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事件前夜~陳さんの警告~

私は台南に留学していた10ヶ月、自分でも笑ってしまうくらい「小事件」に巻き込まれたり、おかしな経験をしたりしてきたなと振り返ってみても思う。
楽しい出来事、素敵な出来事のほうがもちろん多かったとはいえ、帰国後友人に「台湾、どうだった??」となんともアバウトな質問を投げかけられた時、真っ先に頭に思い浮かぶのはこうした「事件」のほうである。

逆にそんな経験をしておいて、よく台南が大好きになれたな、と感想をもらうことも多い。
今回はそんな事件簿②の前夜ともいうべき出来事(時系列的に、事件簿①から話すことになるから②とする)について軽く触れておこうと思う。

前の記事で陳さんと博物館に行ったその日(ぜひ前の記事も見てほしい)、夜ご飯を食べたあとはむ家に戻ってくつろいでいると、長期滞在者の二人、丸顔の劉さんと小太りの台湾人男性も仕事から帰ってきた。

私は劉さんにすっかりなついていたので彼らと中国語でぺちゃくちゃ喋り、陳さんは私たち全員の「お母さんポジション」といった感じでそれを見守っていた。たまに台湾人男性陣に中国語や台湾語でツッコミを入れ、私には日本語で話しかけてくる、といったふうだった。

最後にその二人が自室に戻ると、陳さんが私に向き直った。そしていきなり、
「ねえあなた、あの二人を”大哥(お兄さん)”と呼んだほうがいいよ」
と言う。

え、なんでですか?普通に名前で呼んでいるけど。と少し困惑しながら言うと、

「あなたが彼らにとてもフレンドリーで仲良しなのは素晴らしいことだけど、私としてはちょっと心配なの。いくら相手が30代半ばであなたと年齢が離れているといっても、同じ空間で生活している以上そういう感情を持たれないとも限らないでしょう?『お兄さん』と呼ぶことで、あなたにとって彼らは兄弟のようなポジションで、そういう存在には絶対なり得ないということを明示したほうがいい」

ま、そんなに心配することじゃないとは思うけど、と陳さんは肩をすくめた。

多分私が陳さんの息子さん世代と近いし、まもなく彼女は台北に行ってしまうから私のことを心配してくれているのだろう。私はそう考え、それほど深刻には捉えなかった。
「わかった、そうします。陳さん今日はありがとう」
それだけ言って、その日は終わった。

この時は、あんなことが起きるなんて、全然予想もしていなかったのだ。

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