均賃金が男性の69.5%にとどまるという数字になってい」るので、こちらのタイトルの方がより多くの関心を引くのでしょう。
 1878年〜1978年生まれのアメリア大学卒女性を5組に分けて、5組のキャリと家庭への追及の推移を時系列で見せており、キャリアか家庭のどちらかしか選べない世代から、キャリアと家庭の両立を求める第5組の世代への100年の間で、女性たち(特に高学歴女性)がいかにライフキャリア戦略を立ててきたかが詳細に描かれました。
 男女の賃金差は根本的には「時間」に原因すると指摘されます。
 男女賃金差が60%のある企業は、この賃金差は「同一労働の賃金に差はなく、等級別人員構成の差によるものです」と弁明します。しかし、本当に「女性管理職率を上げる」ことが解決策になりますでしょうか。
 私も、日本のこの平均男女賃金差は教育段階から始まる男女の専攻差から、社会人になってからそれぞれが選ぶ業界、業種、職種の差から来ているのではないかと思いました。しかし、Claudia Goldin氏はこれより原因がもっと深いところにあると指摘します。同じ業界、業種、業種でも、弁護士であれ、研究者であれ、医者であれ、平均賃金が高いと思われるところでもやはり男女の賃金差が埋められていないです。
 「時間」ー業務中、業務外、仕事に使える時間が長ければ、いつでも仕事に待機する状態を長く維持できれば、収入が高くなります。一方、フレシキブル、出産育児で生じやすいブランクに、世の中(企業)が処罰を与えています。業務の標準化、人員の代替性、フレシキブルな働き方に対する社会意識の変化がこの難局を打開する一つの解決策として提案されます。
 確かに、周りを見れば、時短制度が導入されており一見優しい制度とは見えますが、使っているのはほとんど家事育児負担の大きい女性社員ではないでしょうか。残業を減らしましょう、男性も女性も定時内で終わらせれば時間的に平等になるのではないかと思う人もいます。しかし、飲み会、ゴルフコンペなど業務外の時間も実は仕事の時間としてカウントされていますよね。このまま行くと、そこに参加しにくくなりがちな女性たちはどうしたら仕事の時間を男性と匹敵するように持っていけるのでしょうか。
 人員の代替性を高めようしたら、余裕のある人員配置が必要でしょう。しかし、2070年に人口が9000万人未満まで減ると予想される日本では、その余裕をどう持たせるのでしょうか。悲観的にならざるを得ないですね。
 生産性を向上すれば、少ない人員でも代替性を持ちながら男性も女性もワークライフにバランス良く時間を分配していけるのでしょう。もしかしてこれが日本の賃金差を始めるとする男女差を根本的に解決する策でしょうか?
 






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