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なぜ建物には植栽が必要なのか ~知られざる建物と植物の関係性

造園家の小林賢二さんの講義を聞く機会があり、とても勉強になったので忘備録。(小林さんは伊礼智設計のi-works2.0などで協働されている)

植栽が好きな人はもちろん、植栽が建物に与える影響について理屈を知りたい人にもぜひ読んでほしい。

植物と建物

講義の冒頭では小林さんのバックボーンを語られていた。

なんでも造園からキャリアをスタートしたわけではなく、就職後に設計事務所に入社し、退職後にエジプトやトルコなどを旅行して造園に目覚めたらしい。

単に植物が好きだから造園をしているわけではない、というのがまず新鮮だった。

普段造園家と関わることがないし、施工事例でも設計者の考えは知ることができるが、造園のプロが解説するコンテンツも少ないため全ての情報が興味深かった。

旅行の際にハトシェプスト女王葬祭殿を訪れたそう。

これを見てこんなことを考えたという。

神殿は人間が作った人工物でシンメトリーな形状。一方そのバックの崖は自然物でアシンメトリー。
そこに建物だけがあっても単なる建物、同じように崖だけがあっても単なる崖。
異なる特徴を持つ2つが同じ場所に存在することでお互いの良さを引き出している。

建物はシンメトリーが多い人工物。いびつな形は基本的に無く、直線で作られる。

対して植物は枝や幹が曲がったりする自然物。

これを両方配置することで建物だけがある状態、植物だけある状態よりもお互いが引き立つ関係性ができる。

旅行をする前には植物には興味が無かったらしいが、このきっかけを経て植物に興味を持ったという。

日本では砂漠が無いから先の神殿のようなものは作れないが、日本の住宅で取り入れられやすいのは植栽ということに行きついた。

植物と石

対照的な2つ

小林さんは造園をする際、植物だけではなく石を必ず配置する。

https://kobayashi-atelier.com/ja/kka/garden/higashiyamato-o-house

植物は変化するが、石はゆっくりとしか変化しない。

石が無くても庭は作れるが、生まれたり朽ちたりする植物は石の隣にあるからこそ面白い。

いつでもそこに行けば見れる風景と変わっていく風景。

安心とときめきを住まいに作り、育てるのが庭のだいご味。

対照的な2つが並ぶことでお互いがよりよく見える。(最初の建物と植物と同じ)

落葉樹を植えると冬は葉っぱが無くなり寒々とした風景になるが、地面に配置した石はそのままなので石が主役になる。

真行草

真行草(しんぎょうそう)という考え方がある。

具体例を見てもらった方が早い。

https://plus.chunichi.co.jp/blog/yoshida/article/196/4972/

石の配置には大きく3つ。

歩きやすさと規律を重視した真。

真のうち半分ほどを崩した行。

不規則で歩きづらさ(遊び心)がある草。

本来は書道の字体を表すものだが、建築にも応用できる考え方。

石のアプローチに当てはめると、玄関までのアプローチは真や行で、庭は行や草という使い分けができる。

全部真にしてもいいのだが、それよりも崩した方が面白みが増す。

この事例でもアプローチではない裏庭は飛び石となっている。歩きづらさはあるが、自然に近い景色で安らぐ空間といえる。

https://kobayashi-atelier.com/ja/kka/garden/higashiyamato-o-house

もしくは家のテイストに合わせて使い分けもできる。

上質さ、格調の高さ、邸宅感を出したいなら真で統一。

隠れ家レストランや森の小道の先に家がある雰囲気を出したいなら玄関アプローチから草もアリだろう。

広さは違えど、アプローチはどの家にも作ることになるため、自分の家のテイストに合わせて真行草のどれが合うかを考えてデザインすると周りに立っているおうちよりも一段魅力が増すと思う。

庭とは

弱い存在との共生

小林さんの講義では設計士の方も登壇していた。

その際にこのように言っていた。

住宅の中にコントロールできないものを置くのが大切。
汚れに強い壁、生花ではなく造花などメンテフリーだけで固めるというように、自分がコントロールできるものだけ置くと居心地が悪い。
昔は障子を破ったり畳を引っかいたりと、弱いものと共生して大切に扱うことを学べた。庭で雑草抜くことも大切。弱いものが生活を豊かにした。
依頼主で全く木々を植えないでほしいという人も少しでも緑を入れてもらうように提案している。最初は興味が無かった人が住んでから水やりが好きになったというケースをよく見ている。

とても面白い考え方ではないだろうか。

家に限らずあらゆるアナログな作業がデジタル化されている昨今。

昔よりも便利になっているが、同時に人間らしさ、アナログの面白さを失っているのも事実だと思う。

音楽も昔はCDやレコードを買ったりレンタルして楽しんでいたが、今はサブスク一つで数十億の楽曲にアクセスできてしまう。

その良さもあるのだが、メリットばかりではない。

家を建てるのは生活を楽にするため、というのも1つの要素ではある。

家事楽導線が流行っているし、海外製食洗器やかんた君を入れる人も多い。

しかし、それだけで心地いい空間、生活ができるかというとまた違うのだと思う。

自分よりも弱いものと共存することから学ぶことがある。その一つが植栽ということ。

このように考えず植栽を使いたいと思う人も、深層心理では便利さとは違う豊かさを求めて植栽を好んでいるのかもしれない。

光との関係

植物の葉には光を集める効果がある。

葉がなければ光は地面に落ちるが、地面よりも高い位置に葉があることで植物が無かった時とは異なる空間になる。

https://kobayashi-atelier.com/ja/kka/garden/sakurakomichi

小林さんのノウハウ

おすすめ樹種

造園では様々な樹種を扱うものの、使用頻度が多い樹種を紹介してくれた。

特徴として手入れが比較的楽(永遠と大きくならず高くても5mで止まる)、成長がゆっくりなものを挙げている。

また落葉樹が多い。

  • クロモジ

  • マルバノキ

  • ナツハゼ

  • ブルーベリー

  • ヒメシャラ

  • アセビ

  • ソヨゴ

  • アオダモ

日本では昔から常用樹が住宅で多く使われてきた。庭師が家に来て、お金ではなくご飯を振舞って金銭的なやり取りはなしということもあったそう。

しかし今はそういう文化はない。

また常用樹は葉が落ちない点は管理面で楽だが、手入れをしないと自分では手を付けられないほどに成長すること、葉もどんどん生い茂ってしまう点がデメリット。

その点、先に紹介したような落葉樹は一定の高さで成長が止まるので扱いがしやすいという。

これは隣家との距離や土地にもよると思うが、常用樹は楽というのも葉に関してであり、定期的な剪定を業者に依頼しないと大変な状態になるということは頭に入れておきたい。

小さな家庭菜園

「畑ほどじゃないけど少しだけ家庭菜園ができるスペースがほしい」

という要望をされる人が一定数いるそう。

その時にとても面白い手法を取られている。

家庭菜園のためのスペースを作るのではなく、玄関アプローチに配置。かつ、石のアプローチの場合石を伸ばして苗を入れられるニッチのようなスペースを作るそう。

https://kobayashi-atelier.com/ja/kka/garden/shibuya-u-house

すごいのが苗に伸びている石は収穫など手入れをする際の足場にも使えるということ。

これがあるだけで作業がしやすくなるらしい。

実用も兼ねつつ、大きなスペースを取らないように自然に玄関アプローチに家庭菜園を作るという発想が素晴らしいと思う。

日当たりがいい南の庭、実は大変

異常気象で夏の気温が35℃を超えることが増えている。

植物は日当たりがいい場所の方が育ちやすいが、暑すぎるのも環境としてはよくない。

昔は南に庭を取れる土地がよいとされていたが、今は南に庭を作ろうとすると使える樹種を提案するのが大変。

日陰や半日陰を好む雑木や花木は多い。日向に比べて水やりの管理も楽で雑草も生えづらいため、南じゃないといけないわけではない。

同様に南接道は室内の日当たりもいいから人気であり、土地価格も方角的には一番高い優良な土地とされている。

しかし、個人的には南接道には道路からの視線を切るための工夫が必要でプライバシーが守られづらい、窓が多くなり外観を損ねがちというデメリットがあると考えている。

南にこだわらずとも植物や日射取得ができる土地なら南接道以外も十分に選択肢になる。

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