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ミュージカル「この世界の片隅に」 感想

初日観劇後の興奮をそのまま文章化した荒削りな感想なのでもう少し考えがまとまったら改めて出すかもです。
あと極力ネタバレなしで書いていきます。


ミュージカル「この世界の片隅に」について

シンガーソングライターのアンジェラ・アキさんのミュージカル作曲家としてのデビュー作であり、国内だけではなく世界中で人気で映画やドラマ、また実写化までされている人気漫画のミュージカル版。
支えるキャストもクリエイターも超実力派。

全体の感想

※残念ながら私は本作の存在は知っていましたが、戦争ものとして敬遠して原作を読んでいないし、映像化されたものも見てこなかったので、未履修派の意見として、ミュージカル作品として、感想を書いていきます。

先に言ってしまうと、ミュージカル「この世界の片隅に」は間違いなく、今年のベストに入るクオリティと満足度を感じる日本オリジナルミュージカルの名作でした。

ちなみにブロードウェイやウエストエンド産のグランドミュージカルと比べると、壮大さや華やかさは欠けます。

とはいえ原作の持つ繊細かつ鮮やかな世界観と印象的な物語の中に、日本らしさを絶妙に織り交ぜたミュージカル楽曲、和紙を彷彿とさせる洗練された舞台セットと照明や音響効果、決して派手ではないけどコロコロ変わり、当時の文化が色濃く浮かぶ衣装、強いメッセージとともに見やすくまとまった脚本と盆を中心に印象的な演出。
まさに総合芸術、日本のオリジナルミュージカル作品としてのプライドと気迫を感じる作品でした。

しかもこの作品で描かれているのは、海外の人には絶対に描けない、原爆を受けた敗戦国の人々の物語。
本気でいつ海外に輸出されてもおかしくないし、この物語、この作品こそ世界に輸出されるべき作品だと思います。
だからこそ、この世界初演を見ないのは本当にもったいないです。

アンジェラ・アキさんの楽曲

まず、全体的にミュージカルに対して苦手意識のある人も聞きやすいミュージカル楽曲だなという印象でした。
ミュージカルが苦手な意図がよく言う突然歌い出す感があんまりなくて、セリフからスムーズかつ軽やかに歌唱に移っていきますし、童謡をサンプリングした楽曲への耳馴染みの良さも面白かったですが、何よりもアンジェラさんのソングライターとして耳にスッと入る楽曲が自然と作品に溶け込んでいました。
またこの溶け込みと役者の自然かつ確かな歌唱力の結果、歌のパフォーマンスに着目しがちなミュージカルなのに、各シーンの演技の表現に集中力が向かった気がしました。

原作へのリスペクト

前述した通り、原作も映像作品も全く見ていないので、新作ミュージカルとして観劇していましたが、それでもクリエイターやキャスト、この作品のカンパニー全体から原作へのリスペクトを強く感じました。
舞台面いっぱいに描かれるすずの絵たち、私にとっては作品の中の一演出ですが、原作を知っている方なら大きな意味を持つはず。
近いうちに時間ができればゆっくり原作を読もうかなと思います。


ざっくりキャスト評

本当に皆さん素晴らしかったのでそれぞれ書いていくとキリがないのでざっくり書きますが。

本作でほぼ出ずっぱりの浦野すずを演じる昆夏美さんは歌唱が素晴らしいのはもちろん、キャラクターが持つ愛らしさや純粋さから戦争や空爆が進むにつれて壊れていく人間の儚さや終戦とともに迎える絶望感と怒りの演じ分けが素晴らしく、圧倒されましたし。
白木リン役の平野綾さんの艶やかさと上品さが両立した歌と演技の表現力、黒村径子役の音月桂さんの誰よりも戦争に運命を翻弄されているのにも関わらず、強く逞しい演技は強く心惹かれるものでした。

男性陣だとすずの夫北条周作を演じる海宝直人さん、水原哲を演じる小野塚勇人さんはそれぞれ違う道や人生ですが、ミュージカルではなかなか表現されることのない等身大の田舎の人の人生を表現されていて、ハッとさせられました。

また、子役ちゃんたちのレベルの高さも素晴らしかったです。
黒村晴美役の増田梨沙ちゃんの一貫した無邪気さや愛らしさがシーンを追うごとに残酷に突き刺さって、戦争の絶望感・喪失感を浮き彫りにさせ、彼女のシーンから涙が止まりませんでしたし、すずの幼少期役の桑原広佳ちゃんの透き通るような、でも突き抜けるような歌声が作品全体に調和をもたらし、スッと心に落とし込めるパフォーマンスでした。

そして全員に共通して言えるのが、みんな本当に上手いから総合力が凄まじかったです。
シーンは前後しているのにもかかわらず、ほのぼのした幸せな田舎の暮らしが徐々に失われていく様を違和感なく落とし込めていけるのは、全パフォーマーは各シーンを丁寧にかつ情熱的に演じられているからであって、全パフォーマーの総合力を見せつけられた作品でした。


以上、初日観劇の感想でした。

最後に

最後に作品としては間違いなく名作ですが、作品との付き合い方は人それぞれで難しい作品だと感じました。
私は観劇後もずっしりと心に重くのしかかるメッセージやテーマを持つ作品なので、何度も通うことはないでしょうが、一度見て何を感じたか何を考えたかと言う自分の感情や影響を見つめられる作品だなと思いました。

こんな名作にも関わらず、東京公演のチケットもまだまだ手に入るみたいですし、全国八都市を巡る公演なので迷っている方は是非一度劇場に足を運んでみるのをお勧めします。

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