高額なHMにしたことで機能性を落とすのは本末転倒だという話
YouTubeのおすすめで社内コンペか何かで「設計優秀賞を受賞した積水ハウスの家」が流れて来たので見てみた。
正直、TwitterでFFの積水施主のおうちのがオシャレだと思う内容だったけどそこは人によるので置いといて気になった点があった。
それは廊下の大型収納を仕切るのがカーテンというところ。
カーテン建具収納について整理。
メリット:(動画でも書いてある通り)安い
※動画で「抑えられますし」の続きは「圧迫感がない」と言っているので、それはカーテン限らず建具も同様
デメリット
(建具収納に比べて)意匠性に著しく劣る
埃がカーテンにもつくし収納内にも入り不衛生。綺麗にしようとすればカーテンを定期的に洗濯する必要があるが、これだけ大きいカーテンを洗濯する労力を考えると掃除はしない状態が続くと考えるのが自然。埃もハウスダストも溜まっていく。それをしても収納内に埃は溜まる
抑えが効かないので地震時に収納しているものが全て落下する
子供が収納の中のものに触れて危険
このように安さしかメリットはない減額のための手段である。
さらに気になるのが、カーテン収納はYouTubeやInstagramで他の積水のおうちでも数軒見たことがあるということ。
積水内で定番の提案として流行っているのだろうか。
根本的な問題は、建築費用が高い積水で建てるのにこれをやることだと思う。
タマホームのようなローコスHMでも「予算ないなら収納建具はカーテンにしましょう」と提案しないはず。
それを高い家を提供している積水で採用し、機能性も意匠も落とすという選択をするのはおかしいと思う。
もっと安い会社で建てるべきとまでは言わないが、本当にこの建具の費用をどうやっても出せないぐらいカツカツだとしたら考えものである。実際は外構も完成しているようなので、他に回してしまったのだと思う。
これが家族しか通らないプライベート空間でも見た目以外の問題があるのでよくないと思うが、LDKがある1階のメインの廊下に使用しているので来客が通る場所に採用している。プライベート空間だから減額しました、というわけでもない。
念のためだが、この家がダメとか言うつもりはない。住んでいる人が幸せならそれでいい。
ただこの事例が積水で何回も出てくるので、本来積水で建てられないぐらいの予算の人を無理に囲っているのか、もしくは予算はあるのに「収納はカーテンで大丈夫ですよ」という提案を積極的にしている可能性があることに疑問を感じる。
このようなことはHMに限らない。プレミア価格で提供されるスーパー工務店では4人家族24,25坪の家がある。
都内のようなペンシルハウスしかたたないような土地でもなく、土地に余裕がありながら狭小を建てる例。そのために浴槽を削ってシャワールームだけにしたというケースも見かけるが本当に施主のためになっているのか疑問である。
個人的に入浴習慣が少ないなら狭小地でシャワールームにするのは間取りの自由度が高くなるのでいいアイデアだと思っているが、狭小地でもなく小さい子供がいるのに家に浴槽が無いことはデメリットが大きいと思う。
自分達はいいかもしれないが、子供は毎日入浴したいのではないだろうか。その選択肢を取り上げて幸せなのだろうか。
浴槽入浴とは体を洗う行為ではない。体はシャワーで洗っているのでリラックスする手段である。私自身も思春期の時に思うようにならないときに浴槽に入り、ボーとするような時間があったがそういう時間が人間には必要なはず。体を洗うために必要あるか無いかで考えることではない。
冬に部活から帰ってきたときの入浴は絶対に必要だった。自転車通学で体の芯から冷え切った状態でシャワー入浴では寒くて仕方なかったろう。
こういった暮らし方を選べない原因が高額なスーパー工務店に頼むことであり、他社なら27坪どころか30坪で風呂もつけられたはずの人が浴槽をカットするというのは施主のためとは思えないのが正直な気持ちである。
だからタイトルは「高額なHMにしたことで機能性を落とすのは本末転倒だという話」となっているが、正確には「身の丈に合わない会社で無理に建てるせいで機能性を落とすのは本末転倒」というのが正確な表現である。(繰り返しだが、事例の家が身の丈に合ってないという意味ではないし、積水がダメなんて話でももちろんない。基本的に家の評価は会社じゃなくその家一軒一軒がどうかという話に過ぎないと思ってます。担当が違えば全然違う家になるため)
脱線したが、先の動画の別のパートではLDKはダウンリビングになっていた。
高さ400㎜なので1段必要になるが、そこにあったのがこれ。
まず固定されていない。踏んだり生活の中で掃除機や人がぶつかれば動いてしまう。
固定されずに動かせる方がいいという人もいるかもしれないのでそこはいいとして、明らかに踏み板の奥行きが短い。
これを使って上がるとすると足が半分は浮くような形になるはず。
つま先あたりを少しだけ乗せて上がるということになるが、そこまで狭いリビングでは無いのになぜ踏み板の奥行きが短いのかと思った。
この辺も含めて、予算の問題というよりはあまり機能面に重きを置かれない提案がされたのかもしれない。何のコンペか分からないが、設計優秀賞を取ったコンペでの設計とは「暮らし」ではなく「意匠」なのだと思った。
本来「design」という言葉は「設計」を指し、問題解決の手段とされている。日本ではパターンや模様のようなグラフィックデザイン的な狭義の意味で「デザイン」が使われる。デザイン=オシャレなもの、クリエイティブなことだとされている。
素人なら混同しても仕方ないが、プロでも設計は機能性を無視した見た目だけを評価するようになってしまっているのだろうか。
その辺の事実関係は憶測でしかないが、これから建てる人は(積水に限らず)予算の削りどころを間違えないでほしい。
優先順位で最優先は機能である。そこには性能も含まれるが、別にG3にしようということではなく、ちょうどいい塩梅の性能は絶対に確保。今回はその一つが収納建具だった。
それをしたうえで意匠や外構に振っていく。これが王道であり、正しい家づくりだと思う。
中には不便を理解していてログハウスを建てる、牧割りやすすの掃除をしても暖炉が欲しいという人もいる。全面ガラス張りにしたいという人もいるかもしれない。それはそれで構わない。
そういう特殊な趣味がない限り、家には最低限の機能が必要で、注文を建てるのにわざわざ不便な家を建てるのはどうなのかなと感じるので、カーテン収納に限らず予算カットで間違った判断(不便を生み出す)をしていないかは一つの基準として持ってもいいと思います。
個人的には30坪で不便がある予算取りなら29坪、29.5坪で不便がない家の方がいいと思う派です。先のカーテン収納を建具にするなら少しでも坪数を削れば余裕でつけられるので、設計中の人が仮にそういう状況になったら坪数を減らすなど優先順位を見直しましょう。
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